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第30回マーケティングサロンレポート
「タカラヅカ 100年続いたロマンと算盤」

第30回 マーケティングサロン
「タカラヅカ 100年続いたロマンと算盤」

日程:2015年5月22日(金)19:00~21:00
場所:グランフロント ナレッジサロン会議室
ゲスト:人材コンサルタント 森下信雄氏 (元)(株)梅田芸術劇場常務取締役
テーマ:元・宝塚総支配人が語る「タカラヅカ」の経営戦略
サロン委員:太田昌宏・本下真次

 

【サロンレポート】
 昨年創立100周年を迎えた宝塚歌劇団は、女性だけで演じる世界に類を見ないユニークな劇団として、独自の発展を遂げてきました。今回は、長年にわたり歌劇事業全般の運営に携わり、今年1月に「元・宝塚総支配人が語る「タカラヅカ」の経営戦略」を出版された、森下様にタカラヅカのビジネスモデルについて、ご自身の経験談を交えながら、ざっくばらんにお話いただきました。
 
ゲストの森下さん ゲストの森下さん、会場の様子
写真左から、ゲストの森下さん、会場の様子
 

1 . 黎明期のタカラヅカと環境変化への対応
①黎明期のタカラヅカ
 宝塚歌劇団は、阪急グループの創始者である小林一三氏が、1910年に箕面有馬電気軌道(現在の阪急宝塚線)を開通させ、その旅客誘致の為に翌年「宝塚新温泉」を開業したことがきっかけに生まれました。
 宝塚歌劇は発足当初から事業自体で利益計上を求められず、旅客誘致による鉄道運賃収入極大化が主たる事業目的でしたので、「公演回数を限りなく増やす」という命題がありました。そして、歌劇事業で発生した赤字は、実質的に阪急本社の広告宣伝費扱いとされていました。こうした気楽な立ち位置は結果的に、垂直統合度の高いビジネスモデルや自主制作・主催興行の充実に繋がりました。
 
②外部環境の変化への対応
 「JRグループ誕生による鉄道事業の競合激化」「少子高齢化に伴う沿線人口の減少による鉄道・不動産事業の成長鈍化」の外部環境の変化に加えて、部門別収支の厳格な外部チェックという経営スタイルの変化があり、宝塚歌劇事業も事業性を厳しく問われるようになりました。
 そこで、事業性を厳しく問われない時代に培った垂直統合システムをベースに「主催興行の質・量両面での充実」と「巧みな著作権管理手法」「地方公演の拡充による実質的なロングラン興行」のような戦略を複合的に編み出すことにより現在に至る安定的な収益の拡大を果たしました。
 
2. 100年続いたビジネスモデルの特徴
①「創って作って売る」垂直統合システム
 公演回数を限りなく増やすことが求められた歌劇事業は、効率性を求められたので、宝塚大劇場周辺に衣装・道具の製作場や歌劇事務所、稽古場、音楽学校といった関連施設が集中して設置され、以下のような一気通貫の垂直統合システムが生まれました。
「創って」:歌劇団に雇用されている団員である作家・演出家が作品を作っているので、独特の美意識、世界観を醸成
「作って」:演出家と裏方(歌劇団の舞台スタッフ)と顧客情報や美意識、世界観を共有しながら製作。劇団生とスタッフの阿吽の呼吸でできる「早変わり」
「売る」:熱烈なファンによる独特なファンクラブ(私設、宝塚歌劇団への届け出制)による券売システムと事業部の団体客の確保
 
②自主制作、主催興行の質・量両面での充実
 前述の垂直統合システムをフルに活用することで、自主制作、主催興行の質・量を充実させ、収益を確保すると同時に美意識や世界観を担保しています。
 
③巧みな著作権管理手法
 歌劇団が著作権を一括管理して、劇団が望む時期に、望む作品を上映できるようにしています。見返りとして作家・演出家は「団員」として終身雇用により身分が保障されています。
 
④実質的ロングラン興行戦略
 5つの組の公演回数が平等に割り当てられる宝塚歌劇は、通常人気が出た公演では当たり前のロングラン公演による収益向上策が打てません。それを補完する意味で、「全国ツアー」があり、本公演で上映された演目がそのまま充てられるのが通例です。
 
3. シロウトの神格化
 宝塚歌劇の世界における「シロウトの神格化」とは、「未完成」をファン・コミュニティが「共に」共感、熱狂しながらバージョン・アップしていくプロセスです。宝塚歌劇では、「男役10年」と言われるように、下記のモデルケースに代表されるようなステップを通じて、トップスターに上り詰めていきます。
 宝塚歌劇団入団→「銀橋」を渡る→「新人公演」主役→本公演役付き→バウホール公演座長→大階段「羽根」→「2番手昇格」→シアター・ドラマシティ公演座長→トップスター

 

【サロンを終えて】
 今回は、関西サロンらしい企画として、関西の地に誕生し、100年の歴史を重ねる稀有で日本独特のエンターテイメント「宝塚歌劇」をテーマに選びました。マーケターは、現場が大切ということで、サロン委員の有志による「宝塚歌劇事前鑑賞会」を実施し、お客様の9割以上が女性という環境の中で、男性サロン委員は臆することなく、初観劇を堪能しました。
 サロンでは、森下さんのざっくばらんなお話ぶりのお蔭で、楽しく拝聴し、時間ぎりぎりまで多くの質問が出ました。私には劇団に在籍している身内がいますので、マーケターと親の両方の立場から多くの気づきを得ました。熱意あふれる講師役を務めていただきました森下さんに改めて感謝致します。
 
集合写真
集合写真(前列中央 森下信雄氏)
 
(サロン委員:太田昌宏)

 
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