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研究報告会レポート

第4回スポーツマーケティング研究報告会レポート「スポーツイベント・マーケティング」

第4回 スポーツマーケティング研究報告会 > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「スポーツイベント・マーケティング」
日 程:2017年7月8日(土)
場 所:東洋大学白山キャンパス 6号館 2階 6209教室
 

【プログラム】
1. スポーツイベントのマーケティングとは:早稲田大学 原田 宗彦 教授
2. スポーツイベントの参加動機とプロモーション施策:立教大学 辻 洋右 准教授
3. スポーツイベントが開催地域にもたらすインパクト:早稲田大学 押見 大地 助教
4. ニューバランスにとってのスポーツイベント・マーケティング:(株)ニューバランスジャパン 鈴木 健 氏
5. パネルディスカッションとQ&Aセッション:松岡、鈴木、辻、押見
 
【セミナーレポート】
1. スポーツイベントのマーケティングとは
  早稲田大学 原田 宗彦 教授

原田宗彦教授 「イベント」とひとくちに言っても、非常に幅が広く多種多様なものである。Getz&Page(2016)のイベントとベニューのタイポロジー概念図では、イベントは「ビジネス」「フェスティバル&カルチャー」「エンターテイメント」「スポーツ」の4つに区分されている。(図1)本講義ではこの区分の中でも特に、スポーツイベントについて話を進めていく。Getz&Page(2016)のスポーツイベントのタイポロジー概念図(ピラミッド型の概念図)を引用しながら説明すると、一番上から「Occasional Mega-Events」「Periodic Hallmark events」「Regional Events」「Local Events」の順で構成される。Occasional Mega-Eventsとは、例えば2020年の東京オリンピック等を指し、Periodic Hallmark eventsとは、毎年開催されるような東京マラソン、大阪マラソン等が例として挙げられる。Regional Eventsは地域で開催されるスポーツ興行等も含まれているし、Local Eventsについては、何々市の市民体育祭等のイベントをイメージしてもらえれば分かりやすい。ツーリストの観点で言えば、当然Occasional Mega-Eventsが最も多くなり、Local Eventsになってくると域外からのイベント参加者はほとんど居なくなり、地域の人たちだけで盛り上がるということになる。本日は2つの事例を取り上げながら、スポーツイベントのマーケティングについて紹介していく。Periodic Hallmark eventsの例として世界トライアスロンシリーズ横浜大会を、Regional Eventsの例として神奈川県中心に開催されるプロ野球(横浜DeNAベイスターズ)を挙げる。スポーツイベントの類型については図1を使って説明したい。四隅にあるのが、それぞれのライツホルダー(誰がこれらのイベントの権利を持っているか)を示している。例えば、オリンピック大会であればIOCがありJOCがある。横軸にGrass roots(草の根イベント)からInternational(国際イベント)を取り、縦軸に種目別から総合大会を取って四象限に整理を試みた。大会区分だけで見ても、上から順にトップスポーツ、カレッジスポーツ、地方大会・ブロック大会、市町村・社会人の大会、リトル・キッズの大会と分けることが出来る。そこに各々の大会の特色として、男女・LGBT、パラスポーツ、個人・チーム・混合、文化・観光、ゆるスポーツ・超人スポーツ等が掛け合わされる。このように考えていくと、スポーツイベントは多様化しており、ほぼ無限大に広がりを持つことが分かるだろう。世界の流れに目を向けると、北米全体のスポンサーシップマネーのうち、約7割に当たる約1.5兆円がスポーツイベントに流れると予想されている(2017年予測)。年々増加傾向にある北米のスポンサーシップ市場においては、エンターテイメント・アート・フェスティバル・社会貢献等、様々なイベントが存在するが、圧倒的にスポーツスポンサーシップへ流れるお金が大きくその存在感を示している。
 スポーツイベントマーケティングは、「イベント」「スポンサー」「ファン」のトライアングルで捉えることが出来る。①イベント⇔スポンサーの関係性は、スポンサーがファンや他のスポンサーと新しい関係やコミュニケーションを確立できるように支援するものである。②スポンサー⇔ファンの関係性は、スポンサーが単なる広告主ではなく、ファンの経験創造装置(Fan experience enabler)としてブランドのポジションを確立していくものである。ひと昔前までのスポンサーは、看板を出すことや名前を露出することに終始していたが、今ではファンとのエンゲージメントを高めるため、様々なアイデアを練りながらアピールする動きが出てきている。➂ファン⇔イベントの関係性は、ファンのためにイベント主催者(あるいは、プロチーム・クラブの経営陣)がスポンサーとともに様々な取り組みを通して、新しい経験価値を創造・提供していくということである。このトライアングルが上手く稼働した時に大きなベネフィットが生まれ、素晴らしいスポーツイベントが開催されるということになる。
 ここで、参加型スポーツイベントマーケティングの事例を挙げながら説明をしたい。今回の事例は、私がこれまで見た中で最も優良なスポーツイベントの一つである世界トライアスロンシリーズの横浜大会である。この大会は税金を一銭も投入しておらず、全て企業協賛金と参加費そして放送権料だけで賄われている。大会の模様はLIVEで世界中に放映されており、世界中のトップ選手が参戦するエリートグループは40人~50人で競技が行われる。エリートグループの他にも、一般参加者で構成されるエイジグループもあり1,500人規模で競技が行われる。エイジグループの平均年齢は44.1歳で、66.4%が県外からの参加者となっている。トライアスロン参加者には富裕層が多いという特徴もあるが、スポーツツーリズムの観点でも県外参加者から横浜にお金が落ちることは歓迎すべき点である。そして、参加者はスポンサーを非常に身近な存在として認知しているため、その認知度も67.7%と高い数値を示しており(※原田研究室で行った調査では、横浜トライアスロンのスポンサーを知っていると答えた人は年々増加傾向にある。2014年:47.1%→2016年:67.7%)、スポンサーの満足度も高い。大会スケジュールも工夫されており、初日にエリートグループ、翌日にエイジグループという順序になっている。そのため、初日にエリートグループの観戦をしてから翌日に参加出来ることはもちろん、大会を終えたトップ選手とエイジグループ参加者との交流の機会も生まれるのである。また、いくらお金を払ってでも参加したいという人向けに、50名限定でセレクトサービスエントリーというシステムも用意されている。これは10万円払えばスペシャルサービスを受けられる上、オフィシャルホテルへの宿泊もできるというもので一般エントリーとの差別化を図っている。横浜トライアスロンEXPOはファンとスポンサーの交流の場を提供しており、トライアスロン関連業者が一同に会する。トライアスロンにはバイクもスイムもランもあるため、まさに一大産業である。EXPOではサングラスやウエットスーツ、時には自転車も安く手に入るため、来場者は大満足で毎年多くの人が訪れ、モノが売れていくのである。横浜市も配布パンフレットの中では、トライアスロン、パラトライアスロンそしてシティー横浜をかけ合わせて、世界へと発信していく姿勢を示している。スポーツツーリズム、まちづくり、環境(例えば、山下公園の前の湾で選手たちが泳ぐため水が浄化されて綺麗になるといったこと)といったテーマにも絡めながらスポーツイベントの社会的意義を謳っており、大会のアイデンティティを育てつつ、より良い大会を目指しているのである。
 次は観戦型スポーツイベントのマーケティングで、横浜DeNAベイスターズの事例を挙げたい。2011年から2016年にかけて観客数が76%増のチームで、この増加率は球団1位の成績である。特に年間本拠地ゲームの3/4が大入り(=9割以上のほぼ満席の状態)となっており、ベイスターズは着実に人気チームとなりつつある。先程説明した、スポーツイベントマーケティングのトライアングル(イベント・スポンサー・ファン)に加えて、「まちづくり」という新しい軸を打ち出して、横浜スポーツタウン構想を推進していることが好影響をもたらしているといえよう。まちのマンホールに球団のマークが入っている他、バーチャルスコアボード、パレード、コミュニティボールパーク化構想、THE BAYS(企業を巻き込みながら新しいビジネスを創出するためのインキュベーションプレイス)等、立体的に横浜のまちを盛り上げるべく、多様なマーケティングアプローチを試みている。改めて “トライアングル“ を援用しながら、説明を進めたい。①クラブ・チーム⇔スポンサーの関係性は、スポンサー同士のビジネスマッチングの機会を提供しているということである。具体的には、B to Bの関係で様々な情報共有が促進されるよう、各々の名刺を入れておけるBOXを設置。そして、ラウンジでは優先的にビジネスミーティングができるスペースを貸し出す等の取り組みがある。②スポンサー⇔ファンの関係性では、先述した通りスポンサーが単なる広告主ではなく、ファンの経験創造装置(Fan experience enabler)としてブランドのポジションを確立していくものである。楽天Koboスタジアムにある公園の命名権をグリコが取得したことも、その一例であるといえよう。スマイルグリコパークは、「smile.glico~あなたが笑うと、世界は変わる。~」という同社のコーポレートメッセージから名づけられた公園で、ファンの経験価値を創るために観覧車まで設置されている。➂ファン⇔チーム・クラブの関係性は、ファンのために単なる試合を超えた新しい価値と経験を創造することである。ベイスターズの事例で言えば、試合後の滞留時間を延ばすためのビアガーデンがある。一般的にベースボールビジネスでは滞留時間が増えれば、その分モノが買われるということが言われている。そのため、いかに長く球場周辺に滞留させるかも一つの戦略になると考えられる。
 最後に、スポーツイベントマーケティングの研究課題を列挙しておく。はじめに「研究対象の多様性」である。メガスポーツイベントからプロスポーツ、そして市民参加型のノンメガスポーツまで研究対象は多岐にわたる。したがって、スポーツイベント研究を進める際には、大きな世界の中でこの部分を研究していくのだ、ということを明確にしなければならない。次に「スポーツイベントの何をリサーチクエッションとするのか?」ということである。イベントの参加者・観戦者が対象であれば、動機、満足度、態度、再訪意図、評価(サービスクオリティ)等が研究領域になるであろう。一方で、イベントがもたらす効果に着目する場合には、社会経済効果やレガシー等が研究領域になるであろう。中でもレガシー研究は短期、中期、長期どのスパンで物事を捉えるかによって見方が大きく異なるため、注意が必要になる。例えば長野オリンピックは、つい最近まで借金を払っていたことを考えると短期的視点ではネガティブに捉えられることが多い。しかし今、白馬村には成田空港から直行バスを活用し、多くの外国人が来訪している。これは1998年に整備された道路、通称オリンピックロードが今になってレガシーとして生きているのである。3つ目は「政策課題(スポーツツーリズム戦略推進事業)との関連」である。これは、スポーツイベントとその開催自治体に纏わる研究領域である。以上のように、その研究対象は多種多様であることが分かる。イベントをどのようにマネジメントするかという本は既に存在しているが “スポーツイベント” をいかに成功させるか、ということについては体系だったものが確立されていない。したがって、こうした研究会を梃に新しい知識体系が生まれることを期待したい。
 

図1
 
2. スポーツイベントの参加動機とプロモーション施策
  立教大学 辻 洋右 准教授

辻洋右准教授 辞書(大辞林)を紐解けば、動機とは人が行動を起こしたり、決意したりする時の直接の(心理的な)原因・きっかけまたは目的と解釈される。Iso-Ahola(1999)によれば、動機とは人間の行動に関する要因で、その方向性を示したり継続させたりするものである。動機研究の領域においては、その動機がもたらす「結果」まで見ることが重要であるとされ「結果」は認知、態度、行動の3つに分類される(Funk et al.,2016; Vallerand, 2001)認知は、スポーツチームの情報収集やスポーツについて学ぶこと。態度は、スポーツ観戦後に機嫌が良くなったり、ヨガクラス後に気持ちが落ち着いたりすること。行動は、試合観戦やスポーツへの参加、さらにはロイヤリティの醸成等を指す。動機研究をすることにより、心的要因(ニーズ、動機)によるセグメンテーションが可能になり、効果的なプロモーションが実施できる。それが、高い顧客満足度につながり、顧客ロイヤリティ向上に貢献することになるのである。動機から行動までの経路を辿ると、始めに出てくるのが「満たされないニーズ」である。ニーズに関してはマズローの欲求5段階説に代表されるが、人は満たされないニーズを感じ始め、その現実と理想のギャップが大きい程ニーズを満たしたいという欲求=「テンション」が生じる。次に、このテンションを軽減させる精神状態=「ドライブ(動因)」が発生するが、ここには動機の強さが影響することになる。その後、消費者が最終的にどのような行動をとるかは、当然様々な選択肢が出てくる。例えば、お腹が空いた時にサンドイッチを食べるかおにぎりを食べるかというのは人それぞれであり、その人が社会経験を通して学んだ欲求を満たす一つの方法が「Wants」として現れ、その先の「行動」へと移っていくのである。したがって、マーケッターにとって重要なステージとなるのは「Wants」の部分であり、いかに魅力的な商品・サービスであるか消費者に訴えかけなければならない。この一連のプロセスはツーリズムの領域では、PUSH要因/PULL要因で説明されることが多い(e.g., Crompton, 1979; Dan, 1981; Funk et al., 2008, 山口ら, 2011)。テンションを軽減させる精神状態=「ドライブ(動因)」には、旅行を実施することに傾く動機である参加要因が影響を与える。そして「Wants」には、特定の行先を決定する際の動機である魅力要因が影響を与えることになる。後程事例に挙げるおきなわマラソンでも、様々なPUSH要因PULL要因が明らかになっている。ここでもう少し動機研究の理論的背景を説明すると、良く用いられるのが自己決定理論である。これは、モチベーションが高いかどうか、そしてモチベーションのプロセスにおいて自分の決定権がどこまで影響しているかを示す理論である。自己決定権が強い「内発的動機」は、楽しみや満足を得るために動機づけされている状態を指す。目標達成したい、知りたい(学習、探索、自己開発)、刺激を得たい(楽しみ、エキサイティングな経験をしたい)等、自らそれをやりたいという思いが強いのが特徴である。一方、自己決定権が弱い「外発的動機」は、外的要因や報酬によって動機づけられている状態といえる。やるのが自然なことになっている統合的調整、目標や成長に必要だからやる同一化敵調整(例えば、体重を減らしたいから走るといった行動)、やらないと後ろめたさや不安がある取り入れ的調整、報酬を得て懲罰を避ける外的調整等、ひとくちに外発的動機といっても様々な段階が存在する。その他、動機が全くない無動機という状態もある。そして、動機の先行要因として重要と考えられているのが以下3つの心理的要因である。より自己決定的でありたいという自律性の欲求、より有能でありたいという有能性の欲求、より友好的でありたいという関係性の要求である。消費者がどの程度この3つの先行要因を有しているかによって、最終的な行動を規定するということである。ここまでは動機研究について概観してきたが、ここからはもう一歩踏み込んで、スポーツ動機に関する研究について説明をしていく。ひとくちにスポーツと言っても、参加型(するスポーツ)と観戦型(みるスポーツ)に大別されるが、まずは観戦型スポーツの動機に関する研究について紹介する。はじめにSloan(1989)は、スポーツの動機を、楽しみのためと説いたレクリエーション理論、非日常体験をしたいためと説いたダイバージョン理論、その他にも刺激欲求理論、カタルシス理論、アグレッション理論、エンターテイメント理論、達成目標理論等、様々な観点からみた研究がある。Wann(1995)はSport Fan Motivation Scaleという動機尺度を開発し、達成感を得るためにスポーツを観ている、あるいは賭けとしての側面があるから観ているといった項目を見出した。また、Kahil et al.(1999)は仲間意識、自己表現、チーム愛着といった三つの視点から観戦型スポーツ動機の研究を行った。その後、Miline&Mcdonald(1999)がMotivations of the Sport Consumerを、Trail&James(2001)がMotivation Scale for Sport Consumptionを動機尺度として開発。日本における研究としては、松岡先生らが2002年に行ったSports Spectator Motivation Scaleがあり、動機の構成要素を10に整理(達成、美的、ドラマ、逃避、知識、技能オレベル、交流、所属、家族、エンターテイメント)し、それぞれの項目を定義づけている。そして、実務家からの要請を受け、多岐にわたるスポーツ動機尺度の簡素化を試みた(調査に導入しやすくするため)ものがFunk et al.,(2009)が生み出したSPEED(Social Performance Excitement Esteem Diversion)という尺度である。Funk et al.(2009)は、Social(交流が楽しいため)、Performance(スポーツゲームのパフォーマンスを観るため)、Excitement(ドラマ性を観るため)、Esteem(自尊心やチームを通して達成感を味わいたいため)、Diversion(非日常的な体験をしたいため)という5つに項目を集約した。このように多くの先生方がスポーツ独特の動機というものを研究対象としていることが分かる。次に参加型スポーツの動機に関する研究について紹介する。この分野では、1980年代から90年代にかけて、レクリエーションやレジャーに関して多数の研究が存在する。(e.g., Manfredo et al., 1966; Masters et al., 1933; Vallerand, 2004)。尺度としてよく用いられているのはManfredo et al.(1996)のRecreation Experience Preference Scaleで、目標達成、承認、刺激、自由、リスクを取る、スポーツ用品を見せ合う、家族/友人と参加、出会い、学習、自然を楽しむ、内省、クリエイティブ、懐かしさ、健康、非日常体験、教える等、参加型スポーツの構成要因は、「観戦型」とは項目が異なってくることが分かる。さらに、参加型スポーツの中でもマラソンに特化して開発された尺度がMasers et al.(1993)のMotivation of Marathoners Scale(MOMS)である。彼らは、健康要因(健康、体重調整)、心理的要因(人生の意義、心理的対処行動、自尊心)、達成(競争、目標達成)、社会的要因(交流、承認)という4つの大きな要因の中に、それぞれどの様な項目が含まれるのかということを研究している。2000年には、Ogles&Mastersが実際にMOMSを使用して50代と20代を比較した調査を行っており、50代は「健康、体重調整、人生の意義」を、20代は「目標達成」を理由に参加していることを明らかにした。
 ここからは、おきなわマラソン2017の事例を交えながらお話したい。おきなわマラソンでは、スポーツイベントの参加動機について先程ご紹介したいくつかの先行研究を元に質問項目を設定し、アンケート調査を実施した。定員はフルマラソンで13,000人、10kmのロードレースで2,500人となっているが、トレンドとしては県外あるいは海外からの参加者の数が伸びてきている。県外参加者(n=72)の回答者属性についてみていくと、男女比で7:3、職業は会社員と公務員で約7割、居住地は東京・神奈川・大阪の3つで約半数を占めた。調査の中では「沖縄旅行について」という設問(7段階尺度で7:とてもそう思う~1:全くそう思わない)も入れていたが、「主目的はおきなわマラソンだ」「旅行に満足している」「沖縄へ旅行でまた来たい」といった項目の数値が高く出ていた。「沖縄旅行へは誰と来ましたか?」という設問に対しては非常にユニークな結果が出ており、「一人で」と回答した人が最も多く約4割を占めた。その他、沖縄への旅行回数(平均値:10.15回)、旅行の予算(平均値:67,014円)、滞在日数(平均値:2.59泊),友人・家族・ランニング仲間の人数(3.51人)等も聞いている。また、「おきなわマラソンについて」という設問では、おきなわマラソンへの参加回数(平均値:2.85回)、おきなわマラソンのフルマラソン完走回数(平均値:2.79回)、フルマラソン完走回数(平均値:10.22回)、マラソン歴(平均値:7.83年)等を聞いた。そして肝心の動機(参加理由)については、7段階尺度(7:とてもそう思う~1:全くそう思わない)で設問を設定した。その結果、上から順に、「走った後に楽しみ(食事・ビールなど)があるから」、「おきなわマラソンで思い出を作りたいから」、「楽しいから」、「沖縄に繋がりがあると感じたいため」等、外発的動機の数値が高く出た。事前予想では、もう少し内発的動機が上位にくると予想していたが、そのようにはならなかった。県外参加者(n=72)と県内参加者(n=354)を比較するとサンプル数の違いはあれど、差が出る項目はあった。例えば、「沖縄に繋がりがあると感じたい」という項目は、県外参加者の方が高い数値を示しており、「自分の目標(タイムなど)を達成するため」、「自尊心を向上させるため」、「体重をコントロールするため」という項目では県内参加者の方が高い数値を示していた。このような結果からも、県外参加者がおきなわマラソンに目標達成や自尊心といった内発的動機以外の動機を見出していることが分かる。県外・県内参加者ともに共通して数値が高かった項目としては、「総合的にみておきなわマラソンに参加して満足している」、「来年以降もおきなわマラソンに参加したい」、「おきなわマラソンへの参加を他の人にも勧めたい」等が挙げられ、おきなわマラソンへの参加が充実していた様子がうかがえる。おきなわマラソンのプロモーション施策展開に目を向けると、7月から様々なイベント(各所のフェア、マラソンEXPO等)へ参画や、おきなわマラソン主催のランニング教室を開催することで地道な取り組みを進めている。沖縄県としても「スポーツアイランド沖縄」を推しており、EXPOでは「MARATHON ISLAND OKINAWA」というコンセプトでブースを設置。おきなわマラソンだけではなく、沖縄で開催される全てのマラソンを後押ししている。また、各所イベントやマラソン大会会場でチラシ・リーフレット配布や事前受付を行うことはもちろんのこと、スポーツ店、スポーツクラブ、ランニングステーション居酒屋等へ広報活動も推進。海外に向けては、地元旅行会社と「おきなわマラソンツアー」を造成し、シンガポール最大の旅行博Travel Revolution2016でプロモート。スポーツ観光のアピールとセミナーを実施し、スポーツアイランド沖縄の認知度向上とツアー参加を促した。これら一連の活動に使用されているパンフレットを手に取ると、「喜び」、「楽しさ」、「達成感」を想起させる写真が多く使用されており、先程から説明している参加者の動機を踏まえた戦略を取っていると推察される。その他にもランニングコースの説明だけはなく、食のイベント案内やご褒美としてのメロンマラソンへの参加等、県外参加者の外発的動機につながる工夫が凝らされていることが分かる。
 最後に、これまでの内容をまとめる。まず、スポーツイベントには多様な参加動機が存在し、属性によって異なるということ。そして、その参加動機を理解することによって「セグメント毎の効果的なプロモーションが可能」になり、「高い顧客満足からロイヤリティにつながることが予想される」ということである。そして今後も継続的なリサーチが重要となるが、その際には参加する動機だけではなく、参加出来ない理由、その制約となる要因についても研究を進めていく必要があると考える。
 
3. スポーツイベントが開催地域にもたらすインパクト
  早稲田大学 押見 大地 助教

押見大地助教 インパクトは「社会/文化」「経済」「環境」という3つの視点から語られることが多いが、いずれの視点においてもポジティブとネガティブの両側面が存在するということが特徴としてある。この3つが重なり合いポジティブな影響を与えることが持続可能性につながるというということは良く言われている。本日は、「社会/文化」の一部分である都市イメージに着目する。スポーツイベントの効果は、「①経済効果」と「②社会(文化)効果」の2つに大別される。「①経済効果」は、お金・雇用・所得といった経済的指標をベースにしているため定量化しやすく、スポーツイベントにおける費用対効果の算出根拠になり得る。数値化できるという点で、誰にとっても分かりやすいものであるが、推測を重ねて算出しなければならないため、あくまで推測の限界がある(推測の域を出ない)ということに留意しなければならない。経済効果の測定における主な対象は域外からの参加者であり、その直接効果としてはスタジアムでの飲食代、チケット代、グッズ代等が挙げられる。その他にも、一次波及効果として販売業者(飲食、チケット、グッズ等)の売上や原材料の売上増加金額が、二次波及効果としては売上増加に伴う所得(給料)の増加、さらには増加分所得が新たな消費に回るといったこと等も測定範囲に入る。一方で、「社会(文化)効果」は、価値観・ライフスタイル・行動様式・生活の質といった個人・社会的指標をベースにしており、目に見えにくく定量化しづらいというデメリットがある。社会効果の測定における主な対象は地元住民であり、住民調査・該当調査・観戦者調査等を用いて、スポーツイベント前後で効果の比較を行う。ポジティブ効果としては、開催都市のイメージ/認知度向上・人材育成・ノウハウの蓄積・スポーツの振興・地域アイデンティティの醸成・異文化交流の促進等が挙げられ、ネガティブ効果としては、交通渋滞・騒音・ごみの増加・犯罪の増加・環境へのダメージ等が調査項目として並ぶ。
 本講義のメインテーマでもある「地域ブランディング」とは、投資の増加やツーリズムの発展に伴う地域活性化や、地元住民の地元意識やアイデンティティ醸成によるコミュニティの発展によって得られる(他都市・地域と比較した)競争優位性を獲得する手段(KAVARATZIS, 2004)のことであるが、域外(ツーリスト)の視点から捉えると、都市の認知度の向上、ブランドイメージ向上、都市へのロイヤルティ向上といったことも地域ブランディングに資するものといえよう。いくつかの先行研究ではDestination(目的地)のイメージがツーリストの行動意図に与える影響を題材として(Baloglu&McClear, 1999;Hernandez et al., 2017;Kaplanidou et al., 2007;Moon et al., 2011)、実際に目的地のイメージが向上するのか否か、検証を試みている。しかし、このような域外(ツーリスト)視点の研究に比べて、域内(地域住民)の研究は少なく、アンバサダーとしての地域住民やステークホルダーとしての地域住民(Hudson and Hawkins, 2006;Leisen, 2001;Stylidis, 2015)といった視点の欠如がみられる。したがって、ツーリズムの持続的な発展に必要となる多様なステークホルダー(ツーリスト・旅行事業者・観光協会・地元住民等)との関係性に注目すべきと考える。そこで、以下3つ(①スポーツイベントの開催は都市イメージの改善につながるのか?その先行要因と結果要因はどのようなものか?➁継続的なイベントの開催は、よりポジティブな効果を得られるのか?③どのような都市イメージが、開催都市への好意的な態度に有効か?)を本研究のリサーチクエッションとしながら、スポーツイベントが(地元住民にとっての)地域イメージと地域愛着に及ぼす影響について紐解いていきたい。調査事例としては、ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム(2013~2017年の毎年、さいたま新都心で開催されているスポーツイベント)を用いる。都市イメージの先行要因の一つ目は「イベント経験」である。感覚的、感情的、行動的、知的等様々な経験がブランド価値を高めるのに役立つと言われており、ブランド研究の中で位置づけるとブランドエクスペリエスという概念で表現される。とりわけスポーツイベントは快感情や不快感情等、様々な感情を喚起するものであるため、感情経験との親和性は非常に高いと考えられる。二つ目は「イメージフィット」である。ここで言うフィットとは、イベントとスポンサー間の関連性の程度(McDonald, 1991)のことを指す。例えば、長年ラグビー日本代表のスポンサーを務めてきたリポビタンDは、激しいラグビーのイメージと見事に合致しており、フィット率が高ければ高い程スポンサーへの認知度や親和性が高まると言われている。これまでも、スポンサーとイベントのフィットについての研究は行われてきたが、今回の取り組みでは開催地とイベントのフィットを検証していくものである。三つ目は「都市イメージ」である。しかし、一口に都市イメージといっても域外からのツーリストと域内の地元住民では、異なるイメージを持っていることが想定されるため、両側面から検証する必要がある。他方、都市イメージの結果要因として、地域愛着という概念を使用した。地域愛着とは、個人と特定の場所間の感情的な結びつきのこと(Williams et al., 1992)を指すが、複数の先行研究で行動意図や定住意向への影響が確認されている。本研究の調査対象者はさいたまクリテリウムの観戦者で基礎的デモグラフィックスとして、平均年齢は38.2歳、男女比は65%:35%という結果に。回答者のほとんどが埼玉近辺(もしくは関東圏内)であったため、約9割が日帰りでの観戦となった。その他、さいたまクリテリウムの観戦経験としては、初めて観戦が約4割を占め平均滞在時間は、比較的長く約半日(5時間前後)であった。当然スポーツイベント観戦者への質問紙調査のため、やや偏りがある可能性はあるものの、さいたま市のイメージとしては「都会・利便性」や「スポーツ」といった項目の数値が高く出ていた。フィットの項目については観戦経験を重ねた人の方が、よりフィットが高まることが明らかになった。リサーチクエッション毎に総括すると以下の通りである。
①スポーツイベントの開催は都市イメージの改善につながるのか?その先行要因と結果要因はどのようなものか?
結果として「イベントで喚起される快感情」や「イベントと都市間のフィット」は先行要因になり得ることがわかり、結果要因としては「地域愛着」があり、それがポジティブな口コミ意図につながるということが明らかになった。楽しいや嬉しいという快感情がイベントでは非常に重要な起点になるということである。さいたまクリテリウムで人々の滞在時間は約5時間程度であったが、実際のところメインレースは約1時間程度である。そのため、ブースではフランス料理が食べられたり、ワインが飲めたりといったように来訪者を楽しませる工夫がなされていた。
②継続的なイベントの開催は、よりポジティブな効果を得られるのか?
結果として、フィットから都市イメージ間の関係性を強化するということが明らかになった。つまり開催を継続すればする程、フィットが高まり、ポジティブな都市イメージが醸成されるということである。
③どのような都市イメージが、開催都市への好意的な態度に有効か?
結果として、「都会・利便性」「スポーツ」「街の雰囲気」「自然」という都市イメージは、地域愛着や地域の好意的態度に対してポジティブな影響を与えることが分かった。項目の一つとして、スポーツがポジティブな影響を与えていることは注目に値する。ただし、上記①~➂のいずれにおいても言えることであるが当然研究の限界は存在しており、そのうちの一つが調査対象者であると言える。今回は、もともとスポーツに対して好意的な態度を持っている人達に対する調査であるため、調査対象者を変えた場合には、また異なった結果が出る可能性があると考えられる。
 
4. ニューバランスにとってのスポーツイベント・マーケティング
  (株)ニューバランスジャパン 鈴木 健 氏

鈴木健氏 ニューバランスは、1906年にボストンで創業。鶏の足からヒントを得た医療矯正靴からスタートし、シューズを履いた人に「新しいバランス感覚」をもたらすという意味でNew Balanceと名付けられた。その後、1972年に現会長のジェームズ・S・デイビスが会社を買い取り、70年代の後半から画期的なランニングシューズを生み出した。米国に自社工場を保有しており、米国内でシューズを製造する唯一の企業である。一般的にスポーツマーケティングは、「スポーツのマーケティング」と「スポーツを利用したマーケティング」の二つに大別できるがスポーツブランドにとってのスポーツマーケティングとは、当然「スポーツを利用したマーケティング」のことを指す。しかし、スポーツがないと我々のビジネスは成り立たない。すなわち、スポーツを意図的に推進しないとスポーツ用品が売れないという構造であるといえる。そのため、一部「スポーツのマーケティング」の領域にも接点を持ちながら、スポーツ用品のマーケティングは存在するということを意識しなければならない。そのマーケティング内容としては、まずプロ選手契約があり、基本的にアマチュアは契約出来ないという規則がある。また、プロリーグやチーム(実業団も含む)、選手や関係者(監督・コーチ)に対する製品販促として、試しに製品を使っていただくということもある。日本代表の場合は、各スポーツの協会や組織委員会に対する協賛・支援というかたちを取る。その他、大会・イベントの協賛及び運営も実施している。そのようなマーケティング活動の目的としては、以下8つに分類される。①ブランドのアイコン・広告塔 ②製品機能の証明・裏付け・インフルエンサー ③ブランドの性格・ポジショニングの反映 ④ブランドのコミュニティ・ロイヤリティ育成⑤市場におけるプレゼンス・シェア拡大⑥スポーツ参加者・視聴者に対するブランド認知・ファン作り⑦スポーツ文化・ライフスタイルの価値向上⑧社会に対する貢献・Giving Back まず①は一番分かりやすいが、チームやアスリートにロゴをつけて露出をしてもらうということである。②は、我々の顧客であるプロスポーツ選手にエンドーサーとして、この製品はプロレベル・エリートレベルでも十分通用するという製品機能の証明を行ってもらうということである。また、アマチュアのアスリートには、自身のコミュニティに製品を広げてくれるインフルエンサーとしての役割も期待できる。➂は、どのようなイメージをブランドとアスリート間でフィットさせていくかということである。プロスポーツ選手の場合、スポンサースイッチ前のブランドイメージが強かったりすると、上手くポジションが取れないためNIKEやAdidasがやっているようなことを、そのまま真似をしてもニューバランスのイメージは上手く形成出来ない。例えば、NIKEはかつてテニス選手ジョンマッケンローという選手と契約をしていたが、彼の素行の悪さを逆手に取り、アグレッシブなパーソナリティと企業イメージを結び付けようとしていた。④~⑥は、ランニングの領域であればランナーのコミュニティにブランドが入り込む取り組みを行っていくことで、ブランドの認知やシェアの拡大を狙うということである。⑦は、どこでもできる、短い時間でもできるスポーツ(ランニング等)を推進していくことで、都市生活者でもスポーツが取り入れやすくなったこと等が例として挙げられる。⑧は、ニューバランスのスポーツ選手との契約条項の中に、自分たちの時間を使って社会貢献せよというものがあり、そのような取り組みのことを指している。グローバルで実際にスポンサードしている選手やチームとしては、テニスのミロシュ・ラオニッチ選手、陸上のトレイボン・ブロメル選手、そしてイングランドの歴史あるフットボールチームのリバプールFCがある。スポーツイベント協賛としては、ニューヨークシティーマラソン、ロンドンマラソン等、域外からの参加者が多いマラソン大会を支援している。日本に目を向けてみると、サッカーの小笠原満男選手、野球の青木宣親選手、テニスの土居美咲選手らを支援。チームとしては、サッカーのサガン鳥栖、モンテディオ山形、陸上(駅伝チーム)の上武大学、拓殖大学をサポートしている。スポーツイベント協賛は、主にグラスルーツ系のイベントに取り組んでいる。最もスポーツ用品を買うのは、高校生・大学生のハイティーンであるため、実際の使用者に対してアプローチすることが狙いである。スポーツイベントでは先述した、「④ブランドのコミュニティ・ロイヤルティ育成」と「⑥スポーツ参加者・視聴者に対するブランド認知・ファン作り」が協賛の大きな目的となる。そのようなことを考えていく上で重要な視点になるのが、カスタマージャーニーである。これは顧客視点でその人がどういう具体的な目的(旅の終点)に沿って、どのような体験(そのひとの感情的反応)をしているか、を一連のプロセスで解釈するマーケティング手法である。一般的に企業視点で見ると商品の購買等が最終目的になる場合が多いが、顧客視点で見るとスポーツをやるために商品を買うので、必ずしも最終目的ではない。例えばランナーのカスタマージャーニーを可視化していった際、雑誌で商品を見た後にお店に足を運ぶというマーケティング的な経路は我々企業側にとって重要なものであるが、あくまで顧客側は、マラソン大会に出て目標とするタイムを目指す、あるいは完走による達成感を得るということを最終目的としている。そうした最終目的との接点となるのが、スポーツイベントや大会であると考えている。
 本日は、湘南国際マラソンをケーススタディとしてご紹介する。フルマラソン参加者約15,000人規模の大会において、電通のSocial Marathonを活用。ランニングタイム記録用のRFIDを参加者のFacebook、Twitterに登録し、経過タイムとフィニッシュタイムをソーシャルメディアに自動投稿できる仕組みに。参加者の動機に「承認欲求」があるとすれば自動的にSNSに投稿されるので、その場に居なくても自身のアピールができる。特設レーンとカメラをフルマラソン後半で一番苦しく、フォームが崩れやすい30Km地点に設置。登録者のランニングフォームを撮影した。そして、レース後に記録タイムと30Km地点、ゴール地点の映像を加えた特別なパーソナルムービーをWEB上で閲覧出来るように仕掛けた。(*パーソナルムービーご参考:https://www.youtube.com/watch?v=AktY4zxYLHg
 上記の取り組みがストレートに購買に直結する訳ではないが、大会後にブランドトラッキング調査をしたところ、ブランド好意度やランニングシューズの購入検討以降等が向上しており、ブランドロイヤリティの向上(ブランドリフト)が見られた。マーケティング的には、カスタマージャーニーの前半部分にあたるWEB検索や実際のショッピング体験価値を高めるということも重要である。しかし、スポーツブランド的には顧客の最終目的に沿った施策を打ち、彼らの欲求を満たす手助けをすることでブランドに対する情緒的な価値を高めることに注力していく必要がある。

 
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