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研究報告会レポート

第3回ユーザー・コミュニティとオープン・メディア研究報告会(春のリサプロ祭り)レポート「コミュニティ・ジェネレーション-クリエイティブ・ユーザーの創作行動に迫る-」

第3回 ユーザー・コミュニティとオープン・メディア研究報告会(春のリサプロ祭り) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:コミュニティ・ジェネレーション-クリエイティブ・ユーザーの創作行動に迫る-
ゲスト:オフィスサークル ツインドリル代表 小山乃 舞世 氏
日 程:2018年3月17日(土)10:30-12:00
場 所:中央大学後楽園キャンパス

 
【報告会レポート】
 本研究会では、製品、サービス、コンテンツのユーザー(消費者)・コミュニティの仕組みとユーザー行動の観察を通じて、売り手と買い手が共創して付加価値を生み出すダイナミクスとその理論化を目指している。
 
第1部 クリエイティブ・ユーザーの行動調査研究
片野 浩一(リーダー 明星大学 経営学部 教授) 石田 実(東洋大学 経営学部 講師)

 「初音ミク」とこれに関連するボーカロイド楽曲や動画のコンテンツを創作してコミュニティに投稿するクリエイティブ・ユーザーの行動について、フォーカスグループ・インタビューと質問紙調査を実施した結果について報告した。グループ・インタビュー調査結果から、①協働創作(コラボレーション)に係る協力行動の過程で、作品の完成を真摯に目指すビジネスライクな姿勢や自己のステップアップといった成果が強調される一方、②オリジナルと二次創作の間にある共創的な関係を好意的に捉えていた。
 続く、質問紙調査から、①ユーザーの創作投稿行動モデルと仮説を検証し、創作投稿の目的、知識・経験と能力、コミュニケーションなどの変数が、創作活動に影響を与え、経済成果と注目交流成果への影響も確認した。②協働創作(コラボレーション)活動に関する動機づけ・コラボレーションモデルからは、コラボの場がエキスパート(熟達者)よりもビギナー(初心者)にとって有効な仕組みであることが検証された。
 
第2部 「重音テト」の偶発と創発
ゲスト講師:小山乃 舞世(オフィスサークル ツインドリル代表)

 「重音テト」とは、メーカー開発の「初音ミク」のシミュラークル(オリジナルなき模倣)としてユーザーが創造したバーチャルシンガーである。その誕生は、偶発と創発である。小山乃氏とその有志は「初音ミク」シリーズの新製品予告をエイプリルフールにフェイクとして発信し、このコミュニティでの盛り上がりがきっかけとなって、本家の仕様を模倣する「重音テト」が誕生した。フリーソフトとして他者が開発していた歌声合成エンジン(UTAU)を使い、サイトを通じて、その音源ソフトウェアは無償で公開、提供されることとなった。このソフトウェアを使用したユーザーの創作が活発になり、人気が拡大するにおよび、「初音ミク」の発売元から公認を受けた。ビジネス機会として、コンビニエンス・ストア・チェーンとのコラボ商品開発や、avexからCDアルバムのリリースも実現した。2018年で登場から10年がたち、今なおファンからの支持が続く。小山乃氏は、人気を出して利益追求に走らず、ボランティアとしての有志がユーザーの声に耳を傾けて対応してきたことが、長く市場から支持されてきた要因だったと語る。ユーザー・コミュニティ創発でメーカー主導の「初音ミク」と並ぶコンテンツとして育った「重音テト」の事例から、われわれはユーザー生成コンテンツの偶発的かつ創発的な誕生プロセスの希少性をみるとともに、著作権の柔軟な運用が、これを可能にした先見性を伺うことができる。
 
 なお、本日の研究報告成果を収録した『コミュニティ・ジェネレーション』(千倉書房刊)も併せて参照していただきたい。
 
(文責:片野 浩一)

 
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