ニュースリリース

第176回マーケティングサロンレポート「東京のIT企業が11年間、お客様に美味しいサバ缶をお配りしながら、続けていること」

第176回マーケティングサロン:東京
テーマ:東京のIT企業が11年間、お客様に美味しいサバ缶をお配りしながら、続けていること
 
日 程:2023年8月30日(水)19:00-20:30
場 所:一橋大学 千代田キャンパス 大講義室
ゲスト:高橋 玄太 氏(株式会社スカイアーチネットワークス 取締役副社長 COO)
サロン委員:鎌田 裕美
 
【概要】
 IT企業のサービス形態は、オンプレミスからクラウドに変化してきました。そのような昨今のサービス特性やビジネスモデルの変遷といった業界トレンドをはじめ、サーバー業者がサバ缶を配布するようになったユニークな経緯など、幅広くお話いただきました。
 セミナーは2部構成でした。第1部では、クラウドビジネスの実態を伺い、スカイアーチネットワークス社が取り扱う、クラウドの主力ブランドである、AWS(Amazon Web Service)のビジネスモデルの特徴について、詳しくご説明いただきました。第2部では、ブランド戦略とコミュニケーションマーケティングの実態について伺いました。クラウドの販売を主要事業とするスカイアーチネットワークス社ですが、無形サービスは実体がないこともあり、クライアントに対して、説明の難しさ、差別化の難しさがあるといいます。その中で、サバ缶をノベルティーにしたきっかけは、ダジャレだったという、自由でユニークな経緯をお話しくださいました。
 
【第1部:クラウドビジネスの実際】
 IT企業といえば、GAFAMなどのアメリカ企業に注目が集まっています。全産業セクターでのIT支出は、29兆円といわれるほど、市場規模の大きなビジネスです。その中で、ITのサービス形態が、オンプレミスからクラウドへ変化していったというのが、昨今の特徴です。
 高橋氏が業界に入った頃には、日系企業もクラウドプラットフォーマーとして存在したそうですが、現在グローバル主要シェアを持っているのは、Amazon、Microsoft、Google、Alibaba、IBM(Kyndryl)などのメガSIer(システムインテグレーター)となっており、グローバル企業のみが生き残った現状があります。
 
オンプレミスとクラウドの違い
 オンプレミスとは、クライアント自身がハードのサーバーからソフトのアプリケーションまで、全てを用意する形態です。クラウドになると、クラウド業者がサーバーを用意する形態となったといいます。そして昨今のクラウド業者は、サーバーだけでなく、アプリケーションも提供するようになっていったという特徴があるそうです。
 では、なぜオンプレミスからクラウドへ移行してきたのでしょうか。それを理解するために、井戸と水道に例えてお話しいただきました。個人が水を利用したいと思う時、一人一人が井戸を掘ろうとすると、非常にコストがかかります。しかし、人々が水道を使うことで、一人一人にかかるコストが下がることは、簡単にイメージできると思います。オンプレミスからクラウドに移行してきたのも、水道と井戸と同じ仕組みで考えればわかりやすく、自分で全て用意しようとすると、無駄が多くなってしまうということでした。
 
DX戦略の進展
 日本において、先行している金通・流通サービス業界におけるDXは、活況を継続しており、製造業でもデジタルツイン等、DXへの関心が強いといいます。経営層については、アジリティー獲得(会社としてのスピードを獲得)とコストダウンに関心が集まっているといいます。関心の高まりの一方で、日本においてDX戦略を進めるには、いくつかの課題も見られます。
 企業競争力を高める経営資源の獲得、活用が最大のボトルネックとなっているようで、ユーザー企業のエンジニアが不足しているという状態が日本の問題だそうです。日本と比較すると、アメリカ企業では、IT企業とユーザー企業内のエンジニア比率が逆になっています。その背景には、システムを作る時は忙しいけれど、作ってしまうと暇になるというような、忙しさの波があることが挙げられます。これらの波がある仕事を、正社員に担当させるには無駄が発生するため、エンジニアは外部から借りてくるべきだというのが、これまで日本でよしとされてきた働き方だったそうです。しかし昨今、エンジニアを自社で持つべきだという意識の高まりも見られることから、日本のDXがうまくいくかどうかは、エンジニアの採用次第ではないか、と伺いました。
 
AWSの仕組み
 なぜさまざまな企業がAWSを利用しはじめているのか、それにはいくつかの理由があります。第一に、世界で一番サーバーを買っているのは、GAFAMといわれているため、サーバーのバーゲニングパワーが強く、安く買うことができるためです。第二に、利用中に費用が低下するIT基盤の特徴があります。使っていれば、請求書が勝手に安くなっていくという、強烈なマーケティングの仕組みになっています。第三に、これはクラウドの最新の面白いところでもありますが、もともとはサーバーを貸し出すサービスだったところが、はじめて10年経った今、あらゆるワークロードをサポートできるようになったことにあるといいます。多くのサーバーは、基盤だけを提供していますが、AWSは基盤の上にソフトウェア(アプリケーション)を載せて提供するようになっています。ユーザーのメリットとしては、全てを業者が用意してくれてる上に、ソフトウェアも使った分だけの利用料が発生するため、利用コストが下がることが挙げられます。
 
【第2部:ブランド戦略とコミュニケーションマーケティングの実態】
IT企業とサバ缶の出会い
 スカイアーチネットワーク社の2012年当時の経営課題として、認知度(サービス・採用)の不足があったといいます。そのための解決策として、ノベルティーを配ることを考えたそうです。IT業界の隠語で、サーバーのことをサバ(鯖)と呼ぶことがあり、ネットスラングにも、サーバーに関わる用語に、鯖落ち(サーバーダウン)、鯖管(サーバー管理人)などがあります。そこから発想を得て、「サーバー管理屋=サバ缶」につながったそうです。
 
IT会社がサバ缶を11年間配っている理由
 クラウドプラットフォーマーのコミュニティマーケティングとして、JAWS-UG(Japan AWS User group)とよばれる集まり(コミュニティ)が存在します。これは、AWSが提供するクラウドコンピューティングを利用する人々のコミュニティです。一人ではできない学びや交流を目的として、ボランティアによる勉強会が開催され、交流イベントが開かれています。日本全国に「支部」の形でグループが広がっています。これらのイベントで、積極的にサバ缶を配布することで、一部のコミュニティでは、レアノベルティになったこともあったそうです。
 スカイアーチネットワークス社のサバ缶を作っているのは、2011年の東日本大震災で被害を受けた宮城県石巻市の木の屋石巻水産です。木の屋石巻水産は、地元の漁港で朝に水揚げされた新鮮なサバを冷凍せず、そのまま缶詰にするフレッシュパックの製法で美味しい缶詰の製造を続けています。
 
【フロアディスカッション】
 クラウドのプレーヤーとして、かつては日本企業がいたにもかかわらず、なぜ撤退したのか、その背景についての質問がでました。その理由として、機能的に間に合わなくなってきてしまったというところと、規模が追いつかなくなっていったということが背景にあるといいます。機能面では、かつてはサーバーの貸し出しだけで良かったものが、現在はサービスやアプリケーションも貸し出さなくてはならなくなったため、グローバル企業には敵わないという実態があります。規模の面では、日本市場を対象にするのと、グローバル市場を対象にするのでは、規模が異なるため、日系企業は価格競争に敵わなくなっていったようです。
 また、ユーザーコミュニティーから生まれてくる知識はあるのだろうか、という質問も出ました。AWSのユーザーコミュニティーは、新しいものを使えるようになろうという、ラーニングの意識が強いため、新しいものを生み出すような特徴はあまり持たないという回答をいただきました。
 
【サロンを終えて】
 IT業界の変遷や、クラウドの進化、そして無形サービスを提供する企業のブランドコミュニケーションにいたるまで、多岐にわたるトピックをお話しいただいた、有意義なサロンとなりました。
 
集合写真
集合写真
 
(文責:松井 彩子)

 
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