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研究報告会レポート

第22回価値共創型マーケティング研究報告会(春のリサプロ祭り)レポート「価値共創とマーケティング組織」

第22回 価値共創型マーケティング研究報告会(春のリサプロ祭り) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「価値共創とマーケティング組織」
日 程:2018年3月17日(土)
場 所:中央大学ビジネススクール(中央大学後楽園キャンパス 3号館11階)

 

【報告会レポート】
1. 「価値共創マーケティングの諸側面」

村松 潤一 氏(岡山理科大学)

村松 潤一 氏 本研究会が発足してすでに5年が経過しようとしています。価値共創という言葉を耳にする機会は増え、あるいは多様なサービスが存在する時代を迎え、さまざまな議論が存在します。こうした現象としての多様性は、それぞれ依って立つ位置による違いがあるといえそうです。この局面において、マーケティング研究という立場なら何に焦点を置き、どのように新しいマーケティングを構築していくべきといえるでしょうか。本研究会リーダーの村松は、こうした視点から価値共創マーケティングの特徴を確認し、現在注目し得るさまざまな研究を紹介していきました。さまざまな議論が存在していますが、肝心なのは、サービスを通じて顧客がどのように価値創造するのかであるといえます。このことは企業に何を求め、どのような挑戦が可能なのかを考える必要があります。価値共創への注目とは、こうした考え方を前提に成立するといえます。こうした問題意識に基づき、今回の研究会ではBtoBにおけるオープン・イノベーションに注目します。富士フィルムにおけるその取り組みは、価値共創マーケティングを考えるうえで、多くの示唆が含まれています。今回は参加者全員でこの示唆について議論していきたいと考えました。以上、村松は、価値共創マーケティングの核心を確認したのち、今回の研究会に向けた解題を試みました。
 

2. 「富士フィルムにおけるオープン・イノベーションと共創の仕組みづくり」

小島 健嗣 様(富士フィルム(株)経営企画本部 イノベーション戦略企画部 オープン・イノベーション・ハブ館長)

小島 健嗣 様 富士フィルムといえば、フィルムカメラ全盛期にはフィルムメーカー大手として広く知られていましたし、現在では化粧品「アスタリフト」で有名な企業です。コラーゲンを扱う技術を有していた同社は、フィルム全盛期にはフィルム生産のために技術を活かし、現在は人間の肌(真皮)に作用するものとして扱うことで、見事に新事業を開花させています。こうしてみると、アナログからデジタルへと変化する時代の中で、コア技術の解釈を見事に変容させ、持続的競争優位を獲得しているかにみえます。また、こうした企業にオープン・イノベーション・ハブが存在しているのですから、その成功には巧みなオープン・イノベーションの実践があるといえるのかもしれません。
 ところが、小島氏からは意外な言葉が幾つも示されていきます。まず、化粧品事業は今でこそようやく黒字転換したものの、まだまだ同社の主力事業だとはいえないということです。また、アナログからデジタルへの転換が急速に進む時代に、当初から都心にオープン・イノベーション・ハブを設置した訳ではないということです。同社は2006年に神奈川県西部に富士フィルム先進研究所を設置します。オープン・イノベーションの概念にも近い「融知創新」を掲げ、異分野の技術者の知識や思考アプローチを融合させ、破壊的イノベーションを促進し、新たな顧客価値を社会に提供しようとしました。崇高な理念のもと、積極的な挑戦がここで進められたのですが、ここでの働き方を観察すると、3つの問題(①「おもてなし」の欠如、②村文化、③乏しい共有空間)が浮かび上がったといいます。①は、技術者だけの閉鎖的空間であることの問題を意味しています。これでは異分野の知との融合といっても限度があります。その結果、下界との接触が乏しいという問題が浮かび上がります(=②)。チームのメンバー以外とコミュニケーションを採らなくても研究を進めることはできます。こうした文化を肯定的に捉えるようになり、さらに閉鎖的空間の特徴が際立ちます。すると、③他者と共有する空間が乏しくなり、協働する機会はますます減少してしまいます。もはや、先進研究所は協働の空間として捉えられることすら危ういとすら感じられるようになったそうです。
 こうした問題意識から、同社はコラボレーティブなイノベーションを可能にするための取り組みをさらに進めていきます。その象徴がオープン・イノベーション・ハブであり、同施設は2014年1月に東京赤坂に開設されることになります。同施設の館長である小島氏は、ここでの実践で重視することに「対等な共創関係」があるといいます。これは、互いの強みを認識し、リスペクトし合うことにあるとのことです。コア技術が本当に強いのかどうかは、解釈によって異なります。パートナーに認められない限り、強いとはいえません。こう考えたとき、他流試合の環境が必要だといえるほか、強みはすなわち多様な解釈に耐えうるアセットであるといえそうです。さて、アセットにどのような解釈が可能なのか、どのような可能性が秘められているのか。こうしたことを探究する場こそ、同施設であるといえそうです。さらに、小島氏の主張から理解できるのは、互いにリスペクトし合う関係でなければ、この議論は本質に到達しないということです。技術は自社で体感するだけでは不十分で、まずは「社外共創」によって潜在あるいは既存顧客との共創を図り、研究開発におけるテーマのビジネス化や機会の増大とともにスピードを加速する必要がありそうです。そのうえで「社内共創」によって、社内人材に対し自社技術の可能性の全体像を理解させ、ビジネスを拡大することが求められます。こうした手続きを経て「ブランド力向上」が可能になるといえ、ステークホルダーへの情報発信の場として、同施設は自社の将来の成長性を印象づける運用が可能になると考えられます。このように、小島氏は同施設の館長として、それが機能するために何を捉えるべきなのかをご説明になりました。
 

ディスカッション

パネラー
 小島 健嗣 様(富士フィルム(株)オープン・イノベーション・ハブ館長)
 村松 潤一(岡山理科大学)

ディスカッションの様子 ディスカッションでは、小島氏の鮮やかな実践報告に議論が集中しました。興味深い示唆が多く含まれていた一方で、たくさんの疑問が生まれたからです。共創と言ったものの、アセットの新しい解釈を最初から発見できるといえるのか。どのようなプロセスを経て、シナジーの獲得に到達するのか。さらに、社外での共創を契機とした社内の共創はスムーズに進行するのか。こうした多くの疑問が生じていきます。
 これに対し小島氏は、最終顧客が求めているものに向けて、共に探究することが重要であるとの考えが示されました。このことは、事前にアセットの解釈を規定した主体間の関係では、コラボレーティブなイノベーションに十分な可能性が担保できないということを意味しています。さらに、ここでいう顧客とはそれぞれの主体が直面している既存顧客に留まりません。新たな事業、新製品や新サービスを希求する新規顧客を想定することも大切です。つまり、未来志向で企業活動を位置づけることを念頭としながら、互いを尊重して共創しようとするのです。
 最新の実践報告ですから、完全に説明できることばかりではないとのことでした。しかし、現段階で言えること、それは、従来型のKPIの解釈に縛られてしまうことが、可能性をスポイルすることにもなり得るということです。このことはつまり、ビジョンやドメイン、そして戦略がアセットの価値や評価を規定してしまうことの危うさを示唆しています。戦略がアセットの解釈を規定してしまうがために、その解釈を疑う組織になり得ないというのです。しかしそれでは、主体間関係に寛容な組織になり得ることはできず、未来志向で企業活動を位置づけることにならないといえます。要するに小島氏は、互いにリスペクトし合う関係を意識しながら同施設をマネジメントすることで、自社だけでなく関係を持つ主体も含めた複数のアセットに対し、新たな可能性を探究するためのプロセスを提供しているといえそうです。これが小島氏の同社における貢献であり、ここまでの議論全体を俯瞰すれば、小島氏が全社的な戦略的マーケティングの担い手として機能しており、そこでは絶えず最終顧客を意識した行動が実践されているといえます。
 一見するとBtoBの協業の事例のようですが、可能性への模索は狭義の利害調整に留まらないダイナミックなものでした。このことは、最終顧客を念頭とした直接的な相互作用を意識している企業活動であるといえ、ここに価値共創のマーケティングの姿が浮かび上がります。もはや、チェスブロウのいうオープン・イノベーションとは異なる日本的な実践の中に、本研究会が注目する含意を発見することができたといえそうです。
 
(文責:今村 一真)

 
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