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第9回ナラティヴ・マーケティング研究報告会レポート「界隈経済圏:界隈消費をマーケティングで読み解く」 |
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テーマ:界隈経済圏:界隈消費をマーケティングで読み解く
報告者:牧口 松二(九州産業大学 商学部 経営・流通学科 教授)
増田 明子(専修大学 商学部 教授)
津村 将章(神奈川大学 経営学部 准教授)
和田 久志(株式会社電通 アカウントリード部長)
大野 幸(株式会社資生堂 Global Brand Unit Senior Manager)
*所属・肩書は報告時点
日 程:2026年3月24日(火)16:00-17:30
場 所:専修大学 神田キャンパス 10号館
【報告会レポート】
本報告会では、「界隈経済圏:界隈消費をマーケティングで読み解く」と題し、近年SNS上で可視化される「界隈」という現象を、カテゴリー・エントリー・ポイント(CEP)の観点から分析した。従来のSTPでは捉えにくい需要の立ち上がりや想起形成を、界隈言説がどのように支えているかを検討した。
報告ではまず、ブランド成長は少数のロイヤル顧客への依存ではなく、多数のライトユーザーへの浸透によって支えられるという、バイロン・シャープらの議論を整理した。そのうえで、「界隈」は単なる流行語ではなく、生活者がカテゴリーを想起するための入口語彙を生み出す装置である、という仮説を提示した。さらに、界隈に注目することで、企業が従来見落としてきた生活者の日常文脈や感情の揺らぎを、マーケティング資源として捉え直せる可能性が示された。
中心的に取り上げたのは、X上の「風呂キャンセル界隈」の分析である。投稿の拡散過程を追うことで、界隈が「きっかけの瞬間」「内輪の熱狂」「熱の拡散」「市場シフト」という段階を経て形成されることを示した。さらに関連投稿の分析(図表1参照)から、界隈言説は「状況」「儀式」「評価」の三層で構成されることを明らかにした。すなわち、どのような場面で必要になるか、どのように使うか、どのように正当化されるかが、想起の入口として機能していると考えられる。加えて、界隈において交わされる語彙は、単なる感想や共感表現ではなく、カテゴリー想起を誘発する実践的な手がかりとして蓄積されていくことが示唆された。
(図表1)

また、筋トレ界隈とオイコス、平成女児界隈とたまごっち、勉強界隈とグリーンノート、ドライヤーキャンセル界隈とSALONIAといった事例を通じて、界隈が商品そのものの人気をつくるというより、カテゴリーを思い出す入口を増やし、結果として定番化を後押ししている可能性を論じた。これらの事例は、界隈が一部の愛好者の閉じた会話ではなく、市場全体の想起構造にも影響を及ぼしうることを示唆している。さらに、界隈由来の語彙は、広告表現や売場訴求、検索キーワード設計に転用可能な示唆を含んでおり、実務上の応用可能性も高い。
最後に、今後の研究課題として三点が挙げられた。第一に、他の界隈でも同様にCEP語彙が抽出・一般化できるのかという一般化の課題である。第二に、抽出されたCEP語彙と実際の購買行動との因果関係が未検証であるという因果の課題である。第三に、界隈由来の語彙を広告コピー、検索キーワード、売場設計へどのように転写するかという実務実装の課題である。報告では、界隈研究を「面白い現象論」から「使える理論」へ高める必要があると総括された。あわせて、パネルディスカッションの論点として、界隈とファン・コミュニティの違い、STPとCEPの実務上の使い分け、界隈起点のCEPを現場でどう実装するか、の三点が提示された。これらは、界隈研究を学術的議論に閉じず、ブランド戦略や商品開発、広告実務へ接続するための問いとして位置づけられる。
(文責:牧口 松二)

