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第227回マーケティングサロンレポート「自治体のマーケティング戦略」 |
第227回マーケティングサロン:複都市カンファレンス:大阪会場
テーマ:自治体のマーケティング戦略
日 程:2026年2月28日(土)17:00‐18:10
場 所:武庫川女子大学 中央キャンパスおよびZoom使用によるオンライン開催
ゲスト:森田 浩司(奈良県三宅町長)
司 会:本下 真次(岡山理科大学 准教授)
聞き手:片桐 新之介(株式会社ふるらぶ 代表取締役)
サロン委員:本下 真次・相島 淑美・片桐 新之介・田中 里奈
【ゲストプロフィール】
森田 浩司 氏(奈良県三宅町長)
1984年奈良県磯城郡三宅町生まれ。2015年に「全国で2番目に小さい町」の奈良県三宅町の議会議員に当選。2016年から町長として「日本一夢が叶う住民参加型の町」へ改革を進める。ビジョンを象徴する交流まちづくりセンター「MiiMo(みぃも)」が2021年12月にグランドオープン。「対話・挑戦・失敗」のバリューサイクルを大切に、ウェルビーイングの高い「自分らしくハッピーにスモール(住もうる)タウン」の実現を目指す。
【サロンレポート】
奈良県三宅町は面積4.06㎢と「全国で2番目に小さい町」。「奈良公園より小さい」そうです。議員の高齢化が進む町議会に若い力を吹き込むべく町政に乗り出した森田氏は、全国若手町村長会(49歳までに当選した町村長のコミュニティ)第3代会長でもあります。三宅町を「自分らしくハッピーにスモール(住もうる)タウン」にしたい、と住民の皆さんを巻き込み、まちづくりを協働で進めてこられました。
今回のサロンは対話形式でおこなわれ、自治体ブランディングの方策や市民へのインナーマーケティングの工夫など、全国レベルの状況と現場を知り尽くした森田氏ならではの熱い本音トークが展開されました。(聞き手:片桐新之介)
――町長になられた経緯を教えてください。
まず町会議員になった理由をお話します。2016年、三宅町がある日突然「恋人の聖地」となり、いろいろなモニュメントができました。それがダサい!年かさの町会議員が企画を立てるから、若者の気持がわからないのはある意味仕方ないかもしれません。それなら、彼ら町会議員と同じ立場に立って話し合いたい、と思い、町会議員になりました。町長になろうと思ったのも同じ理由です。住んでいるのが恥ずかしいような町はいやだ、そうじゃない町をつくりたい、と思ったからです。
――町長に就任されて、三宅町にどのようなマーケティング戦略が必要だと感じましたか。
語弊があるかもしれませんが、行政だけでできることはもうないんじゃないか、と思いました。行政が住民側に何かを提供する、提供し続ける、というよりも、住民さんが自分事としてかかわることが実は重要だ、と気づいたのです。まちは誰のため?住民さんあってのまちです。なのに、残念ながら、そのことが自覚できていない。
まちのマーケティングの場合、『巻き込む』ことが大切です。顧客である住民さんたちはまだその意識が薄いですから、もっと、こちらから巻き込んでいって、熱量を上げていきたい。一緒にやってくれる人が大切なんです。行政として、ハコを作って終わり、というやり方はしたくないです。「場」をつくる、というのでしょうか。皆がまちをもっと好きになれるような仕掛けを考えたい。
三宅町は小さいまちですから、住民さんと行政の距離感が近いです。それは弱みでありますが、強みでもあります。普段から「町長!」とよくお声がけいただきますし。そうした距離感が行政への信頼につながっていると感じます。
――職員の意識改革に力を入れたとうかがいました。
自分からいろいろなことに積極的に取り組む空気をつくるにはどうしたらいいか考えました。そのひとつが、「対話、挑戦、失敗」というバリューサイクルの設定です。挑戦した結果うまくいかなければ怒られるとしたら、誰も挑戦しようと思わないでしょう。そうしたら皆縮こまってしまう。そこで、バリューサイクルに「失敗」を入れました。失敗はダメじゃない、そこから次につなげる考え方が大事なんです。「自分たちも失敗していいんだ」と安心して挑戦できるようになってほしいと思っています。
そのためにも、ふだんから彼らのことをよく見ること、話を聴くことを重視しています。
町長の席にふんぞり返るのでなく、皆が仕事をしている様子を見たり、皆の話を聴いて、自分のキャリアデザインについてどう考えているのか、何がしたいのか、など聞いたり。職員の意見をしっかり聴くことで、まちの取り組みも前進できると感じています。
すべてに満足することは難しいかもしれませんが、信頼がまず大事です。信頼構築には、よく話すこと。自分たちの仕事は住民さんのためである、と意識する文化をともにつくっていきたいのです。
――ホームページに「プレスリリース」や公式noteのセクションがあるのは特徴的ですね。
2年前からホームページに「プレスリリース」をアップし始めました。もちろん対メディアですが、住民さんに知っていただく効果も狙っています。同時に、職員に情報を届けることも重要だと考えています。
公式noteは4,5年前から始めています。公務員の仕事はなかなか外部からは見えません。それはとてももったいないと思うんです、情報誌などではスペースが限られますし。
noteでは、現場の職員たちの姿がリアルに見えるような記事を掲載しています。いずれも日々に実際あったことばかり。こうした記事を通じて住民の皆さんの共感を得ることを重視しています。
空気感が伝わることから、採用にも効果があるようです。行政の採用はそもそも難しく、離職率も高いですから、どんな職場なのか、どんな仕事をするのか、あらかじめ知ってもらうことが必要だと考えています。
――行政におけるマーケティングについてお考えを聞かせてください。
行政においては、「何をやめるか」を決めることが重要だと思います。万遍なく同レベルでおこなっていくのではなく、しっかりターゲットを絞っていくことです。大事なのは自分たちにあった選択と挑戦です。Well-beingは人によって違いますから、みんな総括してハッピーというわけにはいきません。といっても、それは「多数」の声を聴くという意味ではなく、たとえひとりでも困っているのであれば、迷わずやるという考え方です。いま現在というより、将来のことを考え、ひとりたりとも取りこぼさない。ああ、あの人が困っているな・・と住民さんの顔が思い浮かぶのは、小さいまちだからこそではないでしょうか。
三宅町には「経営戦略課」があります。自治体は行政を進めるというよりも経営するという感覚になりつつある、その過渡期にあると感じています。まちの子どもたちの未来のため、先のリターンのための投資をするという概念を入れていきたいと思っています。
町長はいずれ変わります。町長がいなくても、何かあっても、自走するしくみをつくることが大事だと思っています。
自治体のマーケティングは、企業の場合と異なり、数字で判断できません。たとえばKPIや認知度など、自治体のマーケティングの成果を数字だけで測ることは難しい。対外的アピールとしては数字も効果がありますが、内向きには異なる指標が重要だと思います。
たとえば、「どんな学校にしたいか」というテーマで開催された住民ワークショップでのことですが、参加者さんのディスカッションの中で「ワクワクする」「自分事」「チャレンジ」「幸せ」といったキーワードが次々に出てきました。「ワクワクしてますか」のような言葉をかけたわけでなく、ごく自然に。以前はなかったことです。皆さんの様子を見て、「ワクワク」「自分事」「幸せ」といった概念が言語化され、共有されてきたことを実感しました。これこそが〈まちのKPI〉ではないでしょうか。指標やランキングのように単なる数字ではない、実際におこなっていることから抽出するもの、自然の内から湧き出るもの、それを大事にしたいと思っています。そうした姿勢から、住民さんも巻き込み、〈チーム三宅町〉として協働し、自分たちらしいまちづくりが実現できると考えています。
【サロンを終えて】
「町長の仕事は幸せをどうつくるか。その意味で、自分がやっていることはまさにマーケティングなのだと考えています」と森田氏。職員の意識を変え、住民を巻き込み、ひとりひとりが「ワクワクする」まちを実現すべく次々にアイデアを繰り出すそのお話に、参加者はすっかり魅了されました。質疑応答でも多くの手が挙がり、時間ぎりぎりまで濃いディスカッションが続きました。
ご多忙のところご登壇いただいた森田町長に心より感謝いたします。

(文責:相島 淑美)

