ニュースリリース

第178回マーケティングサロンレポート「実務家が研究するということ」

第178回マーケティングサロン:リアル・オンライン併用開催
テーマ:実務家が研究するということ
 
日 程:2023年9月14日(木)19:00-21:00
場 所:QUINTBRIDGE(NTT西日本本社)
    およびZoom使用によるオンライン開催
ゲスト:井登 友一 氏(株式会社インフォバーン 取締役副社長 / 京都大学経営管理大学院 博士後期課程修了 博士(経営科学))
    山内 裕 氏(京都大学経営管理大学院 教授)
サロン委員:栗原 奈王子、小宮 信彦、本下 真次、南 修二
 
【ゲストプロフィール】
井登友一氏井登 友一 氏
株式会社インフォバーン 取締役副社長 / 京都大学経営管理大学院 博士後期課程修了 博士(経営科学)
2000年前後から人間中心デザイン、UXデザインを中心としたデザイン実務家としてのキャリアを開始する。近年では、多様な領域における製品・サービスやビジネスをサービスデザインのアプローチを通してホリスティックにデザインする実務活動を行いつつ、デザイン教育およびデザイン研究の活動にも注力しているデザイン・ストラテジスト。
HCD-Net(特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構)副理事長、日本プロジェクトマネジメント協会 認定プロジェクトマネジメントスペシャリスト(PMS)、立命館大学 経営学部 非常勤講師、同志社女子大学 学芸学部 嘱託講師、京都女子大学 生活科学研究科 非常勤講師なども兼務。
 
山内 裕氏山内 裕 氏
京都大学経営管理大学院 教授
経済学部・経済学研究科、およびデザインスクールにて兼務。1998年京都大学工学部情報工学卒業、2000年京都大学情報学修士、2006年UCLA Anderson Schoolにて経営学博士(Ph.D. in Management)。Xerox Palo Alto Research Center研究員を経て、京都大学経営管理大学院に講師として着任。
文部科学省「大学等における価値創造人材育成拠点の形成事業」採択プログラムとして、価値創造人材育成プログラム 京都クリエイティブ・アッサンブラージュを運営。
https://yamauchi.net
 
【サロンレポート】
本下さん(ファシリテーター)
 このサロンは、ゲストと近い距離で交流を深めるためにお酒を交える会です。しかし、コロナの影響でお酒を持ち寄っての開催ができず、3年半ぶりの形式となりました。「では、乾杯から始めましょう。よろしくお願いします。乾杯!」今回のテーマは、実務家が研究するということです。企画立案者である栗原さんから、その経緯を紹介していただきます。
 
栗原さん(企画立案者)
 実務において、パートナーである井登さんとやり取りしてきました。会社から与えられる課題に取り組む中で、興味関心を深めてきました。体系的に学びたいと思っており、井登さんが博士課程で研究されていることを知り、また山内先生ともお知り合いになり、お二人の日々の活動について深く知りたいと思い、今回の会を開催するに至りました。

 
井登さん(ゲスト)
 私は、実務を通してUXデザインや人間中心デザインに携わり、ここ数年は研究にも力を入れてきました。2022年には書籍「サービスデザイン思考」を出版しました。顧客中心やモノからコトなど、マーケティングの領域でも語られますが、本当なのか悶々とした思いを書き込んでいます。解決はしていませんが、私自身の考えをまとめたものです。
 
 私の博士研究の主題は、「『意味のイノベーション』の発展的批判と実践可能性拡大のための理論的再解釈」です。この研究は、デザイン学会での発表や非常勤の講義をする中で、裏付けのある理論をまとめたものです。また、山内先生の書籍「『闘争』としてのサービス」にも大きな影響を受けました。この書籍に触れ、顧客を神様扱いせず、価値提供者と受益者が闘争していくという考え方に衝撃を受け、山内先生に弟子入りを志願しました。2018年度生の博士課程の社会人7人枠の選考には落ちましたが、2年後に再チャレンジすることになりました。山内先生には月1回ペースでコーヒーを飲みながらお付き合いいただき、研究計画を練り、合格することができました。コロナの影響もあり、業務では出張が減ったこともあり、3年で博士論文を提出することができました。
 
 研究には楽しいこともありましたが、苦しいこともありました。時間の捻出や研究活動のペースメイキングに苦労しました。また、修士課程を経ずに博士課程に進んだため、研究の作法がわからず、激レアな「白紙学生」となってしまいました。しかし、専門知識を業務に活かせること(巨人の肩に乗る)や、いつか学位を取らなければならないという心配がなくなったことは、大きなメリットだと思っています。私は、実務の事象を研究した理論を元に抽象度を上げて共有知化することが、研究のメリットだと考えています。
 
山内さん(ゲスト)
 「実務家の研究を受け入れること」でお話します。博士課程の選考においては、主に以下の視点から判断されます。まず、受入れ教員を決める必要があるのですが、研究の主旨が合致しているかどうか。井登さんは当初、経営者のこだわりを研究したいと考えていました。こだわりではなかなか研究計画に落し込めないので、経営者の美学に置き換え、専門書をいくつか読んだ上で研究計画書を作成してもらいました。
 また、博士課程を3年で修了できるかどうかも重要なポイントです。MBAの延長ではなく、博士課程では学術論文を作成し、理論的な貢献をすることが求められます。論文を書いたことがない、研究をしたことがないという場合には、3年で修了できるのかを示すため何らかの情報が必要となります。非常勤講師や学会発表の実績も重要なポイントです。

 
実務家の理論的貢献について
井登さん
 理論的な貢献とは、本来は既存の理論を乗り越え、新たな知見を生み出すことです。ただ、重箱の隅をつつくような研究しかできないのも事実です。
 
山内さん
 理論的貢献があるかどうかが博士論文の最低限の条件となります。理論的貢献は、単に既存研究に何かが足りないとか、何かは研究されていないというだけでは不十分で、既存の理論の内部にどういう問題があり、その問題を乗り越えることで、既存の理論を前に進めることが重要となります。井登さんの博士論文に関して言うと、ベルガンティは、デザインは個人から始まることや批判精神が重要であると提唱しているのですが、博士論文では個人の主体に還元すること、批判の概念が曖昧であるなどの問題を指摘します。それを例えば、ドゥルーズやランシエールの理論を用いて乗り越えていくということになります。
 実務家が博士号を取る意義についてお話します。本来、研究者養成のための博士では、国際トップジャーナルに論文を掲載することを目的としています。しかし、実務家の博士では、その後の国際的な研究者としてのキャリアを目指しているわけではないので、そのようなことをあまり考える必要がありません。例えば、経営学にジルドゥルーズを取り入れるようなアプローチは、ジャーナルでは論文にしにくいので通常の博士ではやりにくいのですが、逆に社会人博士では自由に追求できます。本当の意味での学問とは、こうしたものかもしれません。
 

京都クリエイティブ・アッサンブラージュ
 社会をよく見ること、社会を正しく捉えることが、新しい価値を生み出し、イノベーションを生むことにつながります。意味のシステムから排除されたものを理解すること、無意味のイノベーションとも言えます。(最後に山内さんより、社会人を対象にした創造性育成プログラムのご紹介がありました。詳細はアーカイブ動画をご覧ください。佐藤可士和さんのユニクロの事例がこちらに公開されています。)
https://assemblage.kyoto/archives/post/dialogue2022-satokashiwa
 

集合写真:マーケティング学会のMポーズでしめました。
 
【サロンを終えて】
 私にとって初めての主催側、初めてのリアル開催のサロンに参加しました。会場でのやり取りは緊張感があり、非常に深い内容で、ゲストの先生方の一言一言が印象的でした。井登先生は実務家でありながら博士課程に挑戦し、多くの苦労を乗り越えて修了されたことをお話され、リアリティのある体験談をお話してくださいました。今まで博士課程は縁遠いものと思っていましたが、今日のお話を聞いて、自分にも挑戦してみたいと思う、きっかけになったように感じています。
 
(文責:南 修二)

 
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