ニュースリリース

第221回マーケティングサロンレポート「日本マーケティング本 大賞2025」大賞受賞記念マーケティングサロン『エフェクチュアル・シフト』

第221回マーケティングサロン:リアル・オンライン併用開催
 
テーマ:「日本マーケティング本 大賞2025」大賞受賞記念マーケティングサロン
『エフェクチュアル・シフト』

 
日 程:2026年1月9日(金)19:00-20:30
場 所:事業構想大学院大学 大阪校およびZoom使用によるオンライン開催
ゲスト:神戸大学大学院 経営学研究科 教授 栗木 契 氏
サロン委員:清水 信年、出野 和子、牧野 耀、南 修二
 
栗木 契 氏栗木 契(くりき けい)氏
1966年生。神戸大学経営学部卒業。神戸大学大学院博士課程修了。岡山大学経済学部講師、助教授を経て、神戸大学大学院経営学研究科助教授、准教授、2012年より教授。
企業家マーケティング、新規事業創造、ビジネスモデル、マーケティング戦略等の研究・教育を進めている。日本消費者行動研究学会副会長、日本マーケティング学会理事、日本エフェクチュエーション協会理事等をつとめる。
 
【サロンレポート】
エフェクチュアル・シフト 2025年度の「日本マーケティング本 大賞」で大賞に選ばれた『エフェクチュアル・シフト』の著者、神戸大学の栗木契教授による記念講演が開催されました。
 
 ご講演では、同書における議論の要点を解説いただき、現在学術界のみならず、実務の場面においても非常に注目を集めているエフェクチュエーションの対象は拡大しており、新規事業創造だけでなく、ウィズコロナに効果的な行動、人生の幸福度を増す行動にも適用可能であることが広く理解される貴重な会となりました。

 
時空を超えた2つの名著の対話
講演の様子 1993年の石井淳蔵先生の『マーケティングの神話』においても、エフェクチュエーションに似た問題提起がなされていた。市場調査→STP→計画→実行と管理といった流れは、典型的なSTPマーケティングの手順としてよく知られている。しかし、実際のヒット商品開発者のマーケティング行動では、マーケティング・リサーチで最も支持されたものではない特性を基本コンセプトに採用したり、調査そのものを開発プロセスの後半になってから行ったりする行動が見られている。この説明とのギャップは、後から振り返っていることによる時間のイタズラや、STPマーケティングの説明図式のストーリーとしての受け入れられやすさが要因となっている可能性があるという。
Sarasvathy(2008)でも、著名な起業家を対象としたケーススタディ、1つ以上の企業を創立した人物のプロトコル分析という2つの調査から、熟達した企業家たちは、STPマーケティングの手順には従わないことが多いことが示された。彼らは、実行可能な活動を手近なところに見出し、取り組んでいく中で、新製品に適した市場の領域を、事後的に見出すことを選んでいた。
 
 エフェクチュエーションが重要となる背景として、F.ナイトの3つの不確実性の問題がある。特に第3の不確実性と呼ばれる「結果がわからず、事象が生じる確率の分布も未知であることに加えて、この分布の唯一性を仮定してよいかもわからないという不確実性」には科学的方法での対処が難しい。しかしながら、やりながらルールを変えるといったような行動は、ビジネスの現場でよく起こる。そのために、予測に時間をかけるよりも、やってみる方が早く、ここから起業家たちの行動の妥当性が理解できる。
 
 エフェクチュエーションの5つの行動原則は「手中の鳥」「許容可能な損失」「クレイジーキルト」「レモネード」「飛行中のパイロット」である。この5つを完璧に覚えることが難しい場合は、「できることを見つけて、行動をはじめる。」→「振り返りを絶やさず、戦略性を見いだす。」、そしてそれを繰り返すという大まかな流れでも理解することができる。
 
 オンライン学習サービスのスタディサプリは、コロナ禍を経て、5,000校のうち2,000校に採用されるほど大きく成長した。もともとは大学受験のオンライン予備校からスタートしており、岡山の高校から補習に使えないかと連絡を受けたことが学校向けの事業の萌芽となった。導入を進める中で、当初は予測していなかった確認テストの開発、学習管理システムの開発などの必要性を把握することができた。組織の内外にこの行動の確からしさを客観的に示し、説得すること困難なことである。しかしながら、目の前にいる先生を親身にサポートし、共感する担当者は、顧客と一体化し、当事者として必要性を実感できた。企業内アントレプレナーの行動は、対象顧客と一体化する共感から生まれていく。
 
 「マーケティングの神話」で石井先生によって提示された「共感的・対話的な理解」が促す行動は、第3の不確実性から生じる、新たな行動の正当化の困難さを乗り越える上で必要となる行動の原則をとらえていたと考えらえる。
エフェクチュアルなマーケターは、調査してみてもわからないものは、調査せず、許容できる金額ならエリア限定でテストマーケティングするという行動を取る。結婚や就職もあらかじめ考えていた通りに行うという人は少ない。人間の進歩として、行動してみて適応していく、フィードバック型というものもある。
 
マーケティングのA面とB面
講演の様子 ビジネススクールではA面であるSTPマーケティングや戦略計画しか教えていないが実際にはどちらも必要である。予測が困難な問題に対しても企業は行動を起こすことを絶やさないことで、A面にはない可能性をとらえることができる。エフェクチュエーションには、このB面で企業家がとるべき不確実性との向き合い方が示されている。
 「マーケティングの神話」の共感的・対話的理解は、エフェクチュエーションの行動原則では十分ではなかった、不確実性をめぐる不安や行動の根拠不足を乗り越える方法を示していた。「エフェクチュエーション」と「マーケティングの神話」は、企業家にとどまらない、人間にとって重要な進歩のための行動をとらえていた。
 
【サロンを終えて】
 今回のサロンは、栗木先生のご解説により、エフェクチュエーションとマーケティングの神話の共通点と、そこからわかる進歩のための行動について理解を深められる大変貴重なご講演となりました。大賞受賞のご著書『エフェクチュアル・シフト』では、様々なケースを通して不確実性への向き合い方を理解することができます。神戸大学MBAでのシッターサービス提供という大学での例もご紹介され、より多様な領域でエフェクチュエーションを活かせることが理解できました。
 懇親会にも多数が参加いただき、盛況な会となりました。ご登壇いただきました栗木先生、ご参加の皆様に、心より御礼申し上げます。
 
集合写真
集合写真
 
(文責:牧野 耀)

 
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