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研究報告会レポート

第1回インダストリー・イノベーション時代のブランディング研究報告会レポート「インダストリー・イノベーション」がもたらす、ブランディングの新たな可能性」

第1回 インダストリー・イノベーション時代のブランディング研究報告会 > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「インダストリー・イノベーション」がもたらす、ブランディングの新たな可能性

日 程:2016年7月11日 19:00-21:00
場 所:青山学院大学ビジネススクール

 
【報告会レポート】
 今回の第1回報告会は、本プロジェクトの問題意識を提起・共有し、今後の研究の論点や進め方を模索することを目的に行われました。
 
第1部では基調報告として、本プロジェクトの問題意識の確認が行われました。
◆徳永は、ブランディング研究の起点として本プロジェクトが着目した「インダストリー・イノベーション」を中心に論じました。まず、バリューチェーンの変容や機能シフト、新たなエコシステムを通した価値創出、(オープンイノベーションなど)協創を織り込んだ事業変革、の3つに整理できる企業のイノベーションの取組みの数々が紹介され、個社によるそれらの動きが産業全体の枠組み・構造の進化・創造の中で取り組まれている状況を指摘し、「インダストリー・イノベーション」とこれを定義しました。また、自社の機能・価値は顧客だけでなく高次のシステムや系の成員にも消費・共有されている点にも言及しました。そしてそのような状況下において、価値起点のマーケティングの設計や、事業に関わる幅広いステイクホルダーへの配慮の重要性から、ブランディングの考え方を取り込み、従来の議論を援用する(たとえばBtoBブランディングやブランドコミュニケーションに関して)可能性を指摘しました。
◆森先生は、状況認識を理論的な枠組みに沿ってさらに深め、問題意識、ひいてはブランディング研究へ展開する際の輪郭を共有することを目的に論じました。まず議論の起点として、サイバーフィジカルシステムを通して社会を根底からシフトさせる第4次産業革命の要諦を整理し、次にモノの本質が変わるという「インダストリー・イノベーション」の捉え方と、広義のサービスイノベーションと捉えうる価値共創への個社のレベルでの着目の必要性をトレースしました。そして最後の論点として、ビジネスとコミュニケーションの同軸融合化の下、新しい事業フレームにおける事業価値の再構築を図るためのブランディングの可能性を、以下の2つの視点から検討しました。1つはブランドの役割の視点から、事業価値を創造する新たな仕組みのプラットフォームとして、もう1つはブランドの形成の視点から、ステイクホルダーとの価値共創のコミュニティとして、それぞれブランドを活用・収斂させる課題設定を論じました。
 

企業が取組むイノベーションの姿かたち

 
第2部では、ブランドやサービスなどの領域を専門にマーケティングを研究する先生方に、提唱された問題意識や本プロジェクトの課題、研究テーマ設定について、各々の立場・観点からコメントをいただきました。
◇黒岩先生からは、研究対象の主体を、ポーター博士が製造業で論じたように個別企業とするか、それともエコシステムやプラットフォームというより大きな単位とするかの判断を要するとの指摘がありました。また、研究アプローチに関して、ブランドに限らず、どの分野の既存研究を手掛かりにするかの吟味が必要とも述べました。ご専門分野の観点で、例えばサービスドミナントロジックの議論から、使用価値やユーザーイノベーションなどの理論の援用も考えられるが、なかなかフィットしにくそうとの指摘もありました。そういったことから、特定領域の研究でなく事例を切り口とする方法論も提案され、青山学院大学におけるITの視点を入れた農業マーケティングへの取組みへの言及がありました
◇梅本先生からは、本テーマの議論に際して、ブランドは連想の塊りであるという本質に留意すべきだとの指摘がありました。その着眼点に沿って、ブランドは競争環境を前提にした動的な連想構造を有しており、その金銭価値で表現できる価値構造を製品開発やコミュニケーションによってマネジメントすることができるという考え方を、本研究の中に取り込むことの有効性を指摘しました。具体的に、たとえば使用価値や価値共創に着目した時に、このブランドの捉え方をどう取り込み、どう修正する必要があるのか、考察を加えるアプローチを提案されました。
◇首藤先生からは、BtoCとBtoBを分けることが困難な、あるいは自社の事業モデルを自らコントロールすることが難しい時代と前提を置けば、そこにブランディングの新たな役割があるとの本プロジェクトの解釈を述べました。とりわけ、複雑な他社との関係を熟慮することが必須のエコシステムでのビジネスは、デジタルトランスフォーメーションが叫ばれる今日、あらゆる産業に拡がっており、それにマーケティングが対応し、ブランドを機能させることが幅広い企業の課題になっていると論じました。黒岩先生の指摘と関連し、マクロの動きを理解しながら個々の企業の戦略の解を出すことが本プロジェクトの主旨であるならば、イアンシティ博士のキーストン戦略が研究の切り口となりうるとの示唆もありました。
◇最後に、田中先生は、まず第4次産業革命についての理解を述べる文脈で、ブランディングの主たる対象が、第1次から大企業、消費財、サービスと変遷し、現今はプラットフォーム、あるいはテクノロジーやネットワークのブランドに移行しているとの指摘がありました。そのような第4次産業革命の環境下のブランドを第2次の頃と比較すると、意味からビジョンへ、イメージから経験へ、そして絆から創発へと論点がシフトしていると指摘したうえで、本プロジェクトにおいてもブランドの理念、ミッション(構想)がどう変化しているかを研究対象にすることが、合理的で有益なものとなろうとの指摘がありました。
 

4つの論点をトレースする

 
第3部では、参加者からのご質問やご意見をいただきました。
-効率化施策と認識されて見落とされがちな共創による価値創出の要素や、製造業のサービス化の意義について、再認識をしたとの声をいただき、「インダストリー・イノベーション」に関わる理解そのものを促進することができました。
-第2部の先生方のコメントについては、事例研究の有効性やブランド化の対象の吟味の重要性など、賛同の声をいくつもいただきました。
-黒岩先生が配車アプリ「リフト」の経験を述べたのに関連して、この新たな産業そのものと個別企業というブランド化の主体の2層構造、ビジネスモデルに依存した価値を基軸にしたブランドという特性、運転手や顧客がそのブランドを体現し同時に享受する特性などが次々と指摘され、会の趣旨に即したダイナミックな議論が展開されました。
 

集合写真

 
【報告会を終えて】
 新テーマのリサーチプロジェクトの第1回報告会を無事終えることができました。コメントをいただいた先生方、ご参加いただいた皆さんには、改めて感謝の念をお伝えしたく存じます。
 研究対象や領域の設定、研究アプローチに関していただいた示唆を役立てるべく、まず検討を行う所存です。と同時に、本プロジェクトが意図する、打ち手の領域をあらかじめブランドに定めた議論以前に、なお「インダストリー・イノベーション」の状況に起因する影響を、様々な方向から議論する余地、必要性を感じました。今後の研究会の設計に役立てたいと考えます。
 今後も研究者と実務家の皆さんの問題意識を汲みながら、研究を進めるよう考えています。今回のような公の場にとどまらず、日常的に情報交換や問題意識の共有を行いたく、お気軽に本プロジェクトのメンバーに接触を図っていただければ幸いです。
 
(文責:徳永朗)

 
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