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研究報告会レポート

第11回医療マーケティング研究報告会レポート「地域包括ケアシステム時代の新事業創造」

第11回 医療マーケティング研究報告会 > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「地域包括ケアシステム時代の新事業創造」
日時:2016年10月16日(日)9:00-10:40
場所:早稲田大学・早稲田キャンパス 8号館
 
 第11回研究報告会は的場匡亮先生がコーディネーターを務め、マーケティングカンファレンス2016のリサーチプロジェクトセッションとして実施されました。30名近い参加者があり、地域包括ケアシステムという制度基盤が整備されようとする中で、既存のプレイヤーや新規参入者の事業創造について活発な議論が展開されました。

 

講演1(9:00-9:35)
地域包括ケアシステム時代の研究開発戦略

東京工業大学 准教授
環境・社会理工学院 技術経営専門職学位課程・イノベーション科学系
科学技術創成研究院 スマート創薬研究ユニット
仙石 慎太郎

第1講演 仙石先生 私からはヘルスケア業界の産業構造と情報通信技術が業界をどのように変えていくのか、その2点を中心に話題提供をさせていただきます。東工大では技術経営、技術をどう経営に生かすか、イノベーションに繋げるかという研究教育と、それを薬の開発に使おうというスマート創薬研究という2つのポジションで活動をしております。
 社会保障給付費が2015年時点で115兆円に達していて、私の世代がギリギリで、私たちの子供の世代は厳しいと言われています。特に医療費は非常に大きな割合を占めますが、人口構成からみると75歳以上が増えていく、特に80歳台になりますと入院の割合が増えて、さらなるコストの上乗せがあると言われております。医療・介護費用の推移をみても毎年1兆円ずつ増えて2050年には60兆円と予測されています。この中で悩ましいのは、イノベーションはお金がかかるものが多いということです。例えば著名な抗がん剤は、その売上は最大年間2兆円ともいわれており、その場合の公的保険の負担は1兆円以上になります。そのため、薬価が25%下げられました。
 ただ、これは狭い意味での医療業界で、主に診断治療と介護の50兆円です。そのほかに、健康増進や予防といったステージが50兆円程度あると見積もっていいて、この未病部分と合わせて横串で展開する医療情報技術などのサービスには、金額こそ示していませんが大きな可能性があると考えています。経済産業省の試算ですが合わせると100兆円のポテンシャルがあるだろう、と言われております。この市場が取り組むべき課題は、平均寿命こそ世界一ですが、健康寿命との差が男性で9.0歳、女性で12.4歳ということで、このギャップをどう縮めるかという点にあろうと思います。

 この業界の構造をプレイヤーごとにまとめると、5つのP、すなわちPatient(患者・生活者)、Payer(支払機関)、Policy Maker(政府・規制当局)、Provider(医療機関)、Pharmaco(製薬・医療機器等企業)で表現されます。これは今でこそコストの課題から問題視されていますけれども、高度成長期の発展を支えるモデルとしては優秀で、成長期にあるアジア諸国は日本の保健システムを注視しています。これが我が国ではコストの問題を中心に制度疲労を起こしている状態といえます。これをどう解決するか。私は3つあると思っています。

  1. Optimization(全体最適化)
    いかにこの仕組みを修繕しつつ、延伸するか。
  2. Innovation(イノベーション)
    複数の課題を同時に解決する画期的なソリューションを生み出す。ICTのように患者/生活者の便益を高め、医療費の問題を解決するようなアプローチが望ましい。
  3. Privatization(民営化)
    先ほどの50兆円で示したような国民医療システム外における解決策で新産業を創出する。

 この3つにおいて、現在どのような取り組みがあるか、ということを紹介してまいりたいと思います。1つ目は系の最適化で、やはり政策だと思います。現政権では健康・医療戦略推進本部が出来まして、ここがリーダーシップを取り、さまざまな部会において産官学が知恵を出し合っています。2つ目のイノベーション、最近感動したのはロボットですね。アクチュエーターやセンシング技術が進んで、5年前とは様変わりしたという印象があります。一つ面白いのが会話ロボットで、鬱とか自閉症の方を対象として、ロボティクスで解決する、まさにドラえもんとのび太の関係をいかに現実化するか、そういう研究が実用化の段階に来ています。遠隔医療システムは実用化、部分的には解禁されています。もう一つは、再生医療で、正直iPS細胞はもう少し先ですけれども、体制幹細胞といった従前の技術、遺伝子治療を組み合わせた治療、CRISPR/Cas9などのゲノム編集技術などが日本、あるいは世界において広がりを見せて展開しています。3つ目にサービスという観点でみると、BtoBtoC (bench to bedside to customer)という医療のモデルからBtoC (business to customer)という形で予防、健康、未病対策を展開するか、今まで以上に重要になると思います。
 ここからは情報通信技術(ICT)について述べてまいりたいと思います。内閣府が毎年立案する科学技術・イノベーション総合戦略というものがあります。私も地域包括ケアシステムのWGに参加しておりますけれど、そこでは超スマート社会(Society5.0)という政策を進める中で、例えば次世代救急車やロボットといった個別技術をAIやデータベース、いわゆるビッグデータ分析のプラットフォームの上でどう展開していくか、いかにコストをかけないで進めていくか、制度基盤、人材基盤のあり方を検討しています。他にも脳科学(知覚研究、意識研究)といった技術で高齢化や過疎化に対応するか、さらに日本で成功すればアジアで展開できますので、そういった議論がなされています。
 では、医療ICTとはなにか。これには定義が幾つかありますが、例えばデジタルデータの収集・蓄積・分析・活用を目的とした、医療にかかわる広義の情報・コミュニケーション技術というものがあります。ここで面白いのは情報に加えて、コミュニケーションとあることで、いかに患者や生活者に分かるかたちで届けるか、という点だと思います。これを活用するベネフィットは、医療の質の向上、付随して安全性、信頼性の向上、医療の効率化、そして患者中心の医療が実現されるという3点です。現在、取り組まれているものを並べてみますと、医療機関におけるICT化の効果でみれば院内の効率化、医療連携のツール、医療従事者の負担軽減に資する医療ICTなどが挙げられます。この中で私が特に取り組んでいるものはmHealth(モバイルヘルス)です。これは国によって活用に差がありまして、アフリカではHIVやエボラの問題もあって診断ニーズが多く、逆にアメリカでは治療効果を見るモニタリングのニーズが多いです。日本やアジアはその中間で、さまざまなニーズがあって色々な選択肢が追及されている市場と言えそうです。
 イメージが出来るように事例を幾つか紹介したいと思います。Proteus Biomedicalという会社のRaisinという製品ですけれどもスマートピルと言いまして、ピル(内服薬)の上に経口摂取可能なセンサーチップが載っていて、これが胃酸によって起動して、患者の皮膚に装着されているパッチにさまざまな情報を送信し、パッチは心拍数、呼吸器、体温、身体の角度などを計測してログを残します。これは、飲み忘れ防止といったアドヒアランス向上等を目的とした服薬指導に活用されています。もう一つの例がスマートコンタクトレンズです。これには二つの機能が搭載されていて、1つが涙滴で血糖値を測定するという機能、もう一つがオートフォーカスレンズという機能です。これを着用するとコンタクトレンズとしての機能が向上するのみならず、糖尿病の予防や治療に活用できるということでGoogleやノバルティスといった企業が参入していて、遠からず実用化されると言われています。こういった開発が何千、いや何万も進行中なのですが、面白いのはいずれもICT企業が開発している、という点です。グローバルレベルで見ても、ICT企業が既存の医療産業のプレイヤーと連携し、すなわちオープンイノベーションとして開発が実施されています。いかに既存の医療産業の枠組みを超えて、ICT化が進行しているのかがお分かり頂けると思います。
 もう一つがデータベース、ビッグデータといわれるものですが、先ほど述べたレセプト情報の電子化が国レベルで進んでおり、さらにそれを日本においては充実している健診情報を組み合わせるような活用に期待がされています。ゲノムでは、DTC(消費者向け)サービスはまだ技術的には未成熟だと思いますけれど、コストは劇的に下がっています。私が大学院生だった2001年当時はオートシーケンサーがなくて、徹夜して4時間に一度サンプルをロードして、X線フィルムで焼いて目でチェックするということをしていましたけれども、15年経った今では、私の100万倍、いや1000万倍の能力で読めるという技術的革新が起きています。費用対効果はムーアの法則を大きく上回るスピードで改善しているのが現状です。こういったオミックス情報(網羅的な生体分子についての情報)を安価に正確に、大量に取得できる時代になっていますが、これをいかに医療情報や生活情報と組み合わせるかということが課題となっています。
 こういったときに英国は早いと思います。概念や、仕組み、枠組みを作ることに非常に長けた国だと思います。日本も取り組んでいて、国の規模から言えばいずれはスケールでは上回ることができるとは思いますが、すでにイギリスではバイオバンクという構想が進んでいます。これは、先ほどのゲノム情報とそれが疾患にどう関わっているのかを紐づける、これを国レベルで実施するという、大規模ゲノム疫学・予防医学のための国家プロジェクトです。イギリスは医療を国が提供しているということもあり、日本にとっての良い手本になると思います。マイナンバーは個人情報の観点からは賛否両論ありますが、今のコンテクストの観点からは有用な基盤になると思います。これによって生まれてから亡くなるまでのさまざまなイベントを系統立ててログに残していく、これは短期的というよりは50年の計として、今着手すべきものかと思っております。
 最後に地域の取り組みを紹介したいと思います。東京のような大都市圏から、過疎化に悩む村落までさまざまな実証がありますけれども、川崎市がクラスターを羽田空港の向かいの殿町というエリアで展開しています。こういったクラスターで何が重要かというとスタートアップ、これは必ずしもベンチャーを意味しませんけれども、いかに画期的な取り組みを起こし、日本的なエコシステム、産業生態系を作っていくかという点に尽きると思います。日本には重厚な産業生態系が地域ごとに展開されており、それを活かしてヘルスケアに関わる連携の枠組みを作っていくか、皆さんも含めて、関係者の活躍に大いに期待しております。
 

講演2(9:35-10:10)
地域包括ケアシステム時代の新事業創造

ハイズ株式会社 代表取締役 裵 英洙

第2講演 裵先生 私はヘルスケア産業を対象としたコンサルティングビジネスを手掛けておりまして、本日は先ほどの仙石先生のマクロの視点とは対照的に、ミクロの視点、より現場に近い視点からお話をしたいと思います。病院、介護の経営の実際、医療、介護の新規事業の目の付け所、その事例といった順にお話をしてまいりたいと思います。
 まず病院経営の話をさせてください。先日、ある大手電機メーカーから相談がありました。ヘルスケアの新規事業を立ち上げたい、ついては病院に納入したいという話でした。非常に夢のある話だったのですけれども、結論から言いますと病院には金がありません。医療利益率(一般企業で言う営業利益率)は低下傾向にあり、平成25年度では3.1%であります。人件費率が60%という業界で、医師不足、看護師不足が叫ばれて確保にも予算をかけなければならない中で、新規事業にどれくらい投資ができるのか。日本には8,600程度の病院がありますが、公的病院は8割以上が赤字、私的病院は3割から4割くらいが赤字、そういう状況です。さらに、診療報酬はかつてのように爆発的に伸びるということはなく、消費税の延期もあって2018年はマイナス改定が予測されています。医療現場の負担という話が先ほどありましたが、1000人当たりの医師数を見るとOECDで見ると低いほうに当ります。今、医師を増やす、医学部定員を増やすという議論がありますが、医師は大学で6年、医師になってから1人前になるのに10年かかると言われています。それまでは今の人員で回していかなくてはなりません。一方、国民一人あたりの外来受診回数ですけれども、これは日本が飛びぬけて高い。日本は国民皆保険にフリーアクセスで、国民一人当たり月1回以上の通院をしている計算になります。現場の疲弊にはこういった点も考慮する必要がありそうです。
 ではクリニックに目を移すとどうでしょうか。日本全国にクリニックは10万件あります。コンビニは6万件くらいでしょうか。医師の数は30万人ですから、クリニックには1人以上の常勤医師がいることを考えますと、3人に1人はクリニックで働く医師ということになります。クリニックは個人事業主ということになりますが、2003年-2007年の5年間に5,000件の新規開業があり、廃止休止は4,000件でした。次の5年間(2008年-2012年)では、開業は変わらず5,000件ですが、廃止も5,000件となりました。これには後継者の問題もありますし、患者がおらず回らないというケースもあります。先日、ある新規開業のクリニックを訪問しましたが、見るからに閑古鳥が鳴いていました。そこはマーケティングが非常に下手で、ホームページもプアで、5か月後には潰れていました。クリニックはまさに戦国時代で、都市部は特にマーケットがほぼ飽和している状況だと思います。
 こういったトレンド踏まえて特に病院の新規事業について検討していきたいと思います。病院が新規事業を実現するためには3つの制約があると考えています。人手不足、資金不足、経験不足です。病院の経営者と話をしていますと、保険サービスだけでやっていくことに対する不安、危機感は持っていらっしゃいますが、一方で何をしたらいいのか、という点で悩まれています。人手不足、医療職はやはり医療、介護の専門家ですので、保険診療外に打って出ようという発想に乏しい傾向がありますし、それをマネジメントする人材も不足しています。医療法で医療機関のトップ、理事長や病院長は基本的には医師と決められていますが、医師は医学部でも、医師になった後も医学や医療技術の勉強をします。マネジメントについては勉強することはほとんどありませんので、こうした人材の育成は急務であると思います。資金不足、医業利益が3.1%という時代で内部留保が難しく、さらに30年から40年の建て替えに備えなくてはなりません。こういう状況で新規事業に対する資金をどうねん出するのか、大きな課題です。そして、経験不足。やはり新規事業の経験はなく、蓄積もないわけであります。

 厚労省の調査によれば、病院が1,500万円以上の投資する際に長期収支予測/返済のシミュレーションをしているかと尋ねると、している、と答えた病院経営者は55%だったそうです。同じく投資後にモニタリングをしているか、と聞くと64%という回答でした。すなわち、半分は投資前に十分な検討しておらず、6割が買いっぱなしである、そういう状況にあるということを共通の理解として、話を続けてまいりたいと思います。
病院が新規事業をする際のターゲットは5つに整理されます。

  1. B to Hospital(医療機関)
  2. B to Dr.(医療職)
  3. B to Patient(患者、利用者)
  4. B to Government(政府、保険診療)
  5. B to Pharma(製薬、医療機器メーカー等)

 どこをターゲットにするかを検討する上で、横軸にグループ内とグループ外、縦軸に保険診療内、保険診療外という2軸を取り、4象限で整理しました。保険診療内/自グループ内という象限であれば院内連携やグループの垂直統合、水平統合が挙げられますし、保険診療内/グループ外であれば地域連携や非営利型ホールディングカンパニーなどが選択肢となります。診療報酬外/自グループ内であればセントラルキッチンや共同購入が、保険外/グループ外であれば治験はもとより教育、不動産などが候補となります。こういった選択肢の中から絞っていくわけです。とはいえ、新規事業であれば何でも良いのか、というとそうではありません。やはり医師や看護師、薬剤師などの職業倫理観と合致したものでなければ協力が得られません。先ほどの仙石先生のお話にもありましたように、目下の関心事は健康寿命をいかに伸ばしていくか、ということになりますので、例えば、寝たきりとなる高齢者をなくそうという取り組みなどは着目すべきと思います。
 では、どういう疾患群をターゲットにするか、私は4つの条件をカバーする必要があると思います。1つ目に自覚症状が少ないことです。先ほど未病や予防の話がありましたけれども、自覚症状がないのに体の中では着々と病気が進行しているわけです。痛みがある、体の変化が目につくということであれば必ず病院に行きますので、それは既存の事業でカバーすれば良いわけです。2つ目に放置すると予後が重篤であるという点です。高血圧などは放置すると予後が重篤なのですけれども、ただ期間が長いものとなりますので、放置期間は短い方が良いと思います。3つ目にマーケットが大きい、患者数が多いというのは当然大切です。4つ目は特に重要で、解決策があるということです。ネットで遺伝子診断ができるキットが出ていて、私たちも色々と調査しましたけれども、『あなたは遺伝子診断の結果、すい臓がんになる確率が13%です』、とあったわけですね。ところが、「で、どうしたら良いの」ということについては何も書いてない。何か嫌なことを言われるために2万円払った、という気分になりました。もちろん、遺伝子診断の結果、生活習慣を見直すとあれば、それはもちろんすればよいわけです。でも、この解決策がある、というのは切れ味がなくてはならない。それはビジネスとして回していくうえでは重要な点だと思います。
 それでは4つの条件を踏まえて、私たちがおすすめする疾患として、骨粗しょう症を挙げたいと思います。骨量は大人になってピークを迎え、特に女性の場合には閉経を機にホルモンバランスが崩れますと一気に骨量が減少します。ですので、骨粗しょう症の患者は女性の高齢者が多いと言われています。そして、骨密度が70%を下回ると骨折が起こしやすくなります。先日、ある病院の医療安全委員会に参加した際に、高齢患者の院内での骨折についての事例を検討していたのですが、ある期間に3例の骨折がありました。どういう経緯で骨折したかと言うと、寝たきりの方で、お風呂に入れるためにスタッフが患者さんを持ち上げたら折れてしまったというのですね。もちろん医療スタッフはプロで、私たち素人がやるのとはずいぶん違うわけです。何人か掛かりでそうっと実施するのですけれども、残念ながらそういうことになってしまう。それくらい簡単にご高齢の方は折れてしまうわけです。この疾患の経済指標をみますと、一回の入院費用がおよそ150万円かかります。大腿骨頸部骨折と椎体骨折で総医療費が3000億円、さらにリハビリや介護といった付随する医療介護費合わせて1兆円と見積もられています。この疾患の特徴は、普段は大丈夫ですけど、転倒などある圧力がかかると折れてしまう。さらに終末期像がミゼラブルです。80代後半、90代の方で普段は元気ですけれども、手術ができない。一回の骨折を機に寝たきりになり、認知症が進むという事例は多くあります。これを予防できたら、健康寿命は延伸できたと思います。潜在患者数は多いですし、効果的な医薬品が出てきており治療が可能です。ある試算では、推定患者数1,300万人、治療を受けている患者は100万人程度、すなわち1,000万人以上が放置されているという状況です。ここに着目したある医療法人グループは、グループ内に骨粗しょう症の撲滅プロジェクトを立ち上げました。病院は治療で診療報酬を得られ、自費のリハビリ、食事による工夫、骨粗しょう症に力をいている企業との連携などを展開し、病院をマーケティングの場として提供しています。そういった疾患を軸に良い循環を生みだそうとしているわけです。これは高血圧でも糖尿病でも構いません。ただ、これらの疾患にはライバルが多いと思いますので、まだライバルの多くない骨粗しょう症を例に挙げさせていただきました。
 ここからはまとめに入りたいと思います。ターゲットをどこにするか、医療ど真ん中、その周辺、未病や健康といったところから選んでいくところが始まりです。私は院長等から新規事業について相談があった場合には、新規事業の「さ・し・す・せ・そ」を理解して頂こうとしています。「さ」は参加型で、地域やグループ外を巻き込むような事業が良いと思います。「し」はシナジーで、骨粗しょう症であれば、耳鼻科のグループというよりは整形外科がやる領域ですので、やはり既存事業との相性は大切にしなければなりません。「す」はスモールスタートで、病院の財務状況に合わせた投資額の範囲で始めるべきです。「せ」は先行者で、隣の地域がやっていることをマネするという発想も良いですし、病院はどちらかというとコンサバですけれども、先行者利益は大きいですし、そういったマインドを持っていただきたいと思います。「そ」はソーシャルグッドで、やはり医療は社会にとってプラス、必要なものですから、ここでお金儲けをしよう、自分たちだけ良ければという発想ではなく、社会全体を良くしようという発想が必要だと思います。先ほどの骨粗しょう症でも、予防ができれば介護施設は助かるし、在宅医療機関は助かるし、何よりご本人の健康寿命を全うできて家族もハッピーになれる、そういうソーシャルグッドを狙っていきましょう、という話をしています。
 先ほど、仙石先生から川崎市殿町の話がありましたけれども、弊社では東京ヘルスケアビレッジという形で、新宿の軍艦ビルというところでインキュベーションセンターを運営しております。これは病院やクリニックといった医療関係者だけが入れるインキュベーションセンターとしています。ここにはさまざまなアイディアが持ち込まれて、B to DなのかB to Pなのか、喧々諤々と議論しながら、ネットワークもできます。新規事業を作った場合に実証実験の場が少ないという課題がありますので、こういったネットワークがその解決に寄与すれば良いなと思っております。
 病院経営、介護経営は厳しい時代を迎えております。新規事業の必要性を認識しながらも、もがいている病院や施設は非常に多いですから、ぜひ皆さまのお力添えを頂ければと思っております。
 

ディスカッション (10:10-10:40)
司会 :昭和大学大学院保健医療学研究科 的場 匡亮
コメント:独立行政法人労働者健康福祉機構 関東労災病院 経営企画室長 小西 竜太

 医療機関や介護事業者等と業界外のプレイヤーとがオープンイノベーションの推進要件について議論がされました。本日の講演にあった川崎市殿町や東京ヘルスケアビジレッジといった交流の場に加え、地方のコンパクトシティへの期待が挙げられた一方で、事業開発のパートナーという観点から、医療機関等の経営や意思決定のスピードの欠如が課題として挙げられました。また、同じく課題とされる医療機関内の人材育成について、院内MBAなど医療従事者を対象とした育成プログラムの整備が急務であるが、対象とする人材は厳選すべきとの意見が述べられました。
 未病や予防への認知、関心を高めるための課題について議論がなされ、ヘルスケアリテラシーが低いとされる方がターゲットとすべきであり、事例としてメディアや地方自治体の活動などが紹介されました。また、大腸がん検診の啓発に取り組む日本うんこ学会の活動が紹介され、検診弱者とされる、いわゆるオタクの方々をターゲットとしたソーシャルゲームの活用等、柔らかなアプローチも必要との意見が出されました。また、健診の精度向上も重要であり、既存の技術であるマイクロRNAの活用などのプロセスイノベーションや、侵襲性の低い検査手法の確立、健診施設の精度管理の取り組みなどの期待が出されました。
 ICTの活用について医療現場、患者側双方で特に高齢のスタッフ、高齢の患者、家族のITリテラシーの課題について議論がなされ、高齢者であっても恩恵が受けられるようなユーザーインターフェイスの工夫(講演で挙げられた飲むチップや高齢者にリーチが出来る既存インフラ起業の活用など)が求められているという指摘がなされました。
 

本日の発表へのコメント
独立行政法人労働者健康福祉機構 関東労災病院 経営戦略室長
小西 竜太(医療マーケティング研究プロジェクト 運営委員)

 診療所や病院の現状を見ても、診療報酬の先行きを見ても、大きな投資をする余力がある医療機関は少ないと思います。そういった中で病院との共同事業を成功させる一つの方法は、プロダクトやサービスの供与に加えて、病院内に事業を回す人材を送り込むことだと思います。もう一つは補助金の活用で、産業が立ち上がるまでの基盤を整備する目的での補助金はさまざまあり、事業の性格に応じて検討をしていただければ良いと思います。
 
研究会を終えて
 高齢化といっても日本全国一律に進むわけではなく、また医療や介護や周辺サービスの供給体制も地域ごとに異なります。地域包括ケアシステムは従来の病院を中心とした連携モデルとは異なり、住み慣れた地域の中で、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供されることを目指したシステムであり、それぞれの垣根を超えることの価値、そして難しさについて議論をすることができました。患者や利用者の視点に立った新たな価値提案について、今後も検討を重ねていきたいと思います。
 当日は30名弱の方にご参加いただき、議論をすることができました。カンファレンス2016の数あるリサーチプロジェクトセッションの中から医療マーケティング研究会のセッションにご参加いただきありがとうございました。次の研究会は2017年2月ないし3月に岡山で開催の予定です。引き続き、ご支援のほど、よろしくお願いいたします。
 
(文責:医療マーケティング研究プロジェクト リーダー 的場 匡亮)

 
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