ニュースリリース

第188回マーケティングサロンレポート
「日本マーケティング本 大賞2023」大賞受賞記念マーケティングサロン『イノベーションの競争戦略』の著者、内田和成氏による受賞記念講演&パネルディスカッション

第188回マーケティングサロン:リアル・オンライン併用開催
 
テーマ:「日本マーケティング本 大賞2023」大賞受賞記念マーケティングサロン
『イノベーションの競争戦略』の著者、内田和成氏による受賞記念講演&パネルディスカッション

 
日 程:2024年3月5日(火)19:00-21:00
場 所:虎ノ門ヒルズ「ARCH TORANOMON HILLS INCUBATION CENTER」
    およびZoom使用によるオンライン開催
ゲスト:
編著者:内田 和成 氏(早稲田大学 名誉教授)
共著者:岩井 琢磨 氏(顧客時間 共同CEO)
共著者:中西 美鈴 氏(日本アイ・ビー・エム株式会社 / IBMコンサルティング パートナー)
共著者 / モデレーター:木村 淳之介 氏(株式会社FIELD MANAGEMENT EXPAND 取締役 VP of Corporate Strategy)
 
共催:ARCH TORANOMON HILLS INCUBATION CENTER
サロン委員:芦田 裕、尾崎 文則、八尾 あすか、佐藤 圭一
 
【ゲストプロフィール】
内田 和成 氏内田 和成(うちだ・かずなり)
早稲田大学 名誉教授
東京大学工学部卒業。慶應義塾大学大学院経営学修士(MBA)。2000年6月から2004年12月までBCG日本代表。2006年には「世界の有力コンサルタント25人」(米コンサルティング・マガジン)に選出された。2006年より2022年3月まで早稲田大学教授。

 
岩井 琢磨 氏岩井 琢磨(いわい・たくま)
顧客時間 共同CEO
1993年博報堂DYグループ入社。インストア・プランナー、クリエイティブ・ディレクターを経てブランドコンサルタント。ダイエー再生プロジェクトに参画。2012年にコーポレート・コミュニケーション・センターのセンター長に就く。製造業、サービス業界を中心に、部署横断型の事業変革プロジェクト、企業ブランディングおよび企業コミュニケーション設計プロジェクトを数多く手がける。2018年に顧客時間を設立し、共同CEO代表取締役に就任。早稲田大学大学院商学研究科修士課程修了(MBA)
 
中西 美鈴 氏中西 美鈴(なかにし・みすず)
日本アイ・ビー・エム株式会社 / IBMコンサルティング パートナー
製造業を中心としたお客様のグローバル事業支援を得意とし、戦略策定・事業企画や開発支援など、世界30カ国以上を対象とした多数の支援実績を持つ。現在は、自動車業界のモビリティー事業変革に注力している。早稲田大学大学院経営学修士(MBA)取得。執筆参加として「イノベーションの競争戦略」(2022 東洋経済新報社)

 
木村 淳之介 氏木村 淳之介(きむら・じゅんのすけ)
株式会社FIELD MANAGEMENT EXPAND 取締役 VP of Corporate Strategy
2004年博報堂入社。大手携帯キャリア・大手清涼飲料水への各種マーケティング支援での業務から、クリエイティブ子会社の経営職、本社経営企画などを歴任。
2018年、住友商事に入社、デジタルメディア・データマーケティング領域における新規事業開発や全社DXプロジェクト、ドラッグストアなどの事業会社へのマーケティングコンサルティングのプロジェクトをリード。その後マーケティングテクノロジー企業のエグゼクティブプロデューサーを経て、2022年より現職。早稲田大学大学院経営学修士(MBA)取得。
共著に『経営はデザインそのものである。』(2014 ダイヤモンド社)
執筆参加として「イノベーションの競争戦略」(2022 東洋経済新報社)
日本マーケティング学会員
 
【サロンレポート】
進化するブランド 内田和成氏の著書『イノベーションの競争戦略』(東洋経済新報社)が日本マーケティング学会「マーケティング本 大賞2023」大賞を受賞されました。これを記念し、内田和成氏と共著者をお迎えした特別サロンとして開催しました。
 第1部では、『イノベーションの競争戦略』を著者が解説。研究会が定義した「新しいイノベーションの定義」について、数多くの事例を通じてご紹介いただきました。
 また、第2部では、実務家として多くの企業の戦略策定・変革を支援してきた共著者(イノベーション研究会メンバー)との対談を行い、具体事例をもとにイノベーションの実践方法を掘り下げていただきました。また、中央大学名誉教授・田中洋先生にもディスカッションへ特別参加いただきました。この場をお借りしお礼申し上げます。
 
 なお、今回のサロンは、虎ノ門ヒルズの「ARCH TORANOMON HILLS INCUBATION CENTER」にて開催しました。世界で初めて大企業の事業改革や新規事業創出をミッションとする組織に特化して構想されたインキュベーションセンターで、イノベーションの本質および実践について学び、ネットワーク構築できる機会ともなりました。

 
第1部:『イノベーションの競争戦略』解説「イノベーションの本質とは?」
 本書は新たなイノベーションのフレームワーク「イノベーションのトライアングル」をもとに、内田和成ゼミ生による膨大な事例研究を通して生まれたものです。
 本書で定義するイノベーションとは「これまでにない価値の創造により、顧客の行動が変わること」です。イノベーションの源泉は技術革新・社会構造・心理変化という3つの環境要因であり、これらの変化を捉えたものこそがイノベーションを起こし得ます。
 

 
イノベーションのトライアングル
 イノベーションの実践にあたっては3つのアプローチが存在します。
 まずは「ドライバーを味方につける」アプローチです。例えばルンバは新しい視点から、3つのドライバーを見立てた成功事例と言えます。技術革新面では、機械でも綺麗に掃除ができるようになったこと、社会構造面では、共働き世帯が増加していること、心理変化面では、手抜きだと思われたくないが、ルンバであればクールで格好いい生活の象徴とできたことなど、新たな視点での“見立て”を行い、成功しました。
 次に「ドライバーの最強の掛け算」というアプローチです。Zoomは社会構造面では、コロナ禍で急速にリモート会議が必要とされたことを背景に、心理変化面では技術に明るくないもののリモートでコミュニケーションを取りたいという変化、技術革新面での映像圧縮技術と簡単に使えるUI/UXという3つのドライバーをかけ合わせることで急速に普及しました。
 最後に「逆風のドライバー」というアプローチです。介護ロボットはうまくいかなかった事例です。技術革新面ではロボット技術が進展し、社会構造面でも介護が必要なシニアの増加や働き手不足などにより、追い風が吹いています。しかし、心理変化面では、依然としてロボットに介護してもらいたい、大切な親の介護をロボットに任せるということには心理的な抵抗があり、心理変化が伴わず、うまくいっていません。
 
イノベーションストリーム
 イノベーションの実現に向けた3つのステップを解説します。これをイノベーションストリームと呼んでいます。まずは価値創造、次に態度変容、そして行動変容というステップをたどります。この中でも行動変容がイノベーションのカギです。習慣化されることで、変化が不可逆となって持続し、イノベーションとなるのです。
 本書の重要なメッセージのひとつは、必ずしも先発者となる必要はないということです。他人が生み出した価値を活用することもできるのです。つまり、価値創造をしたプレイヤーと行動変容を起こすプレイヤーが別でもよいのです。例えば、フリマアプリサービスの先発者はフリル(現ラクマ)でした。しかし、行動変容を起こし、急速に成長させたのは後発者のメルカリでした。中古品の個人間売買という面では両サービス共通ですが、特にメルカリは売手に着目し、売る喜びを創出することで成功しました。その結果、リセールバリューを見てから購入するといった不可逆な行動変容まで生み出しました。
 
イノベーションの本質
講演の様子 日本企業は画期的な製品やサービスを生み出すことがイノベーションの本質で、後はそれをどう実現していくかがカギと考えています。しかし、世の中を変えてきたイノベーションを見てみると必ずしも画期的な新製品を生み出した人が勝者になるとは限らないのです。顧客の態度変容を起こすにはどうしたら良いか、さらにはそれを行動変容(ビジネス上の成果)にどう結びつけるかを考えた方が良いと言えるでしょう。
 画期的な製品やサービスを生み出すことがイノベーションではありません。最終的に行動変容をもたらした者が勝ちなのです。
 
第2部:パネルディスカッション+質疑応答ディスカッション
意思決定の満足度と意思決定の質
 意思決定の満足度と意思決定の質は異なるという研究もあります。つまり、合議制の議論で意思決定の満足度が高くても、その意思決定の質は低いということがあるのです。逆に喧々諤々の議論を経て、賛否が分かれるような意思決定の方が意思決定の満足度は低くても、質が高まるということもあります。イノベーションを生み出すためにはたとえ、意思決定の満足度が低くても、意思決定の質を高めるということが必要なのではないでしょうか?
 
大企業における新規事業
 大企業において新規事業を成功させるためには固有の課題がいくつもあります。
 まず、大企業には様々な組織・部門、ステークホルダーが存在します。お互いが遠慮なく議論できることが重要です。価値があるものは最終的に認められ、結果を出していくはずです。
 また、技術革新を実現することと、製品・サービスとして成功させることは別です。例えばXEROXは、パルアルト研究所が存在し、様々な優れた技術を生み出していました。しかし、それらの技術を生かした製品・サービスをXEROX自身が生み出すことは実現せず、IBMのようになることはできませんでした。これはトップマネジメントがイノベーションの本質を理解しきれなかったことが要因かもしれません。つまり、“見る目”を持つことが重要と言えるのではないでしょうか。イノベーショントライアングルでいえば、ドライバーをどう“見立てるか”が重要と言えます。
 さらに、大企業では一般的に“完成品”を上市する傾向ありますが、環境変化が大きい中ではそうしたアプローチは必ずしもうまくいかないかもしれません。PC機器メーカーのアンカーは“完成品”ではなく“不完成品”(完成度が95%くらい)を市場に出すというスタンスだそうです。上市してみて、市場からのフィードバックを受け、数週間サイクルでカイゼンを繰り返すことで完成度を高めていくというソフトウェア開発のような発想でハードウェアを生み出し続けています。
 
“腕力”による行動変容
 モバイルQR決済を例にとれば、アフリカなどでは、銀行口座を持っていない、治安が悪いなど個人間でのお金のやり取りができないといった背景からその必要性が高く、モバイルQR決済は普及しました。他方、日本では多くの人が銀行口座や電子マネーをすでに持っている、治安もよいなどモバイルQR決済の必要性は低く、利用促進という行動変容のハードルは高いと考えられます。しかし、PayPayなどのように大規模なインセンティブを提供するなど、かなりの資金を投じて強固に行動変容を成し遂げた例もあります。
 
世の中の“波”に乗るのか、“波”をつくるのか?
 “波”に乗るためにはタイミングが重要です。出遅れれば競争に負けてしまいます。また差別化にも高いハードルが生じます。
 他方で“波”をつくることで他社と差別化し、先行することもできます。しかし、そこには市場のニーズがあるのかといった不確実性も生じます。
 少なくとも、世の中の“波”に乗るのか、“波”をつくるのか?という、どちらの立場からイノベーションを起こそうとしているかははっきりと意識することが必要でしょう。
 
講演の様子
 
イノベーションか否か?
 それがイノベーションかどうかは決めるのはお客さんです。お客さんの行動が変わらないものは、インベンション(発明)にすぎません。
 また、イノベーションを起こそうとするときに必ずしもゼロから生み出す必要ではなく、新しい視点で見立ててられたものこそがイノベーションと言えます。例えば、早稲田大学ビジネススクール・山田英夫教授によればブックオフのイノベーションの本質は“古本を売る”ことではなく、“新しい本を売る”にあると言います。古本屋と言えば、古くて希少な本を扱うというイメージがありますが、ブックオフはあくまでも新しい本を比較的安い価格で買えることにイノベーションの価値があるのです。
 
これからの“起業家”の在り方
 今後の起業家に求められる姿、起業家を生み出すための組織風土にはいくつかの重要な点があります。
 まず、プラットフォームビジネスに象徴されるように、今後は自社だけではなく、パートナー企業を巻き込んだエコシステムづくりを志向することが重要です。逆に言えば、すべて自前主義である必要はないのです。
 また、投資家の視点に立てば、起業家、特にその起業家がどのように社会を見立てているに対して、資金を提供するといいます。そのため、起業家は常に「社会を見よ、顧客を見よ」ということを肝に銘じておくことが必要です。
 さらに、組織の中から起業家を生み出すためには、スケボー・スノボー型のトライ&エラーを称賛する組織風土づくりも必要です。一般的に成功体験のみを称賛しがちですが、失敗をも含めた経験を称賛することが重要です。体操競技などとは異なり、スケボーやスノボーの競技大会では、果敢なチャレンジを行い、たとえ失敗したとしても、その挑戦を称える文化があります。日本企業は失敗に厳しすぎます。日本企業においても“失敗を許容する”といわれることがありますが、これは暗黙的に失敗=悪とみなしています。失敗を含めたチャレンジそのものを称賛する風土が必要なのです。
 
行動変容
 行動変容は意図して起こしたものもあれば、結果として起こったものもあります。いずれにしても、結果としての行動変化が起きてこそ、イノベーションとなるのです。
 行動変容を起こすためにはさまざまな仕組みや仕掛けが考えられます。例えば、PayPayなどであれば、これまでの決済手段の導入に比べ、店舗側の負担を減らすといったことを行いました。それによって、導入店舗のネットワークを広げ、ユーザーの利便性につながりました。また、かつての例でいえば、銀行窓口で現金を引き出していましたが、ある銀行が窓口での現金引き出しから、キャッシュディスペンサーでの引き出しに強制的に切り替えました。当初、お客さんは不満を持ちましたが、いまでは、むしろ窓口での引き出しの方が手間です。コスト削減の一環での強制的な変更というきっかけが、長い期間を経て行動変容として定着することもあります。
 行動変容を実現させるためにはゴールの設定も重要です。メルカリやAirbnbなどのツーサイドプラットフォームは買手と売手のうち、売手のネットワークを広げるというゴールを設定しました。売手さえ広がれば、買手にとっての利便性が高まり、買手の行動変容が実現できるという戦略を取り、それが功を奏しました。
 
【サロンを終えて】
 「優れたイノベーターは0→1か? 横取りか?」
 本書を初めに読んだとき、イノベーションに対する固定概念を気持ちよく覆されたことを思い起こすマーケティング本大賞受賞記念サロンでした。本書の中でも取り上げられた豊富な事例の中から、本サロンでも様々な事例をもとづき、フレームワークの解説をいただきました。また、本書の中では触れられていない、多岐にわたる議論をパネルディスカッションの中で、繰り広げていただきました。改めまして、マーケティング本大賞の受賞、おめでとうございます。
 

 
集合写真
 
(文責:尾崎 文則)

 
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