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第186回マーケティングサロンレポート「日本マーケティング本 大賞2023」準大賞受賞記念マーケティングサロン「応援消費の広まりとマーケティング:推し活からエシカルまで」

第186回マーケティングサロン:オンライン
テーマ:「日本マーケティング本 大賞2023」準大賞受賞記念マーケティングサロン
「応援消費の広まりとマーケティング:推し活からエシカルまで」

 
日 程:2024年2月21日(水)19:00-21:00
場 所:Zoomによるオンライン開催
ゲスト:東京都立大学 経済経営学部 教授 水越 康介 氏
    拓殖大学 商学部 教授 田嶋 規雄 氏
サロン委員:小坂 忠史、芹澤 和樹、田口 佳之
 
【ゲストプロフィール】
水越 康介 氏水越 康介(みずこし こうすけ)氏
東京都立大学経済経営学部教授。主要研究テーマはマーケティング。神戸大学経営学部卒。同大学経営学研究科博士課程を経て、博士(商学)取得。主な著書:『推しからエシカルまで応援消費がよくわかる本』(共著、秀和システム、2023年)、『マーケティングをつかむ 第3版』(共著、有斐閣、2023年)、『応援消費:社会を動かす力』(岩波書店、2022年)、『ソーシャルメディア・マーケティング』(日経文庫、2018年)。

 
田嶋 規雄 氏田嶋 規雄(たじま のりお)氏
拓殖大学商学部教授。主要研究テーマはマーケティング、消費者行動。慶應義塾大学商学部卒。同大学経営管理研究科博士課程を経て、博士(経営学)取得。主な著書:『推しからエシカルまで応援消費がよくわかる本』(共著、秀和システム、2023年)、『ジャパニーズ・ポップカルチャーのマーケティング戦略』(共著、千倉書房、2022年)、Managing Cultural Festivals : Tradition and Innovation in Europe(共著、Routledge、2022年)、『文化を競争力とするマーケティング』(共著、中央経済社、2020年)
 
【サロンレポート】
 日本マーケティング学会「日本マーケティング本 大賞2023」において、水越康介先生の著書『応援消費:社会を動かす力』(岩波書店、2022年)が準大賞を受賞されました。今回受賞記念講演を特別サロンとして、水越先生と『推しからエシカルまで応援消費がよくわかる本』(秀和システム、2023年)の共著者であります田嶋先生との対談形式にてご講演をいただきました。
 
<応援消費とエシカル:水越 康介ご講演>
概要
 応援消費では、倫理的な消費者行動とともに推し活が現代では広まってきています。その背景や類似点をまとめたものとしてとして『応援消費がよくわかる本 推し活からエシカルまで』を出版致しました。本サロンでは重要な点についてお話します。
 
応援消費社会になった背景とは
 当初、応援消費は東日本大震災との関係を象徴することが多かったが、その後、下火になり、2020年のコロナ禍における応援消費として注目を再度集めてきた状況にあります。
 今日では、かなり定着している状況にあり、食べて応援しよう(農林水産省)などふるさと納税と結び付けたようなものもイメージできます。
 その他に「復興」や「働いて応援」などと結び付けた新しい応援消費も見られるようになりました。
 また大学生に対してアンケートをした結果は下記のようなものになり、若手に対しての応援消費のイメージも定着してきた状況と考えられます。
 

 
 その他に寄付するという点に対しても、直近の寄付額は伸びています。応援=寄付という関係も成り立ちます。(当たり前の行動になったのかもしれません)
 

 
なぜこのような応援消費ができるようになったのか
1. 情報技術の発達
 SNSの発達により情報の共有がだれでもできるようになったことが大きな要因と考えられます。一方で1995年に阪神・淡路大震災があったときには、まだパソコンが復旧し始めたばかりであり、今日的な応援消費は難しかったといえます。
 
2. 「新自由主義」の浸透
 市場・交換原理を使って社会を発展される考え方がこの20-30年間で当たり前になってきたことも大きいと考えられます。市場を使って社会をよくするという考えが当たり前になっています。
 
 以下は言葉の浸透のグラフであり、直近更に浸透してきていることがデータとしても見て取れる状況にあります。
 

 
まとめ
他者のための消費⾏動の広まり
• エシカルであれ推し活であれ
• ものを消費することが、⾃分のためではなく、他⼈のためでもあるという意識や理解の浸透
• マクロな消費現象としての歴史的な変遷
• ⼈を繋ぎ、⼈を可視化するデジタル技術
• ⾒えるようになった他者のため
• 繋がっているという意識の影響
• マーケティングの役割
 
<応援消費と推し活:田嶋先生ご講演>
概要
 推し消費とは、消費者にとっての好みの対象である「推し」を応援したり感じたりする一連の行為であり、その魅力について論じます。
 
 今回学生に推し活のイメージをアンケートしたところ下記のような結果になりました。(母数:60名)
 分類すると非常に多様なタイプに分けることができると思います。
 

 
推し活を注目する理由
 推し消費市場を範囲づけることは難しいですが、断片的に見てみると、例えば、2021年アニメ市場は2兆7,422億円であり、アニメオタク推定人口は629万人(2020年)から6685万人(2022年)と増加傾向にあります。(日本動画協会,2022p.12)
 また年間消費金額も26,150円(2020年)から35,799円(2022年)と増加傾向にあります。(矢野経済研究所,2022p.12)
 そのためマーケットとして成長していることがわかります。
 これらの背景をマーケティング戦略の一環として見てみた場合の魅力として、以下4つのカテゴリーに区分することができると考えられます。
 
1. 高関与購買行動
2. 共有・推奨行動
3. 製品カテゴリー間の拡張可能性
4. 文化館の拡張可能性
 
・高関与購買行動
 行動特性として、能動的な情報収集を行う・関連商品に執着する度合いが強い・購買場所へのアクセス労力を惜しまないという点が考えられます。
 つまり、企業は高関与な消費者を対象としたマーケティングをする必要があると考えられます。
 
・共有・推奨行動
 SNSなどの誰でも共有できる環境になったため、エンゲージメント行動を如何に考えるかという点が重要となります。
 
・製品カテゴリー間の拡張可能性
 推しに対するグッズやサービスを、製品カテゴリーを超えて購入する行動がみられる点。
マーケティングの分野ではかなり特殊な状況と考えられます。
 
・文化間の拡張可能性
 海外の人がイベントに参加する前提として、日本のアニメ・漫画が海外で受け入れられている。日本のIPが比較的に海外に浸透できると考えられる。
 
推し消費のマーケティングにおける戦略的課題として
 どの様な製品カテゴリーを有する企業を組むべきか、どのように展開するべきか、どのような企業と提携するべきか、どのような製品カテゴリーを取りそろえるべきか、どのような販売促進をするべきか、等様々な課題があります。
 

 
 今後の研究としては、多様な消費者行動のタイプ化とグループ化を行い、企業がどのように展開できるかを推し活の観点で明らかにしていきたいと考えています。
 
<座談会>(以下は水越先生と田嶋先生によるスペシャル座談会の内容です!)
 
水越Q:海外の推し活とは、日本と異なりますか。
田嶋A:もともとのファン行動は海外でもあると考えているが、日本のアニメ・漫画には独特の行動があるのではないか。グローバルへの可能性や広がりがあると考えられます。
 
水越Q:製品カテゴリーを超えるのはなぜでしょうか。
田嶋A:応援するのは、推しの行動や結果であるので製品カテゴリーを越えると考えられます。しかし推しを損なうようなことは炎上要因となるため注意が必要です。
 
水越Q:例えば、vivantのようなコンテンツの海外反応は推し活としてどのように考えられますか。
田嶋A:ポップカルチャーであるかどうかであると考えられます。つまり直感的に楽しめるということです。知識が必要なものは、背景の文化を知らないとわからない部分があると考えられる。そのため、Vivantについては後者に当てはまると考えられ、あまり海外でのファン化が行われなかったのではないかと考えます。
 
水越Q:通常のものを作っている会社は推し活をどのように考えればよいでしょうか。
田嶋A:高関与商材、例えばラグジュアリー関連は、推し活に近しいマーケティングはしている。低関与については、うまく考える必要がある。例えば日清食品様などコラボマーケティングは参考になると思います。
 また、既にできているコミュニティをターゲットとしたマーケティングをすると、うまく機能するかもしれません。
 
田嶋Q:企業・ブランドが応援されるためにはどのようにするべきでしょうか。
水越A:基本はブランディングとして考えることができます。自社のブランドのために何ができるのか。その背景に応援される理由が必要になります。エシカルでは利他的な観点やSDGSなどの観点を取り入れた行動も、推しにされる要因の一つとも考えられます。
 
田嶋Q:持続性を持たせるためにはどうしたらよいでしょうか。
水越A:持続性は課題の一つです。その中で、ブランディングや、さらにはコミュニティの作成や維持がテーマになってくると考えられます。
 その際の新規顧客や既存顧客の割合なども考えていく必要があります。
田嶋:沼を如何に創っていくことが大事かもしれません。
 
<Q&A>(以下は参加者と先生方の質疑応答です!)
 
Q:若いマーケッターに向けに説明するとどうしたらよいでしょうか。
A:応援消費の社会現象を理解させつつ、マーケティングの仕組みを紹介する。その上で背景を説明する際は、是非本のご一読をお願いします。
 
Q:消費金額の向上背景はなにがあると考えられますか。
A:製品カテゴリーの広がりやアーティストの接点の増加、商品単価の向上などが考えられます。
 
Q:企業や個人などの場合分けをして、応援状況は区分けできると考えられますがいかがですか。
A:意思決定レベルの違いやイメージ(フィット)などの重要度が違うかもしれません。
 人に対しては応援しやすい、ものっぽいものだと応援しにくいかもしれません。無機質なものを有機化(擬人化)などすることもマーケティング戦略の一つかもしれません。
 


左より、田嶋 規雄 氏、水越 康介 氏

Q:地元を持続的に発展させるには、推し活マーケティングは有効な手段と考えられますがいかがでしょうか。
A:予算的な課題や産業界を束ねることや、オーバーツーリズムの理解を得ることが重要です。
そして如何にアニメなどの良さを、市民に知ってもらえるようなキーマンや部署を整えるなどの仕組化が必要と考えられます。
 
Q:推し活をより浸透させるにはどうしたらよいか。
A:オタクといわれると、後ろ指をさされることがあったと思うが、推し活がもっと市民権を持っていくことが重要と考えられます。もっと推し活のメリット(交友関係が広がった、趣味が変わったなど)をもっと知ってもらうことが重要なのかなと考えられます。
 
 先生方今回は貴重なお話を頂きありがとうございました。
 
【サロンを終えて】
 最後に、私はマーケティングの仕事に携わっており、いかに消費者に対してのブランドの定着させる事やリテンションマーケティングを考えています。
 その中で今回の二人の先生方のお話は、これからのマーケティング視点に立ち、如何に消費者を囲い込んでいくかという観点で気づきがあった内容と感じました。
 応援という消費活動の行動自体は今や一般的な消費活動に該当すると考えています。
その背景を考えてみると、実は最近の消費活動であることや情報技術の発達があったからこその消費活動ということを改めて理解することができました。
 この会は、様々な立場の方たちに向けての有効なヒントをお示しできたサロンとなったと思います。
 ご参加の皆様、ご登壇の先生方、改めてお礼申し上げます。
 
(文責:芹澤 和樹)

 
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