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第165回マーケティングサロンレポート「『進化するブランド』オートポイエーシスと中動態の世界」

#いまマーケティングができること

第165回マーケティングサロン:オンライン
テーマ:「進化するブランド」オートポイエーシスと中動態の世界
 
日 程:2022年11月28日(月)19:00-20:30
場 所:Zoomによるオンライン開催
ゲスト:石井 淳蔵 氏(神戸大学 名誉教授 / 流通科学大学 名誉教授 / 碩学舎 代表取締役)
サロン委員:清水 信年(モデレーター)、吉田 満梨、太田 昌宏
 
【サロンレポート】
 ブランド論の泰斗、石井淳蔵先生が8月に上梓されました『進化するブランド:オートポイエーシスと中動態の世界』についてお話を伺いました。
 

 
【概要】
1.本書でのブランドと組織のイメージ
1‐1.本書でのブランドイメージ
 「ブランド:価値の創造」(岩波新書)の中で提起した「企業と生活者の交流の媒体(資産)としてのブランド」が本書でのブランドイメージである。
 その特徴は、生活者と企業・事業との共感・信頼の醸成され、過去から未来に向けて続く秩序をブランドみずからが創り出す事である。つまり、「ブランドは、みずからダイナミックに姿を変える」のであり、これはオートポイエーシスとよく似ている。オートポイエーシスは、日本語では「自己制作」と訳され、生命が自身の細胞を創り出しつつ成長する姿を現している。
 ブランドとしてのオートポイエーシスのカギは、「ブランドらしさ」である。「らしさ」に沿った意思決定が続くことで、「らしさ」の姿が生まれる。
 
1‐2.組織論における組織イメージ
 欧米で発展した組織論は、統一、専権、精密、複製と言った言葉が当てはまるイメージだが、日本の組織は、人と人とが関係し合い、歯車ではなく、自分の力を発揮したいと感じる、多様、分権、寛容、革新と言った言葉が当てはまる組織イメージだと感じている。
 
2.2つのブランドのタイプ

  欧米型:ブランドポジションの追求 日本型:ブランドらしさの追求
ブランドの性格 不変のアイデンティティ 変化するアイデンティティ
方法論 企画・管理と実行の分離 実践による方向づけ
目標 ブランド競争ポジションの追求 ブランドらしさの追求
ブランドの成長経路 セグメント追加的
不連続
質的変容
連続的
反進化・進化型 反進化型:市場の中にブランド 進化型:ブランドの中に市場

 
3.<ブランドらしさ>の動き
 ブランディングの最小限ルール=「らしさ」を守る!
 「らしさ」の働きとしては、①横展開を可能にする②ブランドの姿が変容する③実践のなかから戦略や目的が生まれる④ブランド世界がアップデートするがある。
 「らしさ」に沿った意思決定のネットワークの中で、自己の姿がかわっていく。つまり、オートポイエシスのメカニズムと同様に、ブランドらしさが、ブランドらしさの意思決定を導き出し、そのブランドらしさの意思決定がブランドらしさを確立・変容させていく。
 
4.日本的ブランドの意義
1)ブランド発展の条件
・唯一のルールは、ブランドらしさを守る事である。
・ブランドらしさへの誇り、自由闊達な組織がブランド発展の条件と考えているが、それ以外にも考えられるかもしれない。
 
2)日本人の経営スタイル
ヘンリー・ミンツバーグ『私たちはどこまで資本主義に従うのか』ダイヤモンド社2015年
・現場近くにいるリーダー:コミュニティシップ
・ホンダ:自己創発的、自己生成的な動きを創り出す
 平井一夫『ソニー再生』日本経済新聞社2021年
・ブランドへの強烈な志向:盛田、大賀、出井、平井⇒(盛田氏のエピソードを大切に)
・「自由闊達にして愉快なる理想工場の建設」⇒設立趣意書(1946年にこの表現が)
・組織には知恵が詰まっている!⇒全国行脚の本音会議
 小林一雅『アイデアをヒットさせる経営』PHP研究所2022年
・わかりやすさ=誰でも参加できる
・衆知を集める
・謙虚であれ⇒「新製品が生まれた」「中動態」的発想
       個人が誇示することで日本の組織は崩れる
 
3)日本の組織における自由闊達さ
・日本人の働き方
 スーパー店頭のマネジメント⇒時間給のパートがPDCAを回す
・中央省庁の課長⇒前任の仕事は否定しないが、自分の足跡を残す。伝統と革新
・常に改良改善への意欲を持つ日本人
・職場は報酬を効率よく稼ぐための場所ではない
・働き甲斐や生き甲斐を創り出す場=コミュニティ
・Google・テスラが昭和の日本のようなスタイルのマネジメントをしている
 
4)日本的経営 / ブランディングの特徴
・環境の出来事の中から選択的に取り込んで消化する。
・同一性を失うことなく、革新を続けることができる!
*昨今、官民挙げて、欧米流の経営スタイルの導入に熱心な風潮が観られるが、日本の土壌で育ってきた経営スタイル(「らしさ」に沿ってみずからを律する)が、失いつつあるのではないかと危惧している。
 

 
【Q&A】
Q:生活者も「らしさ」を創るメンバーとなり得るのか?
A:この本の中では、企業組織の中の人達が「らしさ」を創っていると考えている。ただ、昨今の企業活動を観ていると、重要顧客を取り入れる仕組みも議論されている。今後さらに本格化するかどうかはもう少し観察が必要だと思う。
 
Q:外部から幹部を登用する企業が増えている中で、そのような企業はどう「らしさ」を堅持し育てていくのか?
A:外部の人材やノウハウに頼る企業は、そもそも「らしさ」を維持されていないのでいか。ソニーの平井社長のように「組織には知恵が詰まっている」と考え、数多くの従業員と本音会議をするような会社が、「らしさ」を強固なものにできるのではないか。
 
Q:「らしさ」にこだわるのは、日本人は欧米のように「宗教」ではなく「集団」に依存する国民性が影響しているのでないか?
A:日本人は、概念化するのが苦手なことが要因ではないか。日本人は「中動態」の言語用法を「古事記」の時代から大事にしていて、「モノ」ではない「コトの世界」を表現してきた。現象を、変化しつつある「コト」のまま把握できるので、ストーリーで語るのは得意だが概念にするのは苦手だ。他方、欧米人の言語には、この中動態の用法がないので、現象を一定不変の存在たる「モノ」に変えて(つまり、概念化して)把握するのが得意だ。
 
Q:最近、「らしさ」を大切にしている企業は、海外の方が多いのではと感じている。「らしさ」を維持出来ている組織とそうでない組織の差は何なのか?
A:日本型ブランディングが海外に広まったと考えられるし、日本はオートポイエシス的ブランドの展開をどこかで見失ったのかもしれない。そのいずれかは、今後考えたてみたいテーマである。
 
【サロンを終えて】
 21年5月のサロンに引き続いて、ブランドについて深く考えさせられたお話で「進化したブランドがどうして、日本において誕生したのか」少し理解できた気がします。
 また、「唯一のルールは、ブランドらしさを守る事である」は、長い歴史のオーナー企業をクライアントに持つ私には、大切なコンサルティングの指標の一つになりました。
 色々な視点で考えることができた貴重な時間を頂き、ありがとうございました。
 
(文責:太田 昌宏)

 
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