第159回マーケティングサロンレポート「DXとブランド」 |
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第159回マーケティングサロン:オンライン
テーマ:DXとブランド
日 程:2022年8月2日(火)19:00-21:00
場 所:Zoomによるオンライン開催
ゲスト:田中 洋 氏(中央大学 名誉教授 / 日本マーケティング学会 元会長 / 日本消費者行動研究学会 前会長)
田中 準也 氏(株式会社インフォバーン 代表取締役社長)
鈴木 健 氏(株式会社ニューバランスジャパン マーケティング部 ディレクター)
サロン委員:香川 勇介・田中 智子・村杉 暢子
*デジタルマーケティング研究機構(DMI)との共催
【ゲストプロフィール】
田中 洋 氏
1951年名古屋市生まれ。京都大学博士(経済学)。1975年(株)電通入社、同社マーケティング・ディレクター、法政大学経営学部教授、コロンビア大学大学院ビジネススクール客員研究員、中央大学ビジネススクール教授などを経て2022年より現職。
田中 準也 氏
1990年クレディセゾン入社。その後ジェイアール東日本企画、電通、トランスコスモス、メトロアドエージェンシー、電通レイザーフィッシュを経て、2015年インフォバーン入社。2017年に取締役に就任。2021年より現職。
鈴木 健 氏
株式会社ニューバランス ジャパンマーケティング部 ディレクター
1991年広告代理店の営業としてスタートしナイキジャパンで7年のマーケティング経験を経て2009年にニューバランスジャパンへ。マーケティングの責任者を務める。2020年より現職。
【サロンレポート】
デジタル時代の目まぐるしい変化の中、マーケティングにおいては、企業が主導権を握り、顧客コンタクトポイントとしてのメディアやチャネル戦略が重要だった時代は終焉を迎えた。新しいテクノロジーやプラットフォームに“適応”しながら、企業や製品・サービスと顧客との間、あるいは顧客間の価値形成及び継続的なリレーションはどのように作り上げるべきなのか。ブランディングを実行するために必要な視点、意識、行動について、以下のテーマで、田中準也氏のファシリテーションのもと、座談会形式で議論していただいた。
テーマ①ブランディングのお作法の変化
テーマ②うまくいっているブランド、うまくいっていないブランド
テーマ③ブランドが必要ない製品サービス、ブランドが必要な製品サービス
テーマ④現代におけるブランドの必要性
本記事は1時間半に及ぶディスカッションのうち要点を中心にレポートする。
1. 座談会
テーマ①ブランディングのお作法の変化
デジタル時代において、情報伝達力が昔と違い格段にアップしている。消費者の行動は、情報過多になっている分、情報処理ステップが単純化し、より短い経路で意思決定する傾向にある。また情報を得る経路が複雑化し、瞬時で行動を決める傾向にある。そのため、ブランドは従来より検索されやすく、またブランドの持つ情報がより顧客に活用されやすい状態にあることが重要になってきている。
デジタル時代のブランドの在り方は一義的・機能的な意味が強い「ブランドの信号化」と、理念・哲学・考え方が強い「ブランドの理念化」、この2つの方向性をもたらしているのではないか。DXは、機能的、カテゴリー、最適提供等ある意味信号化を促進させるものかもしれない。一方、理念化はそれに対するアンチテーゼ。人間は機能だけでは理解できない部分がある。アップルやテスラは、デジタルを取り入れているが、何かしら理念がある。
テーマ②うまくいっているブランド、うまくいっていないブランド
テーマ③ブランドが必要ない製品・サービス、ブランドが必要な製品・サービス
うまくいっていないブランドは、『日本』かもしれない。消費者領域では弱い印象。韓国の方が、K-POPやサムスン等ブランドが強い。
ブランドが必要ない製品やサービスは、例えば、機能性の高いZoomやサブスクリプションモデル。消費者が使用経験により、便利なサービスとしてリピートしている。
一方で、ブランドが必要な製品は、「買う前に品質がわからない→買った後に品質がわかるもの(FMCGなど)」や、「買う前も、買ってからも品質がわからないもの(美容など)」ではないか。
ブランドがうまく機能している例として、リクルート社のAirブランドがある。元々はレジだが、中小企業向けの「資金調達サービス」などいくつものソリューションを生み出している。
ブランドの信号化が進むと、ブランドが必要ない製品になる可能性がある。例えば消費者ランキングトップ3といったデジタル情報だけで購入を決める行動が起きている。ブランドマネージャーとしては焦るが、幸いシューズは買う前に品質がわからない製品であり、そのためのコンテンツ等ブランドマーケティングが必要と考えている。
テーマ④現代におけるブランドの必要性
ブランドの理念化とパーパスやミッション等との関連において、パーパスやミッションという言葉の成り立ちを追ってみるとこれらは宗教的要素が強い。こうしたベースは日本では薄いので、馴染むのかはわからない。一方で、パーパスやミッションは、従業員に対して、いわゆるエンプロイーエクスペリエンスとしてブランドを浸透させるきっかけとして有効かもしれない。ニューバランスでは最近パーパスを定義し、自分たちの働いている意義や社会や地域とのかかわり等考えるきっかけになったと思う。他社では、スターバックスは良い事例と言える。
いずれにしろミッションやパーパスやクレド等は、単なる言葉づくりではなく、行動への指針等何らかの役に立つことが重要と考える。
2. 座談会を終えて
あっという間に1時間半の座談会が過ぎ、その後の質疑応答でも、企業のパーパスとブランドのパーパスとの違いがあるか、DX推進するあまりブランド毀損になった事例があるか等活発に議論がなされた。
通常の一人の講演と異なり、それぞれの領域で強みを持つ3氏が自己の持つ観点から自由に対談することにより、より事例に深みが出る等相乗効果の高いサロンになったと感じた。
(文責:村杉 暢子)