第6回ユーザー・コミュニティとオープン・メディア研究報告会レポート「Panasonicビューティフルジャパン」のコミュニケーションと共感の効果 |
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テーマ:「Panasonicビューティフルジャパン」のコミュニケーションと共感の効果
日 程:2020年2月21日(金)19:00-20:30
場 所:東洋大学 白山キャンパス
【報告会レポート】
第1部「ビューティフルジャパン」の取り組みと成果
野村 智之、鐵 祐子(パナソニック株式会社コンシューマーマーケティングジャパン本部コミュニケーション部)
オリンピック、パラリンピックのワールドワイド公式パートナーであるパナソニック株式会社は、東京2020を日本全体での大会ととらえ、日本をひとつのチームにするプロジェクト「ビューティフルジャパン(Beautiful JAPAN towards 2020)」を2014年9月より開始した。アンバサダーに女優の綾瀬はるかさんを迎え、約6年をかけて47都道府県を一つひとつ訪ね、アスリートたちとともに「挑戦することの大切さ」「夢を追うことの素晴らしさ」「日本の美しさ再発見」を発信してきた。プロジェクトにご協力いただいたアスリートは約1600名、映像にして400本以上をテレビCMやWEBサイト、各種SNSを通じて発信した。
このプロジェクトでは従来の宣伝(=全国一律、マス広告中心、単発型キャンペーン)とは異なる新しいコミュニケーション戦略(=地域、店頭中心、蓄積型コミュニケーション)を展開している。①各都道府県の地域軸として、地元のアスリートに焦点を当て、地域の美しい風景とともに撮影する。②スポーツ・アスリート軸として共感コンテンツ(夢にすべてを捧げるアスリートたちの姿、家族や仲間、コーチへのインタビュー、綾瀬はるかさんと触れ合う模様)を制作して、オリンピック・パラリンピックの様々な競技を取り上げた。③口コミ拡散軸として、メディアのデジタル特性を徹底的に活用する。オウンドメディアのほか、動画や写真の全てのコンテンツをWEBに集約して、Facebook、Twitter、Instagram、で拡散した。これらの取り組みは2020年9月まで店頭・宣伝、WEBなどで実施していく。
これらの取り組みの成果として、パナソニックのブランド価値が向上し、4Kテレビ「VIERA」の購入意向の高まりと実際の売上増加、また新しいコミュニケーションの仕組み(長期間にわたる自社SNSのエンゲージメント、地域限定の店頭プロモーション、放送局や新聞社によるニュース話題の拡散)ができたことが挙げられる。
https://panasonic.jp/bj2020/
第2部 コミュニケーションにおける共感の効果
石田 実(東洋大学 経営学部 准教授)・片野 浩一(明星大学 経営学部 教授)
消費者の共感性は動画コンテンツの視聴と推奨にどのように影響するか。本報告では、消費者行動やプロモーションの研究におけるコミュニケーション・プロセスにおいて、重要な要素として位置づけられる「共感」(empathy)の概念を社会心理学の研究成果を使って掘り下げ、共感を受動的な反応だけでなく、より積極的にプロモーション効果に与える影響を研究した。プロモーション・コンテンツのメディアとして、オープン・メディアであるYouTubeに公式チャンネルを開設して動画を発信する企業が増えている。そこで、視聴者ユーザーは、企業が発信する動画コンテンツに対して、どのような対象に注目して共感反応を示すのか、その意図は伝わっているのかについて動画視聴を入れた質問紙調査を通して実証研究する。共感性概念は、アダム・スミスの『道徳感情論』において社会経済の秩序を形成する重要な人間の反応として注目されたところから研究が始まるが、本研究では社会心理学の多次元的共感尺度を使って被験者個人の共感性を測定した。対象となる動画コンテンツは、BJ2020のシリーズから3つのスポーツ(女子サッカー、サーフィン、パラ水泳)を選んだ。モデルでは、まず個人の共感性を5つの下位尺度から測定した。共感性は他者指向性と自己指向性の2つに収束し、このうち、他者指向性が動画コンテンツの共感反応にプラスに影響した。共感の対象は、アスリート共感と企業共感に視点取得され、企業共感が愛着と推奨に影響していた。被験者のグループ別では、年齢が若いほど自己指向性の共感が強く、女性とオリンピックに関心が高い人ほど動画への共感反応が強いという違いが見られた。インプリケーションとして、他者指向性がコンテンツへの共感反応に結びつくことと、コンテンツの視点取得の対象としてタレントへの共感が大きくなることを示した。
最後に会場出席者との質疑応答を行った。BJ2020プロジェクトから、撮影の苦労話のほか店頭プロモーションと連動する重要性などを語っていただいた。コミュニケーションと共感効果の研究報告では、動画と記事による共感反応の違いが見られない理由について議論が行われた。
BJ2020プロジェクトは、大手メーカーのプロモーションとして、伝統的なマスメディアに依存しないオープンメディアの特性を最大限に活用するユニークな取り組みであった。なかでもデジタルの強みを生かしながらローカルなアスリートをアナログ目線で取り上げるクリエイティブなコンテンツ創りが光る。
2019年度もご参加いただき、ありがとうございました。2020年度も魅力的な研究報告テーマを企画してまいりますので、どうぞよろしくお願いします。
(文責:片野 浩一)