ニュースリリース

第212回マーケティングサロンレポート「日本を取り巻く『好』都合な真実とは?グローバルな消費者心理の核心に迫る」

第212回マーケティングサロン:リアル・オンライン併用開催
 
テーマ:日本を取り巻く「好」都合な真実とは?グローバルな消費者心理の核心に迫る
 
日 程:2025年7月16日(水)19:00-21:00
場 所:Ritsumeikan Osaka-umekita Open innovation Terrace(ROOT)およびZoom使用によるオンライン開催
ゲスト:立命館大学 経営学部 教授 寺﨑 新一郎 氏
後 援:立命館大学経営学会
サロン委員:依田 祐一・寺﨑 新一郎・信國 恵美・栗原 奈王子
 
【ゲストプロフィール】
寺﨑 新一郎 氏寺﨑 新一郎(テラサキ シンイチロウ)氏
立命館大学経営学部教授、日本マーケティング学会及び異文化経営学会理事。
早稲田大学商学部卒業。同大学院商学研究科博士後期課程修了、博士(商学)。九州大学助教等を経て現職。専門は経営学/マーケティング、観光学。
主著に『グローバル社会の消費者心理』(早稲田大学出版部)、『多文化社会の消費者認知構造』(早稲田大学出版部)、翻訳書に『インタビュー調査法の基礎』(千倉書房)。受賞歴に日本マーケティング学会「日本マーケティング本 大賞2021」準大賞、2022年、異文化経営学会賞および日本商業学会奨励賞(ともに著書部門)、2024年、異文化経営学会賞(論文部門)など。
 
【サロンレポート】
 日本はいかにして世界の人々の〈こころ〉をつかみ、その結果として自国の製品・サービスの海外展開を促進し、さらには国家イメージそのものを底上げしていくのか。本サロンでは、こうした問いを軸に、グローバルな消費者心理の核心に迫る講演が行われました。
 著書『多文化社会の消費者認知構造』で学会賞をトリプル受賞した著者が、新書『グローバル社会の消費者心理』をもとに研究のエッセンスをわかりやすく解説。「コンテンツ大国・日本」をより面白く、より強くしていくための視点とともに、消費者心理に関心を持つ多様な参加者の関心に応える、現代的で示唆に富んだ内容となりました。
 今回は、立命館大学経営学会の後援のもと、話題の「グラングリーン大阪」内、JAM-BASEに位置する立命館大学の新たなオープンイノベーション拠点「ROOT」で開催されました。学生も多数参加し、ミニグループトークを交えた活発な意見交換が行われたほか、講演後は久しぶりに飲食を伴うサロン形式で、参加者同士の交流も大いに盛り上がりました。
 
講演の様子 講演の様子
 
1.消費を生むのは、対日「好意」という見えない資産
 インバウンドは、単に「人を動かす」ビジネスではない。コロナ禍を経て、日本のインバウンドは再び急速な回復を遂げている。訪日外国人は年間4,000万人規模に達し、消費額は10兆円を超える見込みだという。この規模は、外貨獲得という観点では自動車産業に次ぐレベルであり、インバウンドはすでに巨大な「輸出産業」となっている。
 しかし、こうした動きを単なる「観光需要の回復」として捉えるだけでは、本質を見誤ってしまう。講演では、インバウンドをこれまでとはまったく異なる角度から捉え直す視点が提示された。
 その核心にあるのが、「感情が生み出す経済」という考え方である。人々の移動や消費を生み出しているのは、数や一時的なブームではなく、日本との接触を通じて育まれる好意や共感といった〈感情〉そのものだという。
 
2.観光ではなく、「輸出の起点」
 コロナ禍で自由に移動できない時期、人々はNetflixなどを通じて日本のコンテンツに触れ続けてきた。その蓄積が、「実際に現地を訪れてみたい」という欲求となって噴き出し、コロナ後の訪日客増加につながっている。
 インバウンドはしばしば「訪日消費」として語られる。しかし、寺崎氏が強調するのは、その“先”にある動きである。外国人は日本を訪れ、体験し、帰国する。そして帰国後もなお、日本の商品や文化を選び続ける。
 つまり、インバウンドとは単なる来訪ではない。「来てもらう → 好きになる → 帰国後も買う」、この循環こそが、輸出を生み出す起点としてのインバウンドの本質なのである。
 
3.人はなぜ、その国を「好きになる」のか
 人がある国に好意を抱く。その背景にある鍵が、「アフィニティ(好意・愛着・賞賛)」である。この感情は、政治や経済といったマクロな要因から生まれるものではない。むしろ、人々が日常的に接するコンテンツや体験を通じて育まれていく。
 たとえば、韓国に対する好意は、外交関係や経済指標ではなく、ドラマや音楽といったポップカルチャーから広がってきた。消費者の感情は国家レベルの議論ではなく、身近な接触の積み重ねによって形成されているのである。
 一方で、「アニモシティ(敵対感情)」は、政治や経済をきっかけに生じやすい。しかし研究によれば、こうした感情は一時的なものであり、多くの場合、半年程度で収束することが分かっている。
 重要なのは、長期的に人の行動を動かすのは、政治や経済ではなく、文化や体験、そして人との接触だという点である。
 消費を動かしているのは「国家」ではない。一人ひとりの個人的な体験こそが、国への好意を育て、その後の選択を左右している。
 
4.コンテンツは入口、体験が決定打
 重要なのは、インバウンドは「来てもらって終わりではない」という点である。日本を訪れ、そこで良い体験をすると、人々は帰国後も日本の商品や文化を選び続けるようになる。こうした行動は、結果として輸出の促進につながっていく。この循環を、寺崎氏は「インバウンド・アウトバウンドループ」と呼ぶ。
 観光の本質は、五感を通じた体験にある。空気、音、匂い、食事、人との交流・・・これらは、現地に足を運ばなければ得られない価値である。たとえばスイスの風景も、映像や写真で見るのと、実際に訪れて体感するのとでは、まったく異なる印象をもたらす。こうした体験は、コンテンツだけでは再現できない。
 また、観光は単なる娯楽にとどまらない。旅は、自分自身の価値観や「自分らしさ」に気づく機会にもなる。
 コンテンツは訪日の動機にはなるが、最終的に消費行動を決めるのは、現地で得られる五感体験である。そしてその体験が記憶に刻まれ、感情として蓄積されていくことが、帰国後の選択を左右していくのである。
 
5.「満足」だけでは再訪しない
 楽しいだけでは、人は戻らない。再訪や継続的な消費を生む鍵となるのは、満足度そのものではなく、好意や愛着といった感情の変化である。
 その一例が、日本のお菓子のサブスクリプションサービスである。海外ユーザーの約9割は欧米の消費者であり、単に「味」だけでなく、日本のお菓子にまつわるストーリーや背景が高く評価されているという。また、日本の即席麺も海外で非常に高い人気を誇っており、日常的な消費の中に日本への好意が組み込まれている。
 アニメ、食、職人文化、きめ細やかなサービス・・・これらは日本の強みであり、世界的に見ても高い競争力を持つ分野である。日本は、消費者のアフィニティ(好意・愛着)を生み出しやすい豊かな資産を有していると言えるだろう。
 一方で、サービスの質に対して価格が低く、生産性が伸び悩んでいること、人手不足やオーバーツーリズムといった課題も存在する。インバウンドを「感情を育てるビジネス」として持続的に発展させていくためには、こうした構造的課題と向き合うことも不可欠である。
 
6.結論
 インバウンドとは、「感情を育てるビジネス」である。日本に対する好意や愛着、賞賛といったアフィニティを生み出し、育てていく装置として機能し、その波及効果は、旅行者が帰国した後も持続していく。
 重要なのは、どれだけ多くの人を呼び込めるかではない。どれだけ深く「好きになってもらえるか」である。
そこにこそ、インバウンドの本質がある。
 
集合写真
集合写真
 
(文責:栗原 奈王子)

 
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