リサーチプロジェクト
研究報告会レポート

第7回宇宙航空マーケティング研究報告会レポート「月面都市のマーケティング 〜AIで切り開く、月面都市ビジネス〜」

第7回宇宙航空マーケティング研究報告会(リアル開催) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:月面都市のマーケティング 〜AIで切り開く、月面都市ビジネス〜
日 程:2023年7月8日(土)13:00-17:00
場 所:立命館大学大阪いばらきキャンパス B棟5階 クロノトポス
 
【報告会レポート】
1. 冒頭挨拶
伊藤 真之(一般社団法人ABLab 代表理事)

 

2. 講演『月に住むための人工重力施設「ルナグラス」』

大野 琢也 様(鹿島建設株式会社)

 大野氏は、月面の低重力が人間の身体に及ぼす潜在的な影響と、それを解決するための人工重力施設の設計についての洞察を共有した。
 低重力環境の問題性は、月面での生活が人類の現実になるにつれて増大している。月の重力は地球の1/6で、これが引き起こす健康問題は、楽しげな低重力体験の裏に隠れている落とし穴だ。実際に、低重力環境での生活が起因となる不可逆的な症状や、NASAが指摘する5大課題の1つであるとの報告がある。特に、子供の誕生における影響は致命的であるとの指摘もある。
 この課題を解決するために、大野氏は「ルナグラス」という概念を提案した。これは、人工重力を生み出すための施設で、地球上の重力を再現するために、回転ブランコの原理を応用する。具体的には、0.37Gを1/3Gに増加させ、最終的に1Gを再現する。
 この施設は、月面に限らず、火星など他の天体においても同じ原理で動作し、それぞれの天体の重力に適応した建築物のデザインを可能にする。ルナグラスの設計には、月面での適応、回転力の利用、エネルギー効率化などが考慮される。さらに、快適性を保つためには、単に速度ではなく、加速度と加加速度のコントロールが必要だと強調した。
 ルナグラスの構造は、高さ400m、直径200mで、住宅、海、ガラス、プラットフォームからなる層構造で構成される。運動エネルギーを一定のエネルギーに変換することでエネルギーを節約する。
 放射線対策としては、月面の溶岩湖の利用も提案された。このアイデアはSF的な要素を含んでいるが、現実のテクノロジーによって実現可能であると述べた。ルナグラスの規模は人口増加に応じて都市が拡張するように設計されており、持続可能なビジネスモデルと世代交代の考慮が重要と指摘された。
 講演の後半では、参加者からのQ&Aセッションが行われた。大野氏は、地下での実現可能性、動力源、停止時の対策、宇宙特有の建築物やアイデア、地球上での試作についての質問に対応した。地下での実現は、十分な回転スペースがあれば可能であり、動力については超電導等の技術が適用可能であると述べた。また、停止時の対策として火星の例を挙げ、水分が一定量以上供給されないようにする方法を提案した。宇宙特有の建築物やアイデアとして、月面でのバンジージャンプや、空気を充填した空間での飛行などを提案した。地球上での試作については、情報を公開できないが、低重力環境が健康に良いという研究もあると述べた。
 
3. パネルディスカッション『三方よしで考える、稼ぎ続ける月面都市とは』

パネリスト:湊 宣明(立命館大学大学院 教授)
      大野 琢也(鹿島建設株式会社)
      田中 秀明(NFTクリエイター)
モデレーター:伊藤 真之(一般社団法人法人ABLab)

 『三方よしで考える、稼ぎ続ける月面都市とは』と題したパネルディスカッションが開催された。湊宣明教授(立命館大学大学院)、大野琢也氏(鹿島建設株式会社)、田中秀明氏(NFTクリエイター)がパネラーとして参加し、モデレーターは伊藤真之氏(一般社団法人法人ABLab関西支部代表)が務めた。
 議論の焦点は「月面都市におけるより良い社会の構築」に置かれた。湊教授は取引の根底にある価値判断の逆転に着目し、月面都市開発のような長期にわたる大規模なビジネスを成功に導くには、近江商人の「三方よし」の考え方を取り入れて、商品やサービスの流れが社会全体に与える正負の影響を考えた、バランスのとれた意思決定を継続すべきだと指摘した。大野氏は月面都市に新たな価値を生み出す重要性を語り、また田中氏はNFTを用いた物流や価値の証明に触れた。
 質問コーナーでは、月面における日常生活とNFTの結びつきについて取り上げられ、大野氏はその実現に向けた法整備の必要性を主張した。さらに湊教授は経済圏の拡大による利点を、一方大野氏は行ける国が限られるというマイナス面を述べた。
 パネルディスカッションの後半部では、月面でのビジネスアイデアについて議論された。田中氏はエンターテイメント分野における感動体験の提供を提案し、大野氏は月面における一般公開のピタゴラスイッチを提案した。最終的に湊教授は1/6の重力を利用した医療・リハビリテーション施設の構想を提案し、月面の特異な環境を活用したビジネスモデルの可能性を示した。
 
4. ワークショップ「生成AIと創る、稼ぎ続ける月面都市 〜月面都市アイデアソン〜」

イベント参加者40名+ゲスト3名


 
 4つのグループに分かれてディスカッションが行われ、それぞれ異なるアプローチで月面都市に必要なビジネスを検討した。
 1つ目のグループは、「AI, ラグジュアリートラベル, 無重力スポーツ, 地球は使われなくなるのかなどのメンバー個々の視点で考える」というテーマで、それぞれの視点から新たなビジネスの可能性を追求した。AIの活用や高級旅行サービス、無重力を活かしたスポーツなど、様々な分野での月面ビジネスの可能性を探った。
 2つ目のグループは、「月面でのビジネスを衣食住とエネルギー分野の4つで考える→三方良しではなく四方良し」という観点から議論を進めた。基本的な生活需要を満たす事業や、月面都市におけるエネルギー供給の解決策について考察した。
 3つ目のグループは「ポストイットを活用したアイデアだし→共通するものでまとめる方法」でアイデアを出し、それらを共通のテーマで組み合わせた。視覚的な方法を活用して、様々なアイデアを共有し、その中から共通性を見つけ出すことで、より大きな概念や事業モデルを形成した。
 最後のグループは、「京都を月面で実現するに必要なビジネスを第一次産業,第二次産業,第三次産業で区分し考える」というテーマで議論を展開した。農林水産業や工業、サービス業といった各産業における月面都市の具体的な事業内容とその必要性について検討した。
 各グループの議論と発表はそれぞれの視点から深く掘り下げられ、多様な視点から月面都市のビジネス構想を探求する有益な時間となった。
 
5. 閉会挨拶

湊 宣明(立命館大学大学院 教授)

 イノベーションという言葉はラテン語の「innovare」(インノベーレ)から派生したものである。そして、その根底には「in-」(~の中に)と「novare」(新しくする)という2つの要素がある。これらの要素が結合し、「内側に新しさを取り入れ、外側に新しいものを生み出す」プロセスこそがイノベーションの本質であると述べた.
 湊教授はイノベーションの語源を踏まえつつ、今回の報告会やワークショップによって外部から取り入れた「新しい知識」と、参加者が以前から持つ「専門知識」を結合させることで、参加者全員がそれぞれのフィールドでイノベーションを目指していくことが重要である、と本研究会を締めくくった。

 
Join us

会員情報変更や、領収書発行などが可能。

若手応援割
U24会費無料 &
U29会費半額
member