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研究報告会レポート

第12回ソロモン流消費者行動分析研究報告会(春のリサプロ祭り)レポート「『欲望する「ことば」:「社会記号」とマーケティング』刊行記念!ことばとマーケティングをめぐる若手研究者の成果発表会」

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テーマ:『欲望する「ことば」:「社会記号」とマーケティング』刊行記念!ことばとマーケティングをめぐる若手研究者の成果発表会
日 程:2018年3月17日(土) 10:30-12:00
場 所:中央大学後楽園キャンパス
 

【報告会レポート】
 第12回の研究報告会では、2017年12月に研究会のリーダーである松井剛先生が、博報堂ケトルの嶋浩一郎氏との共著で出版した『欲望する「ことば」:「社会記号」とマーケティング』の刊行を記念し、松井先生による本書の解題と、本書の内容に関連する研究を行う3人の若手研究者による研究発表を行いました。
 
1. 解題:『欲望する「ことば」:「社会記号」とマーケティング』
松井剛(リーダー、一橋大学商学研究科 教授)

 最初に、松井先生による『欲望する「ことば」』の解題です。本書は、「社会記号」と呼ばれる、社会に定着し人々の認識を方向付けたり市場を創り出したりする力を持つようになる新語や流行語をテーマに、理論・実務の双方からアプローチする著作です。この日の解題では、「ハリトシス(悪臭呼気)」や「加齢臭」といった、企業がマーケティングに用いることで人々の間で問題意識を生み、市場を創り出した実例から説明が始められ、社会記号の影響力がわかりやすい形で示されました。その後、「女子」という社会記号の意味やマーケティングでの利用に関する研究成果に話が移り、最後に社会記号一般について、その8つの機能や4つの類型について説明がされました。以下の若手研究者による研究は、この社会記号の類型では、カテゴリー(「古楽」、「渋谷系」)と行為(「婚活」)に関わるものです。
 
2. 審美的製品をめぐる価値とことば:古楽を事例として
飯島 聡太朗(一橋大学商学研究科 ジュニアフェロー)

 芸術作品やグルメなどのように、ものの善し悪しが主観に依存して定まるような製品の価値は、どのようにして世の中に受け入れられていくのでしょうか。飯島氏の発表では、審美的な新規製品の価値が発売後に認められるようになったり、既存製品の評価の仕方が変わったりする現象の把握を目指して、主として雑誌・新聞メディアに現れたことばの役割に着目した研究が紹介されました。事例として採用されたのは、1970年代以降、日本のクラシック音楽産業に出現し、やがて確立した「古楽」という新しい演奏スタイルです。報告では、まず価値とことばに関する既存研究について、次いで具体的な実証研究の概要について説明がなされました。テキストマイニング手法の活用を通じて、新製品の正当化や価値規範の見直し、製品の意味の変容などの経時的変化のプロセスを多面的に捉えた一連の研究が紹介されました。

 
飯島聡太朗氏
飯島聡太朗氏
 

3. 「婚活」の意味の変化:市場による解釈がもたらしたもの
織田 由美子(一橋大学商学研究科 博士後期課程)

「カジノ」や「サラ金」、「整形手術」。否定的なイメージとして社会に定着している行為は、社会記号によってどのように変化するのでしょうか。ゴフマンによる「スティグマ」という概念を元に、脱スティグマ化がどのように生じるのかについての研究成果が発表されました。具体的事例として、「婚活」ということばに着目し、出会いのためのサービスを利用する(例えば結婚相談所)といった後ろめたいイメージが、どのように変化したのかについて報告されました。分析結果から明らかになったことは、「婚活」ということばは、本来社会問題の解決を目的として創造されたが、市場で受け入れられ、ブームとなるプロセスにおいて、当初の意図とは異なる形で普及したという点です。社会記号は、ネガティブなイメージを払拭する機能をもつ一方で、その生成プロセスは、必ずしも思い通りにコントロールできないということが明らかにされました。
 
織田由美子氏
織田由美子氏
 

4. 市場カテゴリーを創り出す社会記号:「渋谷系」
朝岡 孝平(一橋大学商学研究科 博士後期課程)

 最後に、市場カテゴリーの形成プロセスを分析した博士論文の概要と、社会記号の議論との関わりについて発表が行われました。朝岡の博士論文における問題意識は、従来の研究では、新しい市場カテゴリーの形成は、新製品や新事業の市場への投入と結びついたものとして扱われており、既存の製品に対する新しい分類の仕方の出現という現象がうまく扱われていない点にあります。この現象を扱うために、「渋谷系」音楽という1990年代に新たに出現したポピュラー音楽のカテゴリーの事例を分析しました。研究から明らかになったのは、濃密な相互作用と深い知識により、製品に対して一般的な分類では表れない差異を見極める視点を持った消費者の集団が形成されること、その視点を社会記号によって言語化することで、その視点が市場カテゴリーとして現実化しうることです。渋谷系の事例は、社会記号が言語化する対象の発見や、社会記号を用いたことによるネガティブな帰結について示唆があることも示されました。
 
朝岡(発表者)と会場の様子
朝岡(発表者)と会場の様子

 

 4人の発表後は、質疑応答を行いました。参加していただいた方々から様々な質問やコメントがなされ、終了後も個別に質問やご感想をいただき、活発な議論の場となりました。発表者としても得られるものが多くあり、有意義な報告会となりました。
 
(文責:朝岡 孝平)

 
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