リサーチプロジェクト
研究報告会レポート

第12回価値共創型マーケティング研究報告会レポート
「共創によって生まれる文脈価値」

第12回 価値共創型マーケティング研究報告会
テーマ:「共創によって生まれる文脈価値」
日 程:2016年3月6日(日)14:00-16:30
場 所:広島大学東京オフィス

 

【報告会レポート】
 第12回目となる本研究会は、14時からJR田町駅近くの広島大学東京オフィスにて開催いたしました。継続してご参加いただく方に加え、新規にお越しいただいた方にも恵まれ、今回も充実した約2時間30分の研究会を展開することができました。
 
「価値共創マーケティングとは何か -S-Dロジック、Sロジックを踏まえて-」

村松 潤一 氏(広島大学大学院 社会科学研究科 教授)

 村松先生は、サービス・ドミナント・ロジック(S-Dロジック)によって幕を開けた交換後の世界がなぜ重要なのかについて、これまでの議論を整理したご報告を展開されました。マーケティング研究を考えるうえで主体間の捉え方が重要であり、価値共創はその鍵概念となる訳ですが、S-Dロジックを積極的に批判する北欧のマーケティング研究者Grönroosの主張をみれば、価値共創をさらに精緻な視点で捉えることができます。また、文脈価値の視点からマーケティングを考えた場合、企業と顧客はサービス関係を軸とした社会システムのうえに成立するものだといえます。この局面において、新たな報酬授受の仕組みが必要となることが示されました。さらに、この考え方を企業システムと統合しようとする場合、企業は情報の逆非対称性に悩まされることになります。文脈価値を事前に特定することは困難であり、情報の非対称性が議論された当時と異なり、企業と顧客の立場は逆転してしまいます。
 さて、これらを前提に価値共創マーケティングを研究する際には、①消費プロセスにおける顧客の消費行動、②企業と顧客の共創プロセス、③顧客の消費プロセスで行うマーケティング、④共創される文脈価値、の4つの研究課題が指摘できます。報告のさいごに、本研究会で展開しようとする研究課題の視点が確認されました。

 

「ネットスーパーの文脈価値 -利用当初から現在に至るまでの継続的な使用プロセスに注目して-」

滝口 沙也加氏(新潟大学大学院 自然科学研究科 博士後期課程 / (株)ドゥ・ハウス)
清野 誠喜 氏(新潟大学 農学部 教授)

 滝口先生らは、フードシステムにおける主体間関係を考えたとき、従来の研究の多くが購買に焦点をあてたものであるという問題意識をお持ちです。使用とそこにみられる文脈に向けたものが少ないことから、今回の研究では、使用プロセスに注目するということを念頭に、ネットスーパーの利用者の価値を明らかにしようと研究を展開されました。
 最初に、ご報告いただいた研究の学術的な位置づけをお示しになり、実証研究へと議論を進めます。ネットスーパーの利用実態をインターネットリサーチによって確認し、続いてPAC分析や日記調査の手法を用いて購買物と使用行動の詳細を分析します。一連の研究から、ネットスーパーの利用者が、購買行動を省力化する目的でネットスーパーを利用したり、その結果、自宅での調理時間が十分に確保できるといった充実感を得るなどの傾向が見られました。これらは利用者固有の価値であり、ネットスーパーは文脈の価値に貢献し得るといえます。ここでネットスーパーの価値を考えたとき、利用者自身が時間管理と引き合いに家族を考慮していることや、購入しようとする商品の幅に対しネットスーパーが十分に対応していることが重要です。前者は利用者の都合に過ぎませんが、この都合に対応し得る段階に、ネットスーパーは到達するようになっているといえます。
 このことを利用者からみれば、利用者はネットスーパーを利用することで特徴的な価値を感じます。このことは、利用者の行動によってネットスーパーの価値・意味づけが為されていくといえ、S-Dロジックのいう文脈価値の生成プロセスの解明につながるといえます。
 滝口先生や清野先生の研究報告は、価値共創型マーケティング研究の実証アプローチとして、極めて有効であり、今回は貴重な視点をご提供いただきました。

 

ディスカッション

村松 潤一 氏(広島大学大学院 社会科学研究科 教授)
滝口 沙也加 氏(新潟大学大学院 自然科学研究科博士後期課程 / (株)ドゥ・ハウス)
清野 誠喜 氏(新潟大学 農学部 教授)

 今回のディスカッションでも、参加者からさまざまな意見が出されました。企業の価値創造活動を限定的とするのが価値共創型のマーケティング研究の特徴ですが、今回もフロアからは、パラダイム転換を疑問視し、限定的とする議論の根拠を問う意見がありました。このほか、企業の貢献を拡大するためには、どのような方法があるのかという実践的な課題の質問もございました。
 今回議論になったのは、実証段階における研究の留意点です。ネットスーパーの利用者は、自身の生活を最適化するためにネットスーパーを活用するといった特徴がみられました。ネットスーパーの便益を自在に捉えているのです。このとき、文脈によって生じた価値を利用者はどの程度自覚しているのかといった疑問が生じます。マーケティングを検討するうえで解明すべき価値といいながら、利用者すら明確に自覚していない場合も少なくないのではないか。そうであるならば、企業は価値を可視化させる取り組みもマーケティングに踏まえるべきではないか。こうした建設的な指摘もありました。
 リサーチを設計するうえで考慮すべきは、利用者の行動を長期で捉え妥当性の高い解釈によって価値を解明する必要があるということです。今回、滝口先生らは日記調査などを用いて価値の解明を試みました。これは、個々の消費者の実態に迫るためには、心理学で用いられる分析手法を参考にする必要があるといった理解に基づきますが、今後本研究会では、こうした議論を豊富化する必要があります。このように、ディスカッションは実践に向けられた課題、研究の課題の双方が幅広く話題になりました。

 
  今回を以て、今年度の価値共創型マーケティング研究会は活動を終了いたしました。感心をお持ちの多くの学会員の方に支えられ、3年間で12回(カンファレンスを含めると15回)の研究会を展開することができました。末筆ながら、皆さまに感謝いたします。
 来年度も4回の研究会を予定しております。引き続き皆さまのご報告を交えながら、研究会の輪を広げて参りたいと存じますので、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 
村松潤一氏 滝口沙也加氏
写真左から、村松潤一氏、滝口沙也加氏

 
ディスカッションの様子 研究会の様子
写真左から、ディスカッションの様子、研究会の様子
 
(文責:茨城大学人文学部 今村 一真)

 
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