第129回マーケティングサロンレポート「実務家に聴くマーケターのキャリア形成〈学会の歩き方〉~第一線で活躍する実務家はどのようにマーケティングを学び、力とキャリアを磨くか」 |
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第129回マーケティングサロン:春のリサプロ祭り・オンライン
「実務家に聴くマーケターのキャリア形成〈学会の歩き方〉~第一線で活躍する実務家はどのようにマーケティングを学び、力とキャリアを磨くか」
日程:2021年3月13日(土)16:30-18:00
場所:Zoom使用によるオンライン開催
パネラー:香川 勇介(中央大学大学院戦略経営研究科ビジネス科学専攻(博士後期課程)、Pharmaceutical company / Hematology (Multiple Myeloma) Franchise Lead, Marketing Strategy)
佐藤 圭一(凸版印刷株式会社 広報部部長、ブランディング・ディレクター)
兼司会:京ヶ島 弥生(有限会社フロスヴィータ 代表取締役 / 日本マーケティング学会 常任理事・サロン委員長)
コメンテーター:小林 哲(大阪市立大学 教授 / 日本マーケティング学会 次期会長)
サロン委員:清原 康毅・京ヶ島 弥生・小谷 恵子
【サロンレポート】
リサプロ祭りの1コマとして開催された今回のサロンは、通常時のサロンと趣を変え、企業内で活躍するマーケターのおふたりに登壇していただき、ご自身のキャリアとマーケティングとの関わり、ビジネススクールでの学びなどについてお話をいただきました。その後、小林先生に加わっていただきディスカッションで学会やこれからのマーケティングについて、意見交換を行いました。
実務家のキャリア
現在、凸版印刷株式会社の宣伝部長である佐藤圭一さんは、経営を学びブランド研究をしたいと、8年務めた広告代理店を退職して慶應ビジネススクールに進み、嶋口充輝ゼミで「企業ブランドイメージの形成要因」などを研究しました。嶋口ゼミOBを母体に早稲田大学の内田和成先生が代表幹事を務める「嶋口内田研究会」は、現在マーケティング学会のマーケティングサロンと統合されましたが、佐藤さんは2年時にその幹事も経験。卒業後も研究会に定期的に参加することで、同ゼミ出身の先輩や社外の講師とのネットワークも広げられました。ビジネススクール修了後は、凸版印刷に就職。同社のブランドコンサルティング部門で10年近く様々な企業のブランディング支援に携わり、その集大成として2016年には著書『選ばれ続ける必然 誰でもできるブランディングのはじめ方』を出版されています。マーケティングサロンで、その本をテーマに話をしていただいた回もあります。(第58回マーケティングサロン)
2017年からは広報部に異動となり、社外(クライアント)に向けたブランディング支援から、社内(自社)のブランディングを担うこととなりました。この4月からは凸版印刷の宣伝部長として、リ・ブランディング活動の最前線で活躍されています。
香川勇介さんは、製薬会社に勤務され、入社時MR、その後マーケティング部に異動して、ニュープロダクトプランニングやプロダクトマネジャー、ブランドマネジャーを経験しました。当時部署にマーケティングを専門にしている人はいなかったため、学びの必要を感じ、2012年に中央ビジネススクールに入学、予防行動をテーマにした研究で田中洋先生の指導を受けました。この研究は、「予防的イノベーションにおけるコンセプトブランディング戦略」として2014年の学会カンファレンスでベストポスター賞を受賞。2017年にはオーラルセッションで「保健行動理論における介入概念の検討」を発表されました。その後部下の指導をする中で「教える」ことにも興味が湧き、ドクターコースに進んでいます。現在また新分野の開発に当たっていますが、製薬会社のマーケティング戦略も変化の時で、治療から予防にパラダイムシフトの時です。市場創造の可能性はたくさんありますが、テクノロジーだけでは市場をクリエイトできない。市場を効果的に広げるためにマーケティングは不可欠だと語ります。
学会は壮大な実験場
ここから、小林哲先生にも加わっていただき、ディスカッションとなりました。
この日本マーケティング学会は、世界にも例がない、学術と実務がバラバラではなく、協働している組織なので、ここは「マーケティングを学ぶ」というより、「マーケティングをする」学会とも言えます。その意味では、リサーチプロジェクトもマーケティングサロンも実験、と小林先生。それは言い換えれば、実験する場だから、“遊びの場”でもいい、楽しく次の知を見出すためにあるのかもしれません。パネラーのおふたりも、カンファレンス、サロン、リサプロなど、様々に学会のリソースを使い、インプット、アウトプットをされています。
アカデミックと実務、マーケッターとそれ以外の人とのギャップは何か?
実務に熟知して、MBAで学んでも、確かにギャップを感じます。たとえばマーケティングの中心となるフレームワークは基本は同じでも、企業ごとでの適用は微妙に違っている。それは必要なフレームワークを実務上でやりやすいように分解して、その会社の型に変えてアレンジしているからです。実務の視点からは、理論と何か違う点があると感じることもしばしばですが、そうしたことを言語で説明する責任は研究者側にある。このせめぎ合いが研究を先に進める。こうした発見が学会の議論を活発にします。答えがでないかもしれませんが、学会の発足の目的が“探求と創発”なのですから、それもよいかもしれません。
また、マーケターと社内の他部署の人とのギャップについて。ここについては参加者の中にいらした、音部大輔さん(学会理事・株式会社 クー・マーケティング ・カンパニー代表取締役)にも加わっていただきました。音部さんからは、会社の中のチームの能力を高めるにはでは言語統一が重要との指摘も。Aパターンの成功とBパターンの失敗をつなげられるかが、その組織が強いかどうかに関わる。だからそれが業界単位や会社の枠を超えてできたら、これが正に「知の共有」であると言えます。
MBAで学んだ人が、多くは転職をして、会社を飛び出してしまうが、そのことによって知の移転が、企業、マーケットや国を越えて、あるいは領域を越えて行われると考えれば、非常におもしろいことだと思います。学会はいわば、「2000人のスペシャリストの知の言語合せをしていく」場。この学会は、学会員自体が資源です。アカデミア、実務の境なく、ますます活発な議論、活動が期待されます。
【サロンを終えて】
今回は、企業の中枢でまさにマーケティング実務の責任者であるおふたりから、ご自分と現在の企業内マーケティングの実情をベースにディスカッションが行われました。共通するものと、異質なもの。それを「言語」と「考え方」という基本的な部分をブリッジとして、さらにマーケティングによって「知」が広がっていく可能性を感じた時間でした。
また、参加の方からも、学会でできることの可能性を知った、他の実務家の話もぜひ聞いてみたい、というご意見をいただきました。今後、このような実務マーケターにフォーカスした企画もまた折に触れて行っていこうと思います。
(文責:京ヶ島 弥生)