リサーチプロジェクト
研究報告会レポート

第8回宇宙航空マーケティング研究報告会レポート「Impact Makersと学ぶ宇宙航空イノベーション戦略 ― ライト兄弟からイーロン・マスクまで ―」

第8回宇宙航空マーケティング研究報告会(リアル・オンライン併用開催) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:Impact Makersと学ぶ宇宙航空イノベーション戦略 ― ライト兄弟からイーロン・マスクまで ―
登壇者:木村 聡太 氏(株式会社SmartRyde 代表取締役)
    竹田 由利子 氏(パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 ディシジョンサポート室)
    徳田 昭雄 氏(学校法人立命館 副総長 / 立命館大学 副学長・経営学部 教授)
    湊 宣明 氏(立命館大学大学院 テクノロジー・マネジメント研究科 研究科長・教授)
日 程:2023年12月9日(土)17:30-18:30
場 所:立命館大学 大阪いばらきキャンパス 分林記念館およびZoom使用によるオンライン開催
 
【開催趣旨】
 ライト兄弟が人類初の動力飛行に成功して120年。起業家の夢は大空を飛び越え、遥か彼方の宇宙にまで挑戦のステージを広げています。今日ではSpace Xの創業者イーロン・マスク氏をはじめ、世界中の起業家が独自の発想でロケットや人工衛星の開発・事業化に挑み、宇宙ビジネス市場を活性化させています。第8回研究会では空と宇宙に挑んだ2人のImpact Makerを採り上げ、彼らがどのような戦略思想を持って宇宙航空イノベーションを実現するに至ったのかについて議論しました。
 
左より徳田 昭雄 立命館 副総長、竹田 由利子 氏、木村 聡太 氏、湊 宣明 教授
左より徳田 昭雄 立命館 副総長、竹田 由利子 氏、木村 聡太 氏、湊 宣明 教授
 
【報告会レポート】
 研究報告会は、立命館大学で宇宙航空領域のイノベーション戦略を研究している湊宣明教授をモデレーターに迎え、湊教授が指導した宇宙航空ゼミの卒業生である木村聡太氏(株式会社SmartRyde代表取締役)と竹田由利子氏(パナソニックオペレーショナルエクセレンス株式会社ディシジョンサポート室)、および徳田昭雄副総長が登壇しました。セッションは、空と宇宙に挑んだライト兄弟とイーロン・マスクそれぞれの戦略思想を竹田氏と木村氏が紹介することから始まりました。
 
 竹田氏は、ライト兄弟のイノベーション戦略の特徴を「航空の先駆者に師事し、最先端の飛行理論を研究したこと」「グライダー実験でパイロットの操縦能力を身につけ、有人動力飛行を発展させたこと」「自己資金での小規模開発と、技術を秘匿し適切な時期に公表する戦略」であると紹介しました。これは、限られた資源の中でイノベーションを起こすための戦略であり、現代のスタートアップにも通じる考え方です。
 
 イーロン・マスクのイノベーション戦略について解説した木村氏は、自身が空港送迎に特化したオンライン旅行プラットフォームを起業した経験を踏まえ、「起業家目線でマスク氏の戦略を分析した」と説明。ロケット開発の過程で何度もの失敗を経験しながら最終的に成功させたプロセスは、スモールビジネスから事業を拡大するベンチャーの手法に沿っていると指摘し、「異なる技術領域(自動車、宇宙、エネルギー)への参入と技術革新、破壊的イノベーションの融合」「再利用可能なロケットのシリーズ展開による低コスト化の実現」「ロケットから衛星開発、サービスまでの複合事業の水平展開」の3点を特徴として挙げました。マスクのアプローチは、大規模な資金投入と公開イノベーションを通じて、既存の業界構造を変革し、新しい市場を創造することに成功しています。
 
 続いて、湊教授と徳田副総長を交えて両者のイノベーション戦略を比較しました。徳田副総長は、共通点が多いものの、技術を秘匿し自己資金のみで開発したライト兄弟が最終的に特許争いで敗れたことを挙げ、「イノベーションを実現するための必要条件はあったが、普及させる十分条件を満たせなかった」と指摘。対照的に、イーロン・マスクは技術をオープンにすることで業界全体の革新を牽引し、事業売却による大規模資金調達でビジネスを加速させた点が優れていると述べました。この点から、イノベーションの持続可能性と普及には、技術の公開と資金調達戦略が重要であると言えます。
 
 さらに徳田副総長は、「両利き(ambidexterity)」という経営学の概念を関西の大企業の事例を用いて紹介。企業が既存事業の「知の深化」と、新規事業の開拓における「知の探索」を同時にバランス良く行うことで、サバイバルとイノベーションを両立させる両利きの経営が可能であると説明しました。このアプローチは、企業が長期的な成長を達成するためには、既存のビジネスモデルを維持しながらも、新しい市場や技術への進出を図る必要があることを示唆しています。
 
 セッションの最後に、モデレーターである湊教授から、立命館大学が2023年7月に設立した宇宙地球探査研究センター(ESEC)についての紹介がありました。ESECでは、人類の生存圏の拡大に貢献することをミッションとし、現在進行中の有人宇宙探査拠点開発や、月や火星での人類の生活を実現するためのテクノロジー研究に焦点を当てています。また、今年12月に宇宙飛行士野口聡一氏が研究顧問に就任したことが発表されました。
 
参照:https://www.ritsumei.ac.jp/news/detail/?id=3501
 

 
Join us

会員情報変更や、領収書発行などが可能。

若手応援割
U24会費無料 &
U29会費半額
member