第198回マーケティングサロンレポート「【大人の社会見学シリーズ】ワインの歴史を味わう一日 —カタシモワイナリー視察と髙井社長特別講演」 |
第198回マーケティングサロン:大阪
テーマ:【大人の社会見学シリーズ】ワインの歴史を味わう一日 —カタシモワイナリー視察と髙井社長特別講演
日 程:2024年9月10日(火)15:00-17:00
場 所:カタシモワイナリー(大阪府柏原市)
ゲスト:カタシモワイナリー 4代目社長 髙井 利洋 氏
サロン委員:本下 真次、瀨良 兼司、信國 恵美、南 修二
【ゲストプロフィール】
髙井 利洋 氏
カタシモワイナリー 4代目社長、大阪ワイナリー協会、関西ワイナリー協会会長
1951年大阪市柏原市生まれ。近畿大学理工学部卒業後、約2年間の会社員生活を経て、25歳でカタシモワイナリーに就職。
1996年に4代目社長に就任。大阪ワイナリー協会や関西ワイナリー協会、西日本ワイナリー協会を設立して初代会長を務め、ブドウ畑の保全活動などにも取り組んでいます。2016年度6次産業化優良事例表彰 農林水産大臣賞受賞、他多数の受賞歴があります。
【サロンレポート】
第198回マーケティングサロンは、「大人の社会見学シリーズ」と題して、実際にワイナリーに訪問し、現地でゲストにご講演を行っていただく形式での開催となりました。「カタシモワイナリー」は、大正3年に創業し、西日本で現存する最古のワイナリーです。柏原市は古くからブドウ栽培が行われており、昭和初期には栽培面積が全国一位を記録するほどの産地でした。気候面でもブドウ栽培に適しており、醸造用のブドウも、長年培われた食用のブドウ技術を活かして生産されています。今年で創業110年を迎えた「カタシモワイナリー」では、棚栽培でブドウを育てています。今回のサロンでは、ブドウ畑の見学から始まり、ミュージアムでご講演をいただいた後に、テイスティングを行いました。
ぶどう畑の見学
髙井氏にご案内いただきながら、醸造所に隣接しているブドウ畑を見学しました。現在30種類以上もの新品種作りに挑戦しており、そのほとんどのブドウが有機肥料で栽培されています。他のぶどうと掛け合わせて新たな品種も作っており、将来を見据えた品種づくりを行っています。ブドウ栽培において、気候は大きな影響を与えており、雨が増えるとカビ菌が発生し、温度差がなくなるとブドウの色にばらつきができてしまいます。地球温暖化への対策は、ブドウ栽培においても一大テーマとなっています。
ブドウの種類や歴史に関するお話だけではなく、世界に数多くのワイナリーがある中で、数十年後の未来を生き抜いていくために、どのような考えや工夫が必要であるのかについてもお話いただきました。質の高いワイン造りを生涯残していくために、ブドウの品種改良を行っているのが印象的でした。
ブドウ畑の見学後は、ワイナリー周辺を歩きながら、街並みと歴史をご紹介いただきました。古民家を残して景観を大切にし、古民家の街並みと共に、歴史あるワイナリーを今後も守り抜きながらワイン事業を続けていることをお話しいただきました。
ブドウ畑見学の様子
ミュージアムでのご講演
ブドウ畑の見学後は、ワイナリー内にあるミュージアムにて、髙井氏から「カタシモワイナリー」の取り組みについてご講演いただきました。ご講演では、
・大阪オリジナルのワインを作り、価値競争で勝ち抜くためにどうすれば良いかを日々考えている。そのためにさまざまなブドウの品種改良を行うことで、ハイブリッドのブドウを栽培している。例えば、味や香りを変えることによって勝負することができるため、顧客にとっては見た目が可愛く、楽しさもあり、企業にとってはプライスリーダーになれるというメリットがある。
・ブドウの新しい品種を作るのには10年くらいかかり、売れるかどうかの価値を見極めてから売るが、ブドウの花が咲いている時にしか試すことができないため、できるまでのサイクルを何度も試している。新しいブドウを作り続ける理由はワインの醸造において、ブドウの大きさは重要なファクターとなるため、50年後、100年後を見据えた品種改良が必要である。
・ワインビジネスは世界が競争相手であり、ワインを作っているだけでは生き残れないため、古民家とともに生きていくことを決めた。これはヨーロッパが風景、街並みを大切にしている精神文化に通ずるものがある。全体の歴史を学ぶことは、商品の販売戦略に欠かせないものが見つかるため必要なことである。
などについてお話しいただきました。髙井氏は、ワイン醸造の歴史や伝統を大切にしながら、地理的表示である「GI大阪」ワインを推進しています。また、大阪や関西にとどまらず、西日本ワイナリー協会の会長も務めており、日本のワイン業界の未来を見据えた活動にも取り組まれています。
「カタシモワイナリー」では、古民家の景観を大切にしながらワイナリー見学を行い、ブドウ畑の見学では栽培しているブドウを実際に食べて楽しみながら、多くの人に魅力を伝え、広める工夫を行っています。そのような中で、「景色と技術力で未来に残していく。これまでの歴史など全てが販売力につながる」というフレーズが印象的でした。
ご講演の様子(髙井氏)
テイスティング(試飲会)
ご講演の後は、6種類のワインを試飲させていただきました。「K.S. ナイアガラ スパークリング」は、ワイン初心者でも飲みやすく、フルーティで甘いワインで、とても美味しくいただきました。また、「タコシャン」は、たこ焼きに合い、気軽に飲めるスパークリングワインであり、大阪のブドウを残そうとする運動から生まれたそうです。アルコールが苦手な参加者にはノンアルコールの提供もあり、実際にブドウ畑を見学し、ワイナリーの取り組みをお伺いした後に味わうワインは格別なものでした。
テイスティング
参加したU24会員(学部学生)の声
今回のサロンでは、U24会員の参加もありました。サロンの感想として、二名の声を紹介します(本レポートの作成にもご協力いただきました)。
・今回、サロン初参加でしたが、参加して良かったと思える体験となりました。現場に行ってみないとわからないことが多く、直接話を聞いて理解することも多くありました。昔は広大な土地が全てぶどう畑だったのが、現在では家や駐車場になっていることも、ぶどう畑を見学して知ることができました。段々とワイナリーの数が減っている中で、カタシモワイナリーを守り続けるという社長の想いも話を聞きながら伝わり、ぶどう栽培にかける情熱に刺激を受けました。今回のサロンでは、初めてワインの飲み比べをしたり、知らなかった情報に触れたりと、初めてのことが多くあり、とても良い時間を過ごせました。Yさん
・今回のワイナリー見学が初めてのサロン参加でしたが、インターネットだけでは知ることができないお話を聞くことができ、ブドウ畑や古民家などの現場でしか味わうことのできない体験は、とても価値のある経験、学びになりました。大阪のブドウ畑を数十年後の未来に残し、世界で勝負するためにできることを模索し続けている社長の熱い想いが伝わってきました。価格競争をするのではなく、価値競争をするお話は、大学で勉強していることにつながっているため非常に学びのある充実した一日でした。Aさん
【サロンを終えて】
今回のサロンは、第183回に続いて、実際に現地へ足を運び、五感を通じて体験するサロンでした。現地で実際に試飲をしながら楽しむことができ、地域を活かしたモノづくりと未来を見据えたマーケティングについて、多くの学びがあった貴重な機会となりました。
現場で、現物に五感を通して体験できたことで、ワイナリーが直面している現実と、それに対する取り組みを、「カタシモワイナリー」の想いと共にお伺いすることができました。当日は天候面が気になる開催となりましたが、ブドウ畑の見学時は、空にも晴れ間がのぞいており、残暑であっても過ごしやすいひと時となりました。
髙井様をはじめとするカタシモワイナリーの皆様、ご参加いただいた皆様に、心より感謝申し上げます。誠にありがとうございました。
集合写真(写真左前方が髙井氏)
(文責:瀨良 兼司)