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研究報告会レポート

第24回価値共創型マーケティング研究報告会レポート「さまざまなコンテクストを捉えた価値共創研究」

第24回 価値共創型マーケティング研究報告会 > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「さまざまなコンテクストを捉えた価値共創研究」
日 程:2018年6月10日(日)
場 所:大阪産業大学梅田サテライトオフィス(大阪駅前第3ビル)

 

【報告会レポート】
報告1「チェーンストア型サービス業の価値共創マネジメントに関する一考察」

星田 剛 氏(愛知学院大学大学院, イオン株式会社)

 星田先生は、サービス従事者の管理体制の強い、あるいはサービス従事者の権限の弱いチェーンストア型組織において、顧客との価値共創が実現しないのかという疑問に基づき、研究を展開しました。価値共創という言葉があふれる今日、研究の対象の多くが活発なインタラクションを想定し得る事例研究が多いのですが、実際には日常生活の中で利用可能なサービスがたくさんあります。しかしその多くはサービス従事者の裁量がわずかで、積極的な顧客への関与が考えにくいといえます。これが、顧客との価値共創の議論に不向きだと考える根拠ですが、これを問い直すというのが、星田先生の問題意識です。日常生活の中で利用可能なサービスにおける、価値共創に基づいた企業活動とはどのようなものかについて、事例研究による解明を試みます。
 星田先生が注目したのは「QBハウス」です。同社はビジネスモデルの新奇性もあり、さまざまなかたちで注目を浴びました。理美容業界が提供するサービスを再定義し、特徴的な立地とともに新たな活用を提案します。同じサービスのようでも計画購買から非計画の購買を可能にし、来店頻度を向上させることで、既存市場における競争を脱し、ブルー・オーシャン戦略として同社のビジネスモデルを評価することができるかもしれません。しかしながら、同社は創業10年目を過ぎたころから直面する壁があったといいます。すでにブルー・オーシャンでなくなってきたほか、深刻だったのは、従業員不足が成長を阻むようになったといいます。この問題は、従業員の本音に示されるようになります。従業員には不満や迷い、戸惑いがさまざま存在していたといいます。これらは、従業員の声を経営者たちが傾聴することではじめて浮き彫りになりました。
 同社は従業員の不満に目を向けるだけでなく、職務を遂行するうえで生じていた戸惑いを対処するようになります。OJTを充実させながらサービスのプロセスにも厚みを持たせようとする改革を実行していきます。そもそもリピーターの多い顧客特性に対し、従業員の帰属意識の低さや離職率の高さはミスマッチを起こしていたのですが、経営者たちは傾聴を通じて、従業員のモチベーション向上策を構築していきます。その最たるアプローチが技能の習熟度を測り可視化する筈であった訳ですが、これにより従業員の職務に対する自覚が芽生え、価値の共創に到達するといえるのではないか。これが星田先生の主張であり、それは知識価値や感情価値といった視点で検討することによって、よりマネジリアルな指針を獲得できるのではないかと分析しました。

 

報告2「顧客の自己実現に向けた価値創造モデル -ホスピタリティ・ビジネスの事例から-」

大野 惠子 氏(西武文理大学 サービス経営学部 准教授)

 大野先生は、圧倒的な非日常の提案によって顧客をもてなすホテルのサービスに注目します。一見、ホテル側の価値創造が重要であると考えられがちな分析枠組みをあらため、購買意思決定の段階から顧客の価値創造活動を捉えることができるかについて注目し、研究を進めていらっしゃいます。すると、顧客の自己実現に関する考えに特徴がありました。施設が提供するサービスを享受する顧客は、価格に対してシビアな考えを持ちます。また、価格やイベントの内容は、利用頻度が増す可能性があることが発見できました。さらに、顧客がホテルのサービスを支持し、価値を共同生産する可能性があるほか、自己実現や価値を感じる要素との関係によっては、顧客は自己実現とともに価値を促進させていくという行動が浮き彫りになります。この調査結果が妥当であれば、顧客の自己実現を見据えた企業活動が求められるほか、その成果の多様性を企業は理解する必要があります。
 ところが、ホテルのオーナーに尋ねたところ、こうした顧客の自己実現に向けた態度は、日本人にあまり見られないといいます。つまり、自己実現に向けた態度は多くの顧客が有する側面でありながら、それを受容するホテルのマネジメントが推進されていないといえます。これを海外のホテルに照らしたところ、大野先生の経験によれば、顧客の能動性が高く、ホテル側も積極的に経験に関与しているといいます。ここに、日本人の奥ゆかしい一面が垣間見えるとともに、自己実現を促進するサービス提供が実践されていないことが明らかになります。海外のホテルの実態に精通された大野先生は、俯瞰的にホテル・マネジメントを捉え、世界中で企業と顧客との価値共創が志向される局面において、日本のホテルが望ましいインタラクションを形成できてないことを指摘するに至りました。
 

ディスカッション
 星田先生、大野先生を交えたディスカッションが、本日もさまざまに繰り広げられました。まず星田先生に対しては、チェーンストアに存在するマニュアルは、サービスの品質は一定を保持できるという考え方になるのではないか。そうであるならば、顧客との相互作用があることでよいこととは何かという質問がありました。これは、「QBハウス」が業務効率の向上とともに優れた実績を達成したという理解に基づき、相互作用が阻害要因になるのではないかとする考えにも依ります。効率と矛盾するような視点を持ち込むことの妥当性が問われた訳です。この質問に対し星田先生は、「髪を切る」という行為についての技術、サービスをどのようにすればよいかについて、当時の同社にその指針は見当たらなかったといいます。職人的な側面であり、顧客との相互作用はまるっきりの人任せであった、つまりブラックボックスだったという訳です。経営者たちは、これを改善することが求められたといえます。また、改善は顧客との会話の方法、目指すべきことについても同様です。こちらも指針が存在せず、効率だけが優先されていたために行き詰まりを見せていたのです。星田先生は、ここにOJTの余地があったことを指摘します。何より、顧客が「1cm切ってほしい」と言ったところで、1cmを正確に解釈することよりも「さっぱりしたい」という感覚を満たすことの方が大切な場合もあります。そうであるならば、利用の目的、感覚的な期待を察知した方がよい訳です。ブラックボックスの存在に気づき、それまでかたちがなかった「価値共創のプラットフォーム」というべきものを用意したのが、同社の改革およびOJTだったといえそうです。カウンセリング力と施術力が向上することで、同社は業務効率一辺倒に終始しない、新たな姿を示すことができたといえそうです。星田先生の研究からは、サービスの含意を無視した業務効率の向上や追求に限界があること、あるいは、このことを無視してブルー・オーシャン戦略を説明しても持続的に機能することまでを説明できないことが、明らかになったといえそうです。
 大野先生の研究に対しては、高級なホテルでは優れたサービスを受益するもの、ホテル側も決めているサービスを提示するものとの考えが一般化し、欧州で見受けられる多様な要求に対しフレキシブルに対応するホテルの姿が見られない日本において、価値共創になり得ない現状を憂う意見が示されました。それは、研究の中で示された「自己実現」の解釈についての質問を契機に語られました。それだけでなく、独自の見解が披露されていきます。大野先生が位置づける自己実現とは、自分へのご褒美のようなものであってもよいし、よりリラックスを追求するものであってもよいようです。欧州では実にさまざまな要求がホテルに示され、臨機応変に対応が進むのに対し、日本ではそれが皆無であること、さらに、ホテル側の対応も画一的で、過度にコンプライアンスを意識してしまうために、対応が硬直していることが指摘されました。大野先生は、ホスピタリティやおもてなしの偏った議論にも疑問を持ちます。ホスピタリティやおもてなしは、強要するものではない。これが大野先生のお考えでした。むしろ、顧客との関係で生じるものであり、関係の中で感じられるものだという考えに基づかないといけないのではないか。つまり、サービスの受益者にとって意識されるのがホスピタリティであり、おもてなしなのです。それなのに、受益者の意識抜きにホスピタリティやおもてなしのかたちを求め、サービス従事者がかたちで示そうとする。こうした議論や実践は不毛ではないかというのが、大野先生の主張です。フレキシブルなサービス提案が機能しないことを疑問視しない日本の現状を無視して、印象の期待ばかり膨らませる研究の問題点をご指摘になりました。
 さらに大野先生は、日本でまだ普及していない長期滞在を前提とした宿泊が、今後日本で普及する場合に、どのようなサービス提案が推進されるかが重要であると未来を予見します。長期滞在の場合、短期と異なり、自己実現のスタイルはさまざまとなり、さらに顧客によって異なります。つまり、形骸的なホスピタリティやおもてなしの枠を超えた価値共創が、本格的に議論されるべき時期をまもなく迎える日本において、現在の想像を超えた相互作用の可能性を、研究と実務の双方が考えなければなりません。大野先生は、すでに顧客側にその意識が芽生えており、調査研究からその実態が浮き彫りになっているにも関わらず、研究や実務が十分な展望を持たないがために、サービスの考え方が変わらないことこそ問題であるとの主張がありました。
 
 今回もディスカッションは、深堀の議論で大いに盛り上がりました。本質に迫る質問は報告者の研究スタンスを問い、そして、研究の先にある追求すべき課題を言葉にさせる力があります。質疑の中で報告者が示そうとする世界観は、研究者としての個性そのものであり、アイデンティティに裏付けられるものかもしれません。そうした姿を垣間見る瞬間はかけがえがなく、大きな共感の輪が生まれます。参加者の鋭くも報告者を尊重する雰囲気が大阪会場では定着し、有意義な交流ができました。
 
(文責:今村 一真)

 
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