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第233回マーケティングサロンレポート「令和における地方局の価値創造」 |
第233回マーケティングサロン:東京
テーマ:令和における地方局の価値創造
日 程:2026年9月2日(水)18:30-19:30
場 所:東海大学 高輪キャンパス 4102教室
ゲスト:フリーアナウンサー 吉道 さゆり 氏
サロン委員:小谷 恵子・渡邊 力・福田 徹・島貫 亮輔
【サロンレポート】
能登半島地震の現場から問う、地方局の“価値創造”
第233回マーケティングサロンでは、フリーアナウンサーの吉道さゆり氏をお迎えし、「令和における地方局の価値創造」と題してご講演いただいた。吉道氏は、自身のアナウンサーとしての経歴と、2024年の能登半島地震における報道経験を踏まえながら、地方局が今の時代に果たすべき役割と、その価値をどう高めていくかについて語った。講演では、メディアの価値を「信頼される力」「コンテンツ力」「アクセシビリティ」「共有力」という独自の4つの要素で整理したうえで、進行するテレビ離れの現状と、地方局が直面する構造的な課題が示された。
1. テレビ局の二面性と「メディアの4つの価値」
吉道氏はまず、テレビ局が持つ二面性として、報道機関としてのジャーナリズム機能と、視聴率を獲得するマーケティング機能を併せ持つ存在であると位置づけた。そのうえで、メディアの価値を測る独自のフレームワークとして、①信頼される力(情報の信頼度)、②コンテンツ力(情報の質)、③アクセシビリティ(情報への到達しやすさ)、④共有力(情報の拡散力)の4要素を提示。NHKの調査結果にも触れながら、特に10代・20代の若年層でテレビ視聴時間が急激に減少している「テレビ離れ」の現状を、地方局が向き合うべき前提として共有した。
2. 「信頼される力」——非常時にこそ問われる存在意義
能登半島地震やコロナ禍初期のように情報が錯綜する状況では、自治体からの情報を整理し、正確に届ける地方局の役割が改めて認識されたという。系列局から派遣される応援チームは現地の地理感に乏しいことが多く、地元の地理的・社会的な事情を熟知した地域密着メディアの存在は、取材の質を支えるうえで欠かせないと指摘した。加えて、近年はアナウンサー個人のSNSアカウントが局公式アカウントよりも大きな影響力を持つケースが増えており、「個人への信頼」が「局への信頼」に直結する構造になっている。だからこそ、アナウンサー一人ひとりに高い倫理観が求められると強調した。
3. 「コンテンツ力」——強みと、抱えるジレンマ
地方局の強みとして、専門職が集まり質の高い映像を制作できる専門性、取材交渉を後押しする信頼とネームバリュー、独自コンテンツを生む地域密着型の取材力が挙げられた。一方で、従来のやり方に固執しがちな体質、主要視聴者である高齢層に最適化された番組作りが若者離れを助長している点、そして厳格化するコンプライアンスが表現の幅を狭め、当たり障りのない内容に陥りかねない点が課題として示された。
4. 「共有力」——SNS戦略の現在地
多くの地方局がSNSでニュースを発信しているものの、放送内容を単に切り貼りするだけでは面白みに欠け、再生回数が伸び悩んでいる実態が紹介された。スポンサーとの契約上、情報番組コンテンツの二次利用が難しいという構造的な問題もある。また、放送後の「収録後雑談」的な投稿は多い一方、視聴を後押しする放送前の「引き」の投稿が極めて少ないことも指摘され、若年層をテレビ視聴へ誘導するには、放送前の番宣をSNS上で強化することが効果的だと述べた。
5. 地方局の生き残り戦略
価値向上の方策として、まず災害報道における行動規範の徹底が挙げられた。報道陣の行動一つがSNSで拡散され、局への信頼に直結するため、「被災直後の被災地に入る必要があるのか」という被災地の声と「伝えなければ支援が届かない」という使命をどう両立させるかが鍵になるという。コンテンツ戦略としては、石川県民の食への関心の高さを踏まえたグルメコーナーの冒頭配置など大胆な番組構成の見直し、地方スポーツチームの増加を背景にした土曜スポーツ番組の新設、地域の食関連団体とのInstagram共同投稿といった外部連携の強化が紹介された。また、かつては敬遠されがちだったアナウンサーの個性発信が、今では視聴者との共感を生む要素として肯定的に評価される潮流にあるとし、過度に萎縮せず自然体で発信することの重要性を語った。SNS運用については、予算と人員を投下し、外部の専門家(インフルエンサー等)とも契約しながらクリエイティブに取り組むべきだと述べた。さらに組織改革として、40代を副社長に登用するなど年齢を定めたポストを新設し、若い世代の意見を強制的にでも組織に反映させていく必要性を提案した。
6. 民放・スポンサー・地域の関係性
NHKが安定した高品質のコンテンツを提供するのに対し、民放は視聴率競争の中から生まれる魅力や多様性を提供しており、両者の存在はともに不可欠であるとの見方が示された。地方スポンサーについては、高齢者に対するテレビの影響力を重視し、販促効果を期待して出稿を続けるケースが多いという。都市部の広告が「商品広告」中心であるのに対し、地方では建設会社やBtoB企業などによる、採用や信用形成を目的とした「企業ブランディング」広告が多い傾向にあることも紹介された。
7. 質疑応答
質疑応答では、NHKと民放それぞれが担う役割の違いや、地方スポンサーがテレビ出稿に何を期待しているか(商品広告か、企業ブランディングか)といった論点を中心に、活発な議論が交わされた。
まとめ
本講演は、災害報道の最前線に立った当事者の視点から、地方局が「信頼される力」「コンテンツ力」「アクセシビリティ」「共有力」という4つの価値をいかに再構築していくかを具体的に描き出すものであった。SNS時代における個人の影響力と組織としての倫理観の両立、既存視聴者層への最適化と若年層の開拓というジレンマへの向き合い方など、参加者にとって自社の情報発信やコンテンツ戦略を見直す多くの示唆を含む内容であった。

ゲスト・サロン委員・参加者による集合写真
(文責:島貫 亮輔)

