ニュースリリース

第172回マーケティングサロンレポート「書籍『アートプレイスとパブリック・リレーションズ ― 芸術支援から何を得るのか』(2022年・有斐閣)を編集者・著者が語る」

#いまマーケティングができること

第172回マーケティングサロン:春のリサプロ祭り・オンライン
テーマ:書籍『アートプレイスとパブリック・リレーションズ ― 芸術支援から何を得るのか』(2022年・有斐閣)を編集者・著者が語る
 
日 程:2023年3月18日(土)16:30-18:00
場 所:Zoomによるオンライン開催
ゲスト:株式会社有斐閣 『アートプレイスとパブリック・リレーションズ』編集担当 四竈 佑介 氏
    南山大学 経営学部 教授 川北 眞紀子 氏
    東洋大学 社会学部 教授 薗部 靖史 氏
サロン委員:京ヶ島弥生
 
【ゲストプロフィール】
四竈 佑介 氏四竈 佑介 氏
株式会社有斐閣 『アートプレイスとパブリック・リレーションズ』編集担当
東京学芸大学教育学部卒業、東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了。入社以来、社会学分野を中心に学術書の編集を担当。本書に近しい領域の担当書に『アート・イン・ビジネス』(電通美術回路編)、『広報・PR論〔改訂版〕』(川北氏・薗部氏らの共著)。ほかに『ファッションで社会学する』、『社会学入門』、『県都物語』、『BLの教科書』、『ポリティカル・コレクトネスからどこへ』、『知りたくなる韓国』、『ネット社会と民主主義』など。
 
川北 眞紀子 氏川北 眞紀子 氏
南山大学 経営学部 教授
筑波大学芸術専門学群卒業、慶應義塾大学大学院経営管理研究科博士課程修了、博士(経営学)。学部時代は日本画を専攻。リクルートに入社し広告制作を担当。その後広告事務所を主宰し、グラフィックデザインやマーケティング企画に携わる。趣味はチェロ演奏。主著に『広報・PR論パブリック・リレーションズの理論と実際』(有斐閣 共著。2022年改訂版〕、『アクティブ・ラーニングのためのマーケティング・ショートケース―ビジネススクール流思考力トレーニング』(2020年 中央経済社)ほか。
 
薗部 靖史 氏薗部 靖史 氏
東洋大学 社会学部 教授
早稲田大学商学部卒業。一橋大学大学院商学研究科博士後期課程修了、博士(商学)。一橋大学大学院商学研究科ジュニアフェロー、高千穂大学商学部を経て、現所属。専門はマーケティング・コミュニケーション。2022年には『アートプレイスとパブリック・リレーションズ ― 芸術支援から何を得るのか』(有斐閣 共著)以外に、『1からのデータ分析』(碩学舎 共著)と『広報・PR論パブリック・リレーションズの理論と実際〔改訂版〕』(有斐閣 共著)を出版。
 
アートプレイスとパブリック・リレーションズ ― 芸術支援から何を得るのか川北 眞紀子・薗部 靖史 著
アートプレイスとパブリック・リレーションズ ― 芸術支援から何を得るのか』(2022)有斐閣

 

【サロン概要】
講演1. 四竈佑介氏「編集者目線から見た『アートプレイスとパブリック・リレーションズ』のおもしろさ」
 四竈氏は、この本の編集担当として、日本の芸術、芸術支援がどのような文脈にあり、どのようなアクターが関わって「場」が成立してきたかよくわかる書籍である、と紹介されました。ご自身が「自分で書くのではなく」、「本を作り送り出す立場である」編集者という仕事を選んだ理由として、著者は高い専門性と知識を要求されることを挙げられ、自分には到底できない、というジョークを交えながらも、この本がもちろん学術研究書として優れたものでありながら「読み物としておもしろい」ともおっしゃっています。一方で本書の視点が、例えば従来の研究分野で言えばメセナ研究か、文化経済学か、アート組織論か、なども考えられるが、それらの範疇におさまらず置く棚が難しい書籍であるということを、ピエール・バイヤールの言を引いて問題提起をされました。読者もこの本を読んで、自分の既存の知識の棚の中に分類できないが、新たな棚がこの本からできてその周辺に本が並んでいくことで、新しい知恵を獲得したことを知る、という話は、後段の本書の内容紹介を聞き、ディスカッションをしたい参加者にとっても、示唆的な発言となりました。この本の帯には、序章から抜き出された「企業も人もお手本のない時代にじっくり味方を増やしていく」という言葉が書かれています。それは芸術支援やパブリック・リレーションズの振る舞いといったことだけに留まらず、本書の問題提起しているテーマ自体も新しい知恵の分野を拓けるのではないか、ということを編集者である四竈さんの言葉で直接聞けたことが、後段の講演、ディスカッションをさらに楽しみにさせてくれた、興味深いご講演でした。
 

 
講演2. 川北眞紀子氏・薗部靖史氏「支援企業と芸術組織にとってのアートプレイスの意味」
 続いて著者である川北眞紀子氏と薗部靖史氏から、本書の内容を説明いただきました。本研究は、メセナが変化している中、企業がアートプレイスを持ち運営することは、企業のパブリック・リレーションズの観点から、どのような効果が見られるのかを、相互作用性と運営主体によって4類型に分類し論じられています。「アートプレイス」とは、単に芸術劇場、美術館などの上物のことではなく、「アートがあり、人々がそれに触れる場」である、とここでは定義され、本書で紹介される事例は、ベネッセアートサイト直島や可児市文化創造センターala(アーラ)など8ケース、丁寧に取材され、検証されています。そこでは、芸術支援を起点とした、作家の育成、企業文化の醸成、地域との共生、住民や従業員とのリテンション、地域との共生やアートに触れるために訪れる生活者との接点などなど、マーケティング領域で個別に語られるイシューにも、深くコミットしていることがわかります。
 つまりこのアートプレイスの運営、芸術支援活動は、運営企業が単にアートの力を自社のコミュニケーションに役立てるという旧来型のプロモーションやメセナ活動に留まらず、ステイクホルダーである観客、利用者、さらに社会との関係性を深める「新しいメディアである」のです。
 そして、アートプレイスはメディア、関係性構築の手段となりうること、そして、本業との距離が遠い存在のものほど、その企業に対して新たな視座をもたらすことと結論付けられました。
 こうした研究は、学術的な意義があることはもちろんですが、それにとどまらず、企業がアートプレイス作りを考えたり、推進する途上でも、自社の課題整理や企画に対して多くの示唆を得ることができ、実務家もぜひ参考にすべきであることを再認識しました。
 

 

 
ディスカッション・Q&A
 メセナから始まり一時的にアートを通じての企業活動が縮小したように思えていたが、今、企業にとってのステイクホルダーや社会との文化的つながりを、従業員という内部組織も巻き込んで作っていくことができる、と本研究が示したことはこれからの芸術支援にとっての重要ポイントであるという感想をいただきました。
 また、アートは非合理性、ビジネスはマネジリアルで合理を追求すると分類されがちだが、真逆であるが故に、その融合には新たな期待が湧く、との意見もありました。
 そして、これまでアートプレイスへの投資に、ステークホルダーへの説明が難しいと考えられていたが、今では、むしろ経営者、株主側も、芸術支援に対する理解が進んでおり、十分説明責任が果たせる、という意見は、やはりこの研究の意義を感じさせるものとなりました。
 このディスカッションは、残念ながら時間が足りずに終えることとなりましたが、研究自体の継続や共同研究という学術研究の進展、そして実務への適用の可能性も十分感じられる盛り上がった時間となりました。
 
【サロンを終えて】
 今回のサロンは、昨年11月に刊行された本書を、主に実務家が読み、活用していただくこと、そしてそこで生まれる疑問を著者と直接ディスカッションすることで解消していただくことを意図して企画しました。この本の巻末に収録されている「補論・本書が依拠する概念と理論」は、非常に示唆に富み、研究上はこの部分だけでも読むべき情報が満載です。通常の学術書では冒頭に置かれるべきところをあえて巻末に置いたことについての質問もありましたが、この本は学術研究をもとにして編まれてはいますが、著者が想定した読者は、芸術支援を行っている、あるいは、これから行いたいと考えている企業人や経営者、広報やSDGsの担当者などをイメージしているので、あえてそうしたそうです。確かに、冒頭の序章や第1部の熱のこもった筆致は、実務家は途中で投げ出しかねない学術書の難解さを忘れさせるほど、本書に引き込む役割を果たしていると思います。
 「お手本のない時代」に、お手本のないアートプレイスを目指していく様々な企業や地域の活動が、また同じくお手本のない学術書の在り方によって知る人を増やしその知恵・教養が広まっていく、という、新しい流れを感じられた興味深いサロンとなりました。
 講演者の四竈様、川北先生、薗部先生、そしてご参加くださった皆様に、感謝申し上げます。
 
(文責:京ヶ島 弥生)

 
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