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研究報告会レポート

第6回健康アセット・マーケティング研究報告会レポート「IKIGAI WORKSが考える健康経営、ワークエンゲージメントについて」

第6回健康アセット・マーケティング研究報告会(オンライン)  > 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:IKIGAI WORKSが考える健康経営、ワークエンゲージメントについて
日 程:2024年3月27日(水)19:00-21:00
場 所:Zoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
 健康アセットマーケティング研究会は、2024年度第2回目の学会員向け報告会を2024年3月27日にオンライン(Zoom)にて開催した。IKIGAI WORKS代表取締役社長の熊倉様より、IKIGAI WORKSが目指す中小企業におけるワークエンゲージメント向上の取り組みについてご講演頂いた。次に、本研究会の特徴でもある学域領域における健康経営の取り組みを神奈川大学経営学部中見ゼミの金山昴太さんより、IKIGAI WORKS様からご紹介いただいた中小企業3社の健康経営の取り組みについて、インタビューし、学生視点で学んだことについて報告いただいた。最後に、パネルディスカッションでは、健康経営推進に関わる社団法人の代表理事浅野様、一橋大学ICS阿久津聡教授を交えて職域、学域における健康経営の現状と課題、今後の在り方について活発な議論が行われた。
 
 今年度第2回目のセミナーでは、2つのテーマ、①「IKIGAI WORKSが考える健康経営、ワークエンゲージメントについて」、および、②「一般社団法人社会的健康戦略研究所主催の健康経営コンペティションにおけるIKIGAI WORKSの課題に向き合った大学生(学域領域)からの提案内容、考察」の講演後、健康経営の推進に関わる社団法人の代表理事も交え、職域、学域関係者によるパネルディスカッションを実施した。
 

  1. はじめに(解題)
    中見 真也 氏(神奈川大学 経営学部 准教授)
  2. 講演「IKIGAI WORKSが考える健康経営、ワークエンゲージメントについて」
    熊倉 利和 氏(IKIGAI WORKS 代表取締役)

     熊倉様より、「IKIGAI WORKSが考える健康経営、ワークエンゲージメントについて」をテーマにご講演頂いた。熊倉様は、以前、ある会社を経営されており、メディアサイト『健康経営の広場』を運営し、中小企業の健康経営を紹介されていました。熊倉様は、企業へのインタビューを通し、社員と真正面から向き合い、愛情深く接する経営者が全国には大勢いると気づき、2021年、IKIGAI WORKSを設立し、現在は、IKIGAI経営の普及・啓発、イベントの開催、産学連携プロジェクトなどに積極的に取り組んでおられます。「IKIGAI」の定義とは何か。それは「働く人が幸せになり、組織を成長させ、社会を豊かにするための源泉である」とのことです。バリバリ働いて成長したいという人も、プライベートを大切にしたい人も、みんなが幸せになれる企業というのが、IKIGAI WORKSが考える「IKIGAI企業」なのです。
     

     

     
     多くのIKIGAI企業にインタビューを行う中で、中小企業の場合、地域や次世代と連携を密に取ることが、従業員のIKIGAIに大きく関与している、ということです。
    1つの地域には複数の中小企業が存在します。地域の人たちや次世代の子どもたちと連携を深めていく企業を1社、また1社と増やしていければ、やがてIKIGAI企業は加速度的に増え、IKIGAI企業があふれるすばらしい社会を築ける。これがIKIGAI WORKSがベンチャーとして実現させたいことです。
     
     そこで私たちIKIGAI WORKSでは、「Fanマーケティング」という活動の方法を考案しました。IKIGAI WORKSが考える「Fanマーケティング」とは、健康経営を武器に地域連携を行い、地域の人たちをFanにしていくことで従業員のエンゲージメントを高め、経営にも効果的な作用をもたらしていく手法を意図しています。具体的事例としては、ウォーキング大会や地域のお祭り、健康教室、地域の清掃活動などを行っています。人が集まる場所を「HUB(ハブ)」として捉え、地域住民とどんどんつながっていく。すると、まるで「触媒」という化学反応のように、他の中小企業もイベントに参加し、それをきっかけに、参加企業がIKIGAI企業へ発展してきます。同時に、地域における企業のブランディングを確立できます。
    では、IKIGAI企業はどのように地域連携を行っているのか。1つの企業事例を以下にて紹介します。
     
    <加賀建設株式会社>
     石川県金沢市に本社を置く建設会社で、カフェやお茶の物販などの新規事業も展開し、地域活動につなげています。具体的には、「ウェルビーイング経営金沢」というコミュニティを立ち上げ、金沢の企業50社ほどを集めてウォーキングイベントなどを開催しています。金沢の地域企業とともに健康経営や地域活性化の事業に取り組んでおり、地域と密につながっていく中で、地域と社員の間で相互作用が起こり、カフェを地域の子どもたちに開放しています。親の所得の違いによる教育格差をなくすため、地域の子どもたちの学びの場になるスペースづくりも同時に行っています。このような活動を通じ、加賀建設に対する地域の信頼や評価は高まり、地域の人や子ども、そして企業をFan化しています。
     

     

  3. 報告「健康×マーケティング ピッチコンペティション2023」
    神奈川大学経営学部中見ゼミ生 金山 昂太 氏

     神奈川大学経営学部の中見ゼミの金山昴太さんより、「健康×マーケティング ピッチコンペティション2023」におけるIKIGAI WORKS部門にエントリーし、課題である「学生によるIKIGAI企業の採用ブランディング戦略」に向き合った体験について報告しました。彼らが最初に行ったことは、「マイモノサシ」づくりです。それぞれが、過去の経験や自分の性格、目標などから、どんなことをIKIGAIにするかと探究しました。その探し出したIKIGAIから「マイモノサシ」をつくました。とくにチームメイトからのフィードバックは、自己理解を深めることに役立ちました。
     
     次に、各々のマイモノサシを使って、IKIGAI企業の定義を行いました。チームディスカッションを何度も行い、「働きやすさとは」、「働きやすい環境とは」、「働きがいとは」について語り合いました。ディスカッションを通じ、「働きやすさや働きがいは、人によって幅がある」ということを理解できたとのことです。
    上記を踏まえ、実際にIKIGAI企業である株式会社アップコンの松藤展和社長にインタビューしました。社長の話の中で特に印象に残ったのは、「社員の方々は、入社10年で資格を10個以上取ることが目標」、「お互いに高め合うことが、仕事の成果の向上にもつながっている」、「社員を誰も差別をしない。正直者は報われる」などを、社員の方々の共通認識としている点でした。しかも、残業は基本的にしない。社長も8時間働いたら、あとはプライベートの時間を大切にするという徹底ぶりです。結果、仕事に集中できるようになり、社内に好循環が生まれているそうです。
     
     上記インタビューを通して我々が考案したブランディング戦略は、「学生によるIKIGAI企業のPRイベントの企画立案」です。我々は、健康経営ピッチコンペに参加したことで、IKIGAI企業のすばらしさを知ることができました。しかし、一般の学生にはその機会がありません。そこで、IKIGAI企業と出会える機会をつくり、理想の仕事スタイルが叶う企業選びの手助けを、学生目線からしたい。そんな思いから立案したPR戦略は2つです。1つ目は、IKIGAI企業の社長に大学で講演会を行ってもらい、生の声を届ける。2つ目は、IKIGAI企業の社長に学生がインタビューしている動画を就活サイトに投稿する。この2つを行うことで、リアルとインターネットの双方から、IKIGAI企業のことを広く伝え、また、学生自身がIKIGAI企業を探すサポートをしていきます。以上が、健康経営ピッチコンペから学んだ中見ゼミの発表となります。
     

     

  4. パネルディスカッション、Q&A
    MC:中見 真也 氏(同上)
    パネリスト:熊倉 利和 氏(同上)
          阿久津 聡 氏(一橋大学ICS 教授)
          浅野 健一郎 氏(一般社団法人社会的健康戦略研究所 代表理事)
          神奈川大学経営学部中見ゼミ生 金山 昂太 氏

    阿久津 聡 氏 冒頭、阿久津先生より、本日の発表について、感想をお伺いした。「熊倉さんの話を聞いて感じたのが、地に足がついた活動をされているすばらしさです。健康経営や地域連携など、抽象的な話で終わりやすいところを、日々の問題として議論し、計画し、実行されている。ここがすごいと感じました。だからこそ、金山くんたち、学生とのコラボレーションも、抽象的な内容に終始せず、現実的な活動に落とし込めた。ただし、それは簡単なことではなく、密にサポートし、ともに考え、進んできた結果だと思います。そのことがよく伝わってきました。」
     
    浅野 健一郎 氏 次に、浅野様より、本日の感想をお伺いした。『熊倉さんは、会社を経営していた経験があり、経営者の目線から社会を変えていきたいと思っていることが伝わってきました。私もすごく共感するところです。「人を使う」という言い方がありますが、人は物じゃない。これが健康経営の根底にある原則です。ところが、仕事となると「俺はお金を払ってやっているんだ」というヒエラルキー的な感覚が出てきてしまう。すると、その原則がかき消されてしまいます。健康経営においても、「健康」というイメージから全体を分析する人が多いなか、熊倉さんは、健康経営の根底にある原則、つまり「人を大切にする」という思いから健康経営を考え、事例を選び出している。ここが非常に素晴らしいと感じました。また、金山くんの話も素晴らしかった。働くとは、労働契約を結ぶこと。それは、対等な立場に立つということです。今回のピッチコンペのテーマには、IKIGAIやワークエンゲージメントという言葉がありましたが、働いていない段階では、なかなかピントこない話だったでしょう。それを、学生たちはマイモノサシなどを使って見える化し、チームの一体感を築いていった。それは会社で働く中でも、重要なことです。会社という1つのチームにどうやって一体感を出していくのか、といったときに、達成したときの喜びや利他的な行動、そして働きがいややりがいなどが大事になってくるわけです。』
     
    金山 昂太 氏 次に、学生代表として金山さんは、お二人のお話を聞いて、今、何を感じていますか。「まず、こんなに貴重な場に呼んでいただいたことが光栄です。熊倉さんの発表では、中小企業の方が地域貢献を行っていることを初めて知りました。地域との相互作用によって社員さんのIKIGAIが増大していく、ということが興味深かったです。私は今、中見ゼミでゼミ長をしています。今回、みなさまとお話できた経験は、自分だけにとどめることなく、ゼミ全体を底上げする機会にしていきます。ありがとうございました。」
     
     中見より、以下の質問を熊倉様、浅野様に投げかけた。「地域貢献について、IKIGAI企業では、地域にコミュニティを形成してファンをつくり、それが企業ブランディングの構築に役立つとの話でしたが、どのように社員を啓蒙しながら、外の世界に連れ出していくのですか。」熊倉様曰く、『どこの会社も、まずは社員に健康経営を行って、働きやすさや働きがいを構築しています。最初から、社員を地域に連れ出しているわけではありません。5年ほど社内で熱心に取り組み、社員たちのIKIGAIが熟成されてきたところで、だんだんと外に出ていく形です。また、地域連携のやり方は1つではありません。十人十色で、企業によってまるで違っています。だからこそ、1社だけでやるのではなく、多くの会社がともに地域と連携していくと、社会において建設的な活動になり、「社会的健康戦略」が実現されていくのだろうと感じています。』
     
     浅野様曰く「その通りです。社会のとらえ方は、切り取り方で違ってきます。家庭も社会だし、国も社会。そして、地域や会社も社会です。どこで切り取ってもよいが、人と人がつながりを保ちながら、IKIGAIを感じられることが、社会的健康です。社会のウェルビーイングを高めながら、全体のメリットを大事にする。ここをいかに両立させるかに、大きなチャレンジがあります。」
     
     今後も健康アセットマーケティング研究会と健康経営ブランディング研究会は、健康経営について考えるセミナー共催を検討しておりますので、是非、学会員の皆様方には奮ってのご参加をお待ちしております。

(文責:中見 真也)

 
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