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研究報告会レポート

第11回ユーザー・コミュニティとオープン・メディア研究報告会レポート「プロジェクション科学で斬る推し活行動」

第11回ユーザー・コミュニティとオープン・メディア研究報告会(オンライン) > 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:プロジェクション科学で斬る推し活行動
報告者:久保 南海子(愛知淑徳大学 教授)
日 程:2024年9月20日(金)19:00-20:30
場 所:Zoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
 アイドルやアーティスト、俳優、タレント、さらにアニメやゲームのキャラクターを好きになり、応援する行動、「推し活」が拡大している。従来の「熱心な顧客」を意味するファンに対して、推し活行動の特徴はその人が「何をするか」にある。受動的な愛好に留まらず、推し活する人は好きな対象のイメージを基に何かを生成してしまう、好きな対象と同じ行動をするなど、能動的な行動をとる。受動的なファンの行動が能動的に変わるとき、その人のこころから環境や状況とのダイナミクスを捉える身体性認知で説明すると、「推し」を推す行為は自分のこころや行動が変わることを意味する。つまり、推しとは、推す自分と推される対象(世界)があり、自分と推しの対象との関係性で決まる。この対象(世界)と自分との関係性のなかで、自分が対象をどのように認識するのか、また自分が対象にどんな認識を付加していくのか。そうしたこころの働きと環境とのダイナミズムを説明する概念が、認知科学から生まれた「プロジェクション科学」である。
 プロジェクションとは作り出した意味や表象を世界に投影し、物理的世界と心理的世界を重ね合わせる心の働きをいう。人は物理世界から入力された情報を受け取って処理し、表象を作り出す。それがその人にとっての意味になる。「推し活行動」、つまりファンが推しの対象に働きかけることは、こころと世界をつなぐプロジェクションといえる。講演では、例としてテレビアニメ「ちびまる子ちゃん」のなかで姉が推しのアイドル(西城秀樹)を投影する心の動きが描かれる様子や、羽生結弦選手が着用する衣装を模したデザインを友人のファンが自分のネイルアートとして再現するなど、ファンである主体が対象に投影する心の働きを説明する。講演者の実験では、被験者にライブ鑑賞でペンライトを持たせて応援させると魅力を感じる結果も紹介された。
 そして、二次創作も今やメジャーな推し活の1つである。オリジナルのマンガを基に設定を変えて新たな物語を作り出すのはプロジェクションの働きであり、元の作家が描いた物語を読者の内的な世界で別の表象の意味を作り出す。アンパンマンのキャラクター間の関係を腐女子マンガに置き換えて新たな物語を創作する例がある。この二次創作の作品が販売されるコミックマーケット(コミケ)の様子が、同時に研究者集う学会のポスターセッションと類似するともいう。
 

 
 最後に、講演者に今後のプロジェクション科学研究の方向性を尋ねたところ、現在はこの概念を多くの人たちに知ってもらい、広げることだと答えてくれた。この概念は、他にアニメ聖地巡礼を行うファンの心理や、VTuber(バーチャルYouTuber)を応援するファンの行動なども説明できる可能性がある。今後はこうした分野でも適用可能性を探る研究の意義があると感じた。
 
(文責:片野 浩一)

 
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