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第162回マーケティングサロンレポート「応援消費~ロス野菜再生でフードロスと地域課題に挑む事例を通じて」

#いまマーケティングができること

第162回マーケティングサロン:オンライン
テーマ:応援消費~ロス野菜再生でフードロスと地域課題に挑む事例を通じて
 
日 程:2022年10月14日(金)19:00-20:30
場 所:Zoomによるオンライン開催
ゲスト:水越 康介 氏(東京都立大学 教授)
    竹井 淳平 氏(株式会社hakken 代表取締役)
ファシリテーター:高橋 千枝子 氏(武庫川女子大学 教授)
サロン委員:高橋 千枝子・小島 弘雄・和田 久志
 
【ゲストプロフィール】

水越 康介 氏水越 康介 氏
東京都立大学 経済経営学部 教授
2005年、神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(商学)。専門は市場戦略論(マーケティング論)、インターネット・マーケティング。2022年7月に『応援消費―社会を動かす力』(岩波新書)を刊行。

 
竹井 淳平 氏竹井 淳平 氏
株式会社hakken創業者・代表取締役
大手商社での海外勤務を経て、2017年に独立して様々な事業に携わる。2019年に株式会社hakkenを設立し、行列解消のための整理券アプリ、コロナ禍でのオンライン料理サービス等を開発。根本的なフードロスの課題解決に向けて、2021年よりロス野菜の再生事業を開始し、再生拠点を増やしている。現在、定住している家がない。(https://about.hakken.io/
 
【サロンレポート】
 被災地の製品購入、ふるさと納税やクラウドファンディング、推し消費など、応援のための消費が広がりつつある中、今回のサロンは、研究者と実務家がそれぞれの視点で、「応援消費」に関するマーケティングについて語っていただき、サロン参加の皆様とともに議論を深めました。
 
 第1部では、新刊『応援消費―社会を動かす力』を刊行された東京都立大学教授 水越康介先生より「応援消費」の経緯・社会背景や現状についてお話いただきました。
 「応援消費」は経済学の消費行動とは異なり、“自己の効用の最大化”を目的とするのではなく、他者のために消費する、あるいは、他者のために購⼊することが、⾃⼰の効⽤に寄与するという消費行動をさします。日本では、2011年の東日本大震災以降、「倫理的な側面」を持ちながら広がりましたが、その後、若い世代を中心に好きなアイドルを応援する「推し活」なども含みながら、企業やブランドにおいても、「いいモノをつくる」から、「応援される(愛される)企業・ブランドになる」ためにはどうすればよいか、ということがマーケティングのテーマになっています。コロナの影響もあり、2020年から再注目をあびていますが、「応援消費」が広がった背景として、寄付やボランティアよりも消費の方が障壁が低く、互いがWin-Winになれること、さらにはマーケティングとの結びつきのある新自由主義的発想の広まりなどが挙げられていました。
 

 
 このような「買うという行動が相手のためになる」という発想や流れが、今後、社会的に意味のある形で、どのように発展していくのか、さらには、このような流れの中で、どのようにマーケティングを活用していけるかが重要となる、というお話で第1部を締めくくりました。
 
 続いて第2部では、規格外や期限切れなどで廃棄される野菜を生産地で乾燥・加工する分散⽣産システムでフードロスだけでなく地域課題解決に取り組む株式会社hakken代表取締役 竹井淳平氏より、取り組み内容や課題についてお話いただきました。
 竹井社長がフードロス事業を始めたのは、日本で生産される野菜1200万トンのうち400万トンが廃棄されているにも関わらず、実は食事に困る人たちが大勢いるという“矛盾”が世界中に数多く存在しており、このような“矛盾”に満ちていることを解決したいとお考えなったことが、理由として挙げられました。
 

 
 廃棄野菜を減らす上で、竹井社長がとったアプローチは、廃棄野菜を再生保存食品(野菜の水分量を減らすことで軽量化しつつ、栄養価はそのままで、保存性や利便性をアップした食品)にすること。それによって、野菜の廃棄だけでなく、野菜を運ぶ際に排出するCO2量も削減できるといいます。
 このような事業に対して、竹井社長は自社だけで進めるのでははなく、地元の企業や自治体を巻き込んで一緒に商品の開発・販売に取り組み、成功と失敗を分かち合うというスタンスをとっています。廃棄野菜400万トンを減らすためには、自分たちの力だけでは到底及ばないため、皆を巻き込みながら進めることが大事だとおっしゃっていました。
 

 
 さらには、乾燥ロス野菜を開発・生産を通して地域を巻き込み、その地域ならではの悩みや大切なことを理解し解像度を上げて、その地域に適切な提案をしてく。それを推進する地域商社の役割を担いつつ、独占せずに地域を巻き込むことで解決の速度を上げていくことができる。このような竹井社長の取り様々な組みを通じて、地域課題の解決のヒントとなるお話をたくさんいただきました。
 
 第1部と第2部を受けて、第3部では、水越先生と竹井社長によるディスカッション、ならびに質疑応答を行いました。
 水越先生から武井社長に対して、フードロス事業においてどのくらいの人が「応援消費」を行っているのか、という問いに対して、竹井社長からのまだほとんどが「応援消費」ではないという回答から、生活者への適切な情報発信の難しさに話が及びました。
 近年、非常に多くの情報が流通しており、その中で生活者が消費できる情報は限られた状況にあります。その中で、世の中の人たちに情報を届け、応援される対象に入るためには、非常に工夫が求められています。このような時代における情報発信では、一見、認知がないと厳しいのでは、という見方もありますが、SNSなどのメディアの台頭によって、企業体力に関係なく情報発信が可能となっているため、逆に、企業体力があり認知のある企業こそが、うわべだけの情報発信ではない、本気のメッセージを届けないと、応援されないというお話がありました。このような情報発信のお話は、NIKEのアメフトのキャパニック選手を登用したコミュニケーション事例を取り上げながら、活発な意見が交わされました。
 
 また、情報発信に関する竹井社長の工夫として、自分たちだけが発信するのではなく、一緒に取り組んだ人や自治体も一緒に情報発信をしてもらう、というお話がありました。今まで情報発信をやったことがない人たちも、その人たちになりに情報発信をしていただく。ただし、途中でつまずいてしまうことがあるが、その際は、届け方のアイデアや情報などを提供し、それを聞いた人たちが、また前向きに情報発信していく。自分たちのリソースだと限られているが、一緒にプロジェクトに取り組んだ人たちも巻き込んで情報発信していくということが工夫のポイントとして挙げられていました。それに対してサロン参加者からは、地域で情報発信が苦手な人が多いが、そのような人たちと一緒にプロジェクトに取り組む際、あえて情報発信に取り組んでもらうことで、情報に温度感・熱量が乗ってくるとともに、地域の自立にも繋がるという感想がありました。
 また、「応援消費」の事例として出てきた「ふるさと納税」の今後の行方に関してもディスカッションしていただき、今はお得文脈で各自治体が取り組んでいるものの、飽和している感があり、今後は、お得文脈のマインドを変えるような文脈の提示が重要という意見がでました。その際のポイントとしては、“消費をするという行為”ではなく、面白さ、楽しさ、などの要素を含みつつ、地域の課題解決や戦略を考えるなど、“地域にかかわることができる”ということがお得文脈を変えるアイデアとして出され、議論が盛り上がりました。
 

 
【サロンを終えて】
 予定の1時間半をこえて議論が続くなど、オンラインであっても、登壇者とサロン参加者が一緒に考えるサロンらしい会になりました。企業や自治体において、生活者からどのように応援される存在となるか、水越先生の「応援消費」の現状の整理や、竹井社長の地域課題への取り組み事例、さらには、その後のサロン参加者も交えたディスカッションの中に、様々な気づきやヒントがあり、発想が刺激されるサロンになったと思います。皆さま、ありがとうございました。
 
(文責:和田 久志)

 
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