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研究報告会レポート

第6回アジア・マーケティング研究報告会(春のリサプロ祭り)レポート「多型化する時代のマーケティングを考える」

第6回 アジア・マーケティング研究報告会(春のリサプロ祭り) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「多型化する時代のマーケティングを考える」
日 程:2019年3月16日(土) 14:45-16:15
場 所:青山学院大学青山キャンパス
 

【報告会レポート】
 近年グローバル範囲における環境の変化、広範囲の技術革新が世界を大きく変えつつある。こうした環境の多型性(ポリモルフィズム)の進行に伴うマーケティングの課題について考えていくのが本セッションの目的である。同日の報告内容の概要は以下の通りである。
 
(1)解題:「ポリモルフィック・マーケティングとは」

上原 渉 氏(一橋大学大学院 商学研究科 准教授)

 現在起きている技術進化に伴うマーケティングの進化は多型化という概念で説明できる。
 従来のマーケティング・マネジメントは、企業(売り手)と顧客(買い手)の関係が明確であったため、両者の取引のパターンが単型(モノ)であることを前提としていた。しかし近年における売り手・買い手の境界の喪失や新たなブランドの生まれ方などから、マーケティング・マネジメントの前提が変化しつつあることが示されている。
 これは、技術進歩によってマネジメントの対象が取引から個々の消費へと変化したことに起因する。消費のコンテキストは多様であるし、消費者のニーズは時間的に変化する。こうした多様な消費に焦点を当ててみると、これからのマーケティング・マネジメントはポリモルフィック・マーケティングの時代に突入しつつある。
 
(2)有識者講演:「自動車業界におけるポリモルフィック・マーケティングの展開」

後藤 晋哉 氏(Audi Japan KK, Marketing Communication Div. 戦略企画リサーチスペシャリスト)

 ポリモルフィック・マーケティングという概念について、自動車業界の最新の動向から検討する。
例えば、アウディが将来計画に上げているFunction on Demandや米国で実施中のAudi Select、2019年のCESで紹介されたholorideなどがある。また、自動車各社が提供しているコネクテッドカーに属するサービスも上の概念に沿ったものと言える。これらはすべて、消費者の要望あるいはセンサー等で把握された車内の状況を起点にして機能(サービス)を提供するものであり、「いま・ここ・だれ」に応じた商品(実際はサービス化されている)が提供されている。実際クルマは、提供するサービス(=移動)も快適・安全・大量・迅速など多様であり、また利用者も固定された個人ではなく複数であるなど、まさにポリモルフィック(多型化)されたマーケティングが必要な商品であると言える。
 現在自動車メーカーは技術部門を中心とする商品開発部門と、事務部門である営業・マーケティング部門がはっきりと分かれている組織になっているところが多いが、ポリモルフィックマーケティングへの対応のためには、発売後も商品が自らの形を変化していくことが必要になる。この点から、二部門の垣根を越えた組織的対応が重要になっていくと思われる。
 

後藤晋哉氏の講演の様子
 

(3)研究報告「メセナによるブランドの多型化」

薗部 靖史(東洋大学 社会学部 准教授)

 多型化が進む社会において、例えば写真や動画の撮影が禁止されている芸術鑑賞のように、可視化されにくい旧来型のネットワークとしてブランド・コミュニティに着目した。本報告の目的は、企業がメセナという事業と異なる活動をマーケティング・コミュニケーションに活用することによって、新たなブランド・コミュニティが構築される可能性を検討することである。
 メセナとはフランス語で芸術支援を意味する。日本において音楽や美術に関するものが数多く実施されており、企業イメージの向上や顧客との関係づくりに寄与するものとして企業から期待されている。1990年以降、企業の社会貢献支出比率は低下の一途を辿っていた。しかし、2016年に文化・芸術には同比率が17.2%で第2位となり、注目が高まりつつある。
 メセナは特定の対象への支援を通じてマーケティング資源にアクセスすることを企図したスポンサーシップの一種として捉えることができる。スポンサーシップはスポーツ分野を中心に研究が進められており、ブランド知識転移に関して理論的および経験的に考察が加えられている。これとは別に、ブランド拡張に関する研究において機能ベースとプレステージ・ベースの類似性が存在し、実証を含めた議論が行われている。特に後者に関しては、消費者における当該製品に関するブランド知識が重要であるという指摘もされている。
 これをメセナによるブランディングという文脈で捉えなおして検討した結果、製品ブランドで消費者に認識されているプレステージと機能性それぞれの高さが、メセナによる支援対象のプレステージとエンタテインメント性の高さに対応するというフレームワークが導出された。これらの組み合わせがブランド評価にどのように影響するのかについて明らかにするために、今後、実験調査を実施して分析を進めていきたい。
 
(文責:金 春姫)
 

参加者とのディスカッションの様子

 
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