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第190回マーケティングサロンレポート「ゴルフコースマネジメントと大学経営 ― 大手前大学躍進の秘密に迫る ―」

第190回マーケティングサロン:春の三都市リサプロ祭り:大阪会場
テーマ:ゴルフコースマネジメントと大学経営 ― 大手前大学躍進の秘密に迫る ―
 
日 程:2024年3月9日(土)16:00-17:00
場 所:武庫川女子大学 中央キャンパスおよびZoom使用によるオンライン開催
ゲスト:大手前大学 現代社会学部 教授 芦原 直哉 氏
サロン委員:高橋 千恵子、三木 政英、信國 恵美、相島 淑美
 
【ゲストプロフィール】
芦原 直哉 氏芦原 直哉(あしはら なおや)氏
1975年慶應義塾大学経済学部卒業。
株式会社ダイエー入社後、ホテル、ドーム、ゴルフ場等の経営に携わる。2003年独立し、経営コンサルティング会社株式会社CS経営研究所を設立し代表となる。
多数の企業の経営指導、企業研修、講演を行うかたわら、名古屋商科大学、大手前大学、東洋学園大学・大学院(MBAコース)で教鞭をとる。
2008年名古屋商科大学大学院修了(MBA、経営学修士)。2009年より大手前大学教授。経済産業省登録中小企業診断士。
大手前大学ゴルフ部監督を経て現在、顧問を務める。「ゴルフで重要なのはメンタルとマネジメントである」が持論。指導の下、多くのプロゴルファーが輩出している。
 
【サロンレポート】
 18歳人口の減少と進学率の頭打ちにより、大学を取りまく環境は厳しくなる一方です。受験生や入学者の確保という問題に汲々とする大学は少なくないでしょう。
 経営難にあえぐ企業を次々に再建させた実績を持つ芦原氏は「大学経営もビジネスである」とのスタンスに立ち、大手前大学副学長として抜本的改革を断行、立て直しに成功しました。キーワードは「ポジショニング戦略」と「(大学にとっての)品質」です。
 今回のサロンでは、私立大学情報教育協会において発表され最優秀賞に輝いた4年間の大学改革について、時にユーモアをまじえ、リアルなお話をお聞かせくださいました。
 
はじめに
講演の様子 会社再建の経験をもつ人間に教員として入ってほしい、というオファーをいただき、2009年大手前大学に着任しました。当時の大手前大学は偏差値35。いわゆる「一番下」のラインにありました。2009年の入学者数は800人でしたが、その数も毎年100人ずつ減っている状態で、このまま続いたらどうなるかは日を見るより明らかでした。しかし、問題は「入学者数の減少をどう食い止めるか」という単純な話ではありません。
 大学も経営です。企業が新しいチャレンジを行っているように、大学も長期的な視点で、社会における大学の存在意義を捉え直し、本質的な意味での経営革新に取り組むことが求められているのです。2012年、私が同大学の副学長になったのには、まさにそうした必要性が背景にありました。
 

 
大学ビジネスの顧客と品質
 ビジネスとしてみた場合、大学は「顧客である学生に〈能力向上〉という価値を提供するサービスである」と定義できます。大学における品質とは何か。卒業生の質です。大学は卒業生の質保証が求められることを忘れてはなりません。
 大学マーケットの縮小と供給の過剰から、現在、5割以上の大学が定員割れとなっています。しかし、それは、大学はレッドオーシャンである18歳国内マーケット(以下の図の太字部分)を取り合っているから。既存の18歳人口だけではなく、膨大な社会人および海外マーケットが存在していることに目を向けるべきではないでしょうか。
 

  18歳マーケット 生涯教育マーケット
国内マーケット 18歳国内マーケット 社会人国内マーケット
海外マーケット 18歳留学生マーケット 社会人留学生マーケット

 
ポジショニング戦略
 それぞれのマーケットの具体的計画にあたっては、大学の入学難易度別(偏差値帯別)に5つのポジションに分け、それぞれに適切な戦略を策定していくべきと考えます。たとえば、A=高偏差値、B=準高偏差値、C=中偏差値・・・という具合です。グループによってとるべき戦略は異なります。
 
品質戦略
 大学における品質戦略は、「入学者選抜」「教育」「卒業」の3段階に分けられます。
 製造業の「仕入れ」にあたるのが入学者の選抜です。ここで柱となるのは「定員割れ覚悟で入学者を厳選する」「優秀な学生を特待生で入学させる」「海外の優秀な学生を獲得する」「品質保証の広報戦略を展開する」です。入学生を厳選すると定員に満たない場合もありますが、4年間はガマンが必要です。
 製造業における「製品の価値創造=生産」は、大学における「教育」です。PBL(課題解決型学習)の導入をはじめとする教育改革により、社会で活躍できる基本的能力を養成することが肝要です。ここでも4本の柱があります。「教育改革で高い能力開発」「教育のみえる化」「グローバル化」「単位認定の厳格化」です。
 最後に、製造業においては出荷時に定められた品質をクリアしているか検品をおこないますが、このプロセスは大学における「卒業・就職」です。「卒業要件を厳格化すること」「就職サポート体制の構築により就職率100%を図ること」などがあります。
 
大手前大学における教育改革の成果
 大手前大学は品質保証を前面に打ち出し、「入口から出口まで」高いレベルをめざす教育改革を行いました。最後に、その成果をお話します。
 入学者選抜では、「誰でも入れる」のでなく、意識能力のある学生のみを入れる方針を掲げた結果、当初こそ入学者が減少しましたが、偏差値はUP。志願者が増加し、定員確保が可能となりました。英語での授業を充実させ、優秀な留学生を迎えることもできました。
 教育では、古い知識偏重型からPBL型授業の導入などによる能力開発に重点を置いたことにより、学生の勉学意欲が向上しました。このことは1週間の授業外学修時間が8.8時間に倍増したこと、図書館利用が倍増したことにも表われています。
 卒業時においても、「誰でも卒業できる」をやめました。以前は女子大学であったこともあり、「F」そのものをつけない風潮があったようですが、それでは品質保証ができません。卒業を厳しくすると同時に就職サポート体制の充実を図りました。就職希望者の就職率は改革前の62%から98%前後に上がっています。
 
質疑
 「教員の間では一定の意識共有ができたとしても、職員の方々は立場も違い、参加を促すのは現実的に難しいのでは。職員の方々とどのように向き合っていったか教えてください」
 
 大手前大学では、学生に身につけさせる問題解決能力(コンピテンシー)を整理し、教育実践の柱としていますが、5つの基礎的コンピテンシーについて、どうすればより効果的な教育ができるのか、教員と職員が毎月一回ディスカッションをおこなう場を設けています。そこで、職員の皆さんにも積極的に意見を出してもらい、視点を共有しています。
 
【サロンを終えて】
 3月は入学者選抜と卒業が続き、まさに大学にとって「どういう人を入れたいのか/卒業させるのか」という問いに直面する時期でもあり、まさにタイムリーなトピックであったかと思います。
 大学が社会に価値を提供し、必要とされる存在であり続けるにはどうすべきなのか、教員として学生の「品質」をどう向上させていくか。あらためて考えさせられる1時間となりました。
 貴重な実践例をあまさずお話くださいました芦原先生、有難うございました。リアルで、オンラインで、ご参加くださいました皆さまのおかげで、サロンらしい和やかな雰囲気となりました。感謝申し上げます。
 
 なお、大手前大学の教育改革について詳細は『Otemae Competency Dictionary 2016問題解決能力開発メソッド・C―PLATS ~大手前能力開発辞典~』(芦原直哉編著 三恵社)をご参照ください。(Amazonで購入可能です)
 
集合写真
 
(文責:相島 淑美)

 
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