第194回マーケティングサロンレポート「地域の多様な観光資源を可視化するメタ観光」 |
第194回マーケティングサロン:東京
テーマ:地域の多様な観光資源を可視化するメタ観光
日 程:2024年7月31日(水)19:00-20:30
場 所:一橋大学 千代田キャンパス 1階大講義室
ゲスト:一般社団法人メタ観光推進機構 代表理事 牧野 友衛 氏
サロン委員:鎌田 裕美
【サロンレポート】
今回のマーケティングサロンでは、一般社団法人メタ観光推進機構の代表理事を務める牧野友衛氏をお招きし、「地域の多様な観光資源を可視化するメタ観光」というテーマでご講演いただきました。メタ観光推進機構が作るオンライン地図「メタ観光マップ」についてご説明いただくとともに、新たな観光の形としての「メタ観光」をご紹介いただきました。
【概要】
メタ観光・メタ観光マップとは?
「メタ観光」とは、観光地の新しい価値を見出し、地域の魅力を多面的に発信する観光の新しい形です。牧野氏によると、メタ観光は「観光」を「情報」として捉え、SNSでの投稿やインターネット上の情報を含む様々な自情報を位置情報と紐づけて地図に可視化することで、観光地の魅力を再定義するものです。
近年、訪日する外国人観光客が従来の観光地とは別の場所を訪れることが増えています。たとえば、映画「君の名は。」で登場し、同作の聖地と呼ばれている四谷の須賀神社男坂は、日本人観光客だけではなく、同作を視聴した外国人観光客からも人気のスポットになっています。また、映画「サユリ」に登場した伏見稲荷大社も外国人観光客に人気の観光スポットとなり、それが逆輸入される形で日本人からも人気を博しています。これらのスポットは、日本を訪れた外国人観光客がSNSにその情報を投稿したことから、多くの観光客に知られるようになりました。
このように、これまで注目されてこなかった場所がオンライン上の情報によって、新しい観光地としての価値を持つようになったのです。メタ観光では、こうした新しい価値を見える化し、地域の隠れた魅力を引き出すことを目指しています。牧野氏は、こうした視点を取り入れることで、地域の資源に新しい価値があることを強調し、「メタ観光」がどのように価値を再定義できるかについて詳しく説明されました。
「メタ観光」を具体化するためのツールとして、牧野氏は「メタ観光マップ」の開発を行っています。「メタ観光マップ」は、地域の多様な魅力をデータとして可視化するオンライン地図です。何層ものレイヤーを使用し、個人が興味を持つテーマ(たとえば、アニメ、建築、落語など)に基づいて観光スポットを選び、新しい発見や体験をすることが可能となります。先ほどの須賀神社男坂も「君の名は。」の感動的なラストシーンが描かれた場所、という意味を持ち、このような意味を持つ場所をマッピングした「意味の地図」が「メタ観光マップ」なのです。また、これまで注目されてこなかった場所が観光エリア化することによって、これまでの観光客の一極集中を解消することができます。新しい観光エリアへ観光客を回遊させることができるのも「メタ観光マップ」の魅力です。牧野氏は、「メタ観光マップ」が、従来の観光資源の多様化による高付加価値化、多様な価値の可視化による観光資源の増加、多様な価値の可視化による観光エリアの拡大ができる「意味の地図」であると説明されました。
メタ観光の社会的な影響とこれからの展開
メタ観光の普及に伴い、牧野氏は5つのテーマを掲げています。まず、「マスから個人へ」では、観光の個別化と多様化が進み、画一的な観光地巡りから個々の趣味や興味に応じた観光体験が提供されることが期待されています。次に、「サステナブル」では、地域の既存の資源を活用し、新たな視点による観光コンテンツを創造することで、持続可能な観光を目指します。「観光DX」では、分散する地域の魅力に関する情報を観光情報として整理することで、新たな観光情報の確立を目指します。「ダイバーシティ」では、多様な文化や価値を尊重し、観光を通じて社会の多様性を理解する機会を提供します。最後に、「シビックプライド」では、地域住民が自らの地域の魅力を再発見し、誇りを持って観光資源として発信することで、地域活性化を図ります。これらのテーマに基づくメタ観光の取り組みは、観光業界に新たな活力をもたらし、地域社会の持続可能な発展に貢献することが期待されています。
メタ観光の具体的な取り組みと将来の展望
メタ観光の具体的な取り組みとして、地域の人々と協力したワークショップやアーティストのコラボレーションが行われています。これにより、地域住民が自分の街の隠れた魅力を発見し、新しい観光資源として発信することができます。また、アーティストがその地域で魅力的だと思う場所をアートにする取り組みも行われ、新しい観光スポットの開発にも取り組まれています。実際に2021年には、「すみだメタ観光祭」が行われました。スカイツリーに集中する観光客を周辺地域に分散させるために、メタ観光マップなどが活用されました。
牧野氏は、さまざまな地域が積極的に観光マップを作成できるような取り組みも行っています。たとえば、自治体が新しい価値を持った観光スポットを一般から募集できるフォームを作成して公開し、集まった内容から精査してメタ観光マップにそれらの情報を反映できるようにしたり、実際に観光マップで使用しているレイヤーを公開する取り組みが挙げられます。加えて、高校の探究学習の時間を利用してその地域に住む高校生の目線から観光スポットを考えてもらう取り組み、メタ観光に対応できるボランティアガイドの講習なども実施を今後検討しています。
一方で、牧野氏はメタ観光の課題についても触れています。地域データを整理して、多様な観光情報を統合するための技術的インフラが必要であることや、地域住民と観光客の関係を強化し、観光が地域に与える影響を考慮する必要があるとされています。特に、住民が住む場所が観光スポットとなることでの生活への影響を考慮することが求められています。これらの課題に対応しながら、メタ観光への取り組みが進むことで、地域全体が持続可能な形で観光を楽しむことができるようになります。
【サロンを終えて】
今回のサロンを通じて、観光スポットに新しい価値を見出し、そしてそれまで観光スポットとして認識されていなかった場所が意味を持つことで観光スポットとなるというお話に、今後の観光業界への可能性を感じました。メタ観光がさらに多くの地域で活用され、日本の観光資源の多様化が進むことを期待しています。最後に、ゲストの牧野氏、そしてご参加いただいた皆様に、この場を借りて心より感謝申し上げます。
(文責:鴇田 彩夏)