リサーチプロジェクト
研究報告会レポート

第8回ソーシャル・ビジネス研究
報告会レポート
「コア・コンピタンスに社会課題解決を組み込む事業モデル」

第8回 ソーシャル・ビジネス研究会
テーマ:「コア・コンピタンスに社会課題解決を組み込む事業モデル」
     株式会社ダックス四国代表取締役社長の且田 久雄 氏 講演と福山リサイクルセンター視察
日 程:2015年2月18日(水)13:30-17:00
場 所:広島県 福山市 株式会社エフピコ 福山リサイクル工場、選別センター

 

 第8回のソーシャル・ビジネス研究会は、株式会社エフピコ(以下、エフピコ)の視察と講演の組み合わせによるプログラムを実施した。
 
●株式会社エフピコ
 エフピコは、合成樹脂を使った食品簡易容器の製造販売を行う。売上高は、1,610億円、経常利益 100億円 (2014年3月決算)。単価が3円から50円と言われる食品簡易容器製品を積み上げてこの数を実現している。そしてこの市場のシェアは約30%(http://www.fpco.jp/)である。この売上、利益、競争力に加えてエフピコでは、食品トレイのリサイクル(再生容器市場のシェアは約60%と言われている)、Co2削減、そして障碍者雇用の社会課題解決に積極的に取り組んでいる。その様子は、「カンブリア宮殿」などメディアでも多く採り上げられている。
 今回の研究会では、障碍者雇用の仕組みに注目し、現地視察と推進責任者の株式会社ダックス四国 代表取締役社長の且田久雄氏、且田久美様にお話を伺った。

 
回収トレイと再生トレイ
回収トレイと再生トレイ

 

●エフピコの障碍者雇用の取り組み
 2014年3月末時点で、372名の障碍者が全国19箇所のエフピコ事業所で雇用され、回収容器の選別と製造に従事している。エフピコグループの障碍者雇用率は16%となる。我国の民間企業の法定雇用率が2%であることからみても突出して高い。この取り組みは28年前から実施され、その雇用率の高さと共に、同じ労働環境(給与体系、福利厚生)で業務に従事していることが特徴である。

 

●障碍者が利益源泉部門の中心で活躍する職場
 現在、エフピコは全国に11工場、8つの選別センターなどを有している。エフピコ福山リサイクルセンターは広島県福山市の臨海部にある。ここでは透明容器の選別ライン、発泡トレイの選別ライン、および粉砕、溶融を経てペレット状に加工する工程を、エフピコの特例子会社の障碍者雇用推進役である且田久美氏の案内によって視察した。
 透明容器の選別ラインでは、2名一組の障碍者が選別を行う。また発泡トレイの選別ラインでは7名(投入者含)一組の障碍者が選別を行っている。スーパーや自治体などから回収されたトレイは、一定スピードで流れるラインに乗せられる。再生できないプリント済みトレイや、異質素材トレイの選別業務を障碍者が担う。すばやく作業する様子はとても障碍者とは思えない。精度、スピード、持続性も健常者と同等以上と言う。

 

透明容器の選別ライン
透明容器の選別ライン

 

●数ヶ月で生産ラインの中核業務を担当する
 エフピコで働く障碍者は、3ヶ月~6ヶ月ほどで選別業務をこなせるようになるという。選別作業は一ある基準を満たす回収トレイだけを選び取りそれを次工程に送る業務である。ラインが動いているため瞬時に選別が必要となる。この業務精度が低いと製品品質や生産性の低下につながる。再生トレイ事業、会社の収益に直結する中核業務を障碍者が担っている。

 

●より重度の方を正社員として採用する
 主に知的障碍者を中心に採用し、採用条件は自力での通勤(保護者、支援者の送迎も含)が可能、着替え、トイレ、食事が自力で可能、意思伝達が可能などと共に、より重度であること、正社員として働く意欲と体力があるという条件が存在する。より重度の障碍者を正社員として雇用することがエフピコの障碍者雇用の大きな特徴である。そのため、現在、雇用されている障碍者は全員正社員であり、週四十時間の雇用契約を結んでいる。しかも出勤率は98%(有給含)、定着率は96%と高い数字である。この中には他企業や作業所では定着できずに職場を転々とした方々も含まれている。しかも同じ作業であれば生産性は障碍者が上回るという。

 

且田久雄社長による講演
且田久雄社長による講演

 

●責任感を育成し能力を引き出す
 他の企業や作業所では早期に退職した方々が何故、エフピコでは高い率で定着し、高い生産性を実現するのか。且田氏は、責任ある仕事を与え、与えたら任せ、そして間違いは一人の人間としてしっかりと叱ることにあると言う。これらの管理を行っているエフピコの社員は福祉の専門家ではない。彼らは障碍者を助けよう、守ろう、支援しようという対応ではなく、仕事を通じて1人ひとりの良いところを見極める。そして良いところを伸ばしていく。様々な思い込みで対応するのではなく、一人の人間として正面から向き合って、同僚として同じ目線で対応する。そして社会人としてのきめ細かな指導を丁寧に行う。
 健常者に比べ障碍者に不足する能力はもちろんある。一方で健常者に比べて障碍者が優れた能力もある。その1つは「想像性」と言う。相手の気持ちを汲み取り想像する能力は障碍者が優れている場合が多いという。

 

●障碍者の能力を引き出すノウハウを蓄積し続ける
 1986年からスタートしたこの取り組みは、競争が激しく差別化が難しい業界において優位性を築く1つの要素になっている。
 しかし健常者も1人ひとり違いがあるように、障碍者も1人ひとり異なる。そのためエフピコの現場では日々試行錯誤を繰り返し、さまざまな障碍者とのやり取りを経験、蓄積している。現在では、全国の生協、流通企業、食品企業などエフピコの取引先からこの経験に期待し、障碍者雇用についての多くの相談依頼が来ている。現在全国35社にもなるという。それらの企業によるネットワーク会も生まれている。このような経験はさらに「街づくり」へも発展している。北海道芽室(めむろ)町では、行政、農家、障碍者、食品企業が連携し、原材料生産から商品加工そして流通を結びつけた「経済循環」をつくる活動を2013年からスタートさせている。そのサイクルを支えるのが、障碍者と高齢者である。「プロジェクトめむろ」と呼ばれるこの活動は、障碍者の農作業を高齢となった農業従事者が指導し、新たな農従事者を育成し地域の産業を育成する活動として注目されている。
http://kyujinfarm-memuro.co.jp/
http://www.maff.go.jp/primaff/meeting/kaisai/pdf/primaffreview2014-58-5.pdf

 

活発な質疑が行われました
活発な質疑が行われました

 

●おわりに
 多様な人々がフラットな立場で共生できることが成熟した社会の1つの尺度とすれば、エフピコの試みは今後の日本が成長するための1つのモデルを提供している。
 障碍者雇用を社会福祉や慈善事業として行うのではなく、事業として取り組む姿勢が正社員採用、育成、中核業務担当につながっている。我が国では、人口減少と同時に労働力人口の減少が課題になっている。一方で日本の障碍者数は約780万人、発達障碍を持つ人々は250万人、引きこもりの人々は160万人も存在するという。このような人々の雇用を生みだし新たな経済循環をつくることの可能性もエフピコ、ダックス四国の活動は持っている。今後のさらなる活躍に期待すると共に、本研究会でもこのような活動を広く社会に伝えて行くとともに、研究可能性を追求していく予定である。
 講師を務めて頂いた、株式会社ダックス四国代表取締役社長の且田久雄氏、エフピコ株式会社 障碍者雇用推進役の且田久美様にお礼申し上げます。

 
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