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第133回マーケティングサロンレポート「ブランド経営を理解する」

#いまマーケティングができること

第133回マーケティングサロン:オンライン
テーマ:ブランド経営を理解する
 
日 程:2021年5月25日(火)19:00-20:30
場 所:Zoomによるオンライン開催
ゲスト:石井 淳蔵 氏(神戸大学 名誉教授 / 流通科学大学 名誉教授 / 碩学舎 代表取締役)
    吉田 満梨 氏(神戸大学 大学院経営学研究科 准教授)
    西口 智美 氏(武庫川女子大学 経営学部 准教授)
サロン委員:清水 信年(モデレーター)、太田 昌宏
 
【サロンレポート】
 5月に出版されました「1からのブランド経営」の編者のお一人で、自らも執筆を担当されたブランド論の大家の石井淳蔵先生をお招きして「ブランド経営を理解する」というテーマでお話を伺いました。さらに、同書で同じく執筆を担当された吉田、西口両先生にもご担当章のポイントをお伺いした後、三者による対談をお聞かせいただきました。
 
【概要】
I.「1からのブランド経営」の強調ポイント
・経営者の「ブランド」の理解が経営における「ブランド」の役割を決める
・他分野の研究知見の活用により、「ブランド」理解は多面的になってきている
・「ブランド」資産は、継続的なマーケティングの成果 → ブランドヒストリー
・「ブランド」資産は、顧客の体験と一体。→ 顧客の反応から学び、次に生かす
 
II.「ブランド経営を理解する」
1. はじめに
① 平成は衰退の時代、中後進国型の経営!?
 企業の時価総額の推移を見てみると、平成の初めには、世界のベスト20の内の17社を日本企業が占めていたが、30年後には1社も入っていない。
 系列化や株式の持ち合い、メイバンク制などに代表される日本的経営は、中後進国型の経営と言われ、DXへの対応の遅れの原因と言われている。
 
② 顧客関係の手直し~ブランディング
 しかし、長年続いてきた日本的経営にも良さがあり、その良さを加味しながら環境変化に対応する方法として、ブランドを軸とした経営があるのではないかと考えている。
 

 
2. マーケティングの効能、ブランドの効能
① 成熟期に活躍するマーケティング
 市場の成長が鈍化してくる成熟期こそ、マーケティングの出番だ。当たり前のことのように思うが、意外に多くの会社が理解していない。市場が伸びなくなると新規技術や海外等、新しい市場に目を向ける会社が多いが、自社の培ってきた強みを生かせる国内でやれることは色々あるはず。P&Gや花王、サントリー、グリコのようなマーケティングが優れている会社は、成熟市場でビジネスを展開している。
 
② マーケティング戦略空間を拡張するブランド
 マーケティングをやるには、ブランディングが必須だ。ブランドを欠いたマーケティングはないのではないかと考えている。マーケティングは、以下の3つをやれば良い。
 
<マーケティングの三段跳び>
ホップ:生活者インサイトを掘り起こす
ステップ:新しい顧客関係を創り出す
ジャンプ:関係をブランドでつなぐ
 
 クリステンセンの著書な中で、「ミルクシェイクの顧客関係を切り替える事例」(詳細は「1からのブランド経営」P25参照)が出てくるが、これは、ホップ、ステップの2段階までで、新しく創った顧客関係もやがて真似される可能性がある。そこで、関係をつなぐブランドが必要になってくる。
 
<プロダクト発想(プロダクトベース)とブランド発想(ブランドベース)>
 プロダクト発想とは、プロダクト属性(品質が良い、価格が安い等)だけでマーケティングすることで、競争軸が少なく、やれることが限られる。一方、ブランド発想とは、プロダクト属性に加えて、ブランドが持つ消費使用経験属性を使ってマーケティングすることである。消費使用経験属性とは、アーカーが述べている情緒的便益、自己表現便益、社会的便益で、これらを活用することで、プロダクト発想よりも戦略空間が広がり、市場機会が深まる。
 
 市場が行き詰った時こそマーケティングが必要であるが、プロダクトベースのマーケティングでは差別化に限界があり、ブランドベースを加えたマーケティングを展開することで持続的な競争優位が実現できる。
 
3. 経営者のブランド認識の変化
 1985年に米国で起こった「ニューコーク事件」(詳細は「1からのブランド経営」P7参照)が、以下のようなブランド価値があることを経営者に気づかせるきっかけとなった。
① 消費者の愛着を生み出すブランド
② 市場資産としてのブランド
 → 愛着を確保できたブランドは長期に利益を生む資産となる
③ 消費者と共有されるブランド
 → その資産はあくまで消費者の心の中にある
 
<ブランド認識の変化>

 
4. ブランドの3つのタイプ

  マーケティングの一部としてのブランド 「ブランド・ポジション」の追求 「ブランドらしさ」の追求
ブランドの性格 製品名/技術名 定まった
アイデンティティ
変化するブランドらしさ
ブランディング方法論 違いを示す
覚え易さ/分かり易さ
設計図に沿った実行 実践による方向づけ
目標 短期の販売刺激 競争優位の追求
市場細分化戦略
独自で新鮮な
ブランド世界の構築
ブランド
哲学
マーケティングのほんの一部としてのブランド 特定市場との連結重視
分割、区別、分裂
統合、包括
資源蓄積、関係創造

 
5. ブランドを基軸とする経営
① 自社の持つ顧客(ブランド)価値を洗い直す
② ブランドから新しいビジネス視点を得る
③ ブランドを通じて、全社資源が躍動する
 
 ブランドを経営に活用することによって、ビジョンとマーケティング活動をつなぐ対象としてブランドを位置づけることで、ビジョンと日常業務の行動を結びつけることが可能となる。
 

 
【サロンを終えて】
 私がブランドマネジメントを実務の中で深く考えるようになったのは、石井先生がコーディネートされていた1997年のブランドマーケティングセミナーに参加したことがきっかけでした。以来、先生のお話はいつも示唆に富み、気づきの多い事ばかりで多くを学ばせていただいています。今回の講義では、既存の価値観や生活スタイルが揺らぎ、閉塞感に満ちている今こそ、ブランドを基軸とする経営が大切だと再認識しました。パーパス(存在意義)による経営という言葉がよく聞かれるようになりましたが、今回のお話を聞いて、パーパスよりブランドを軸にするという考えの方が私はしっくりきました。
 吉田先生がご執筆された「お~いお茶」の事例からは、新規性の高い新商品ほどブランドが実現すべきポジショニングを明確化することが重要だということを学びました。また、「GREEN DA・KA・RA」の事例では、ブランド・ビジョンを実現する手段としての製品開発という視点があることを学びました。
 西口先生がご執筆された「アート引越センター」の女性目線によるブランド創りには、以前から興味がありましたが、サービスブランドでは特にインターナルブランディングも重要であることを再認識させていただきました。
 ブランドについて、色々な視点で考えることができた貴重な時間を頂き、ありがとうございました。
 

 
(文責:太田 昌宏)

 
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