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研究報告会レポート

第1回オムニチャネル研究報告会レポート「日本型オムニチャネルの現状と課題、そして新たな可能性」

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テーマ:「日本型オムニチャネルの現状と課題、そして新たな可能性」
ゲスト:(株)キタムラ執行役員 経営企画室 オムニチャネル(人間力EC)推進担当 逸見 光次郎 氏
日 程:2016年7月16日(土)14:00-17:00
場 所:青山学院大学 青山キャンパス17号館 3階311教室

 

【報告会レポート】
 本研究報告会は、3部構成で実施されました。参加者は、学術関係者、及び実務家含め、50名を超える大盛況でした。
第1部は、(株)キタムラ執行役員の逸見光次郞氏より、「キタムラの事例に見るオムニチャネル戦略〜その顧客満足・専門性・ECの役割について」と題してご講演頂きました。冒頭、逸見氏のこれまでのキャリア変遷をご説明頂いた後、カメラのキタムラにおいて、逸見氏はどのようにしてオムニチャネルという考え方を社内に根付かせていったのか?その際、立ちはだかった課題について、詳しく事例を用いてご説明頂きました。本講演の中でオムニチャネル推進上、強調されていた点は、「仕組みの重要性」です。すなわち、オムニチャネルという言葉を聞くと、すぐに、「ネットとリアル店舗の融合」という風に思いがちですが、実は、ベース部分は、「CRM(顧客満足)」であり、このCRMをきちんと整備しないと、オムニチャネルは砂上の楼閣になりかねない、CRMの上に、オムニチャネルの概念が乗るというイメージである、とのことです。
 もう一点、強調されていた点があります。それは、組織における「評価基準のあり方」です。通常、オムニチャネルを実施した場合、「売上はどこにつくのか?」、社内の誰もが最も気にします。具体的には、「店舗でお客様に接客し、お客様がお急ぎで、購入する時間がなく、ネットでの購入を販売員が勧めた場合、店舗、あるいはネットのどちらに売上が立つのか?」の問題を指しています。この問題は、ネット企業であろうが、リアル企業であろうが、オムニチャネルを進める上で、共通する課題です。逸見氏は、上記の点についても、以下のように述べられました。「カメラのキタムラでは、どこで注文しようと宅配で受け取った場合にはEC事業部の売上、店舗で受け取った場合は店舗の売上になります。では売上の奪い合いになるか?それはありません。ネット注文のうち店舗受取は7割、中でも写真プリントは9割になります。ネット注文の多くは店受取となり、店の売上につきます。一方でEC事業部は、店に送客した同じ金額分を“EC関与売上”として評価されます。だからこそ店舗で接客してネット注文→宅配受取になってEC事業部の売上になったとしても、店は怒ったりしない。このことによって店舗とネットの販売上の垣根が低くなったと痛感しています。まさに、ネットと店舗の販売政策上の融合こそが、オムニチャネル活性化の鍵であると考えています。」
 第2部では、本研究会の座長である小樽商科大学副学長の近藤公彦教授より、「日本型オムニチャネルの捉え方と理論構築の方向性」について講演頂きました。冒頭、オムニチャネル化の背景をご説明頂き、特に、スマートフォンの浸透がオムニチャネル化を促進している点を強調されていました。次に、小売業のオムニチャネル化の欧米、及び日本の先進事例をご紹介頂き、オムニチャネルに至るまでの発展経緯(1990年代の電子商取引、2000年代初頭のクリック&モルタル、2000年代半ばのマルチチャネル/クロスチャネル、そして2010年代以降のオムニチャネル)についてご説明頂きました。次に、オムニチャネルの定義について先行研究を整理頂き、Rigby (2011)始め、幾多の主要な先行研究の内容についてご説明頂きました。特に、先行研究上の共通点は、「オムニチャネルは、シームレスなショピング経験をいかにして提供出来るかがポイントである。すなわち、顧客視点が重要である」ということを強調されていました。また、オムニチャネルを捉える上での条件は、先行研究によると、「組織的・文化的統一性、統一的な価格設定と情報、システムとロジスティクスの柔軟性、統一的な顧客へのコミュニケーション、データ統合、組織統合、チャネル・ミックス」であることを示唆されました。
 次に、日本型オムニチャネルの特質についてまとめて頂きました。米国型が、一企業一業態、成長プロセスが多店舗化(チェーンオペレーション)であるのに対し、日本型は、多業態小売業、成長プロセスは、多店舗化+多業態性であることを示唆され、日本型の方が、米国型よりより複雑であることを示唆されました。また、オムニチャネルの特徴としては、①多業態による多様な顧客セグメントへの訴求、②グループ内実店舗の商品受け取り拠点化を上げられました。また、日本型オムニチャネルの実践的課題としては、①商品、取引、在庫、ロジスティクス、顧客に関する膨大な情報を統合的に管理することの困難さ、②人的、物的、資金的融合を統合・調整することの困難さ、③業態固有の組織能力を企業グループレベルで編集する上位の組織能力の構築を述べられました。
 最後に、日本型オムニチャネル研究の課題として、①オムニチャネルのオペレーション、②オムニチャネルにおけるコンフリクトと調整メカニズム、③オムニチャネル戦略のプロセス、④出自によるオムニチャネル戦略の違い、⑤オムニチャネルショッパーの特性を述べられました。オムニチャネル研究は、まだ始まったばかりであり、従来の流通、マーケティング研究のみならず、組織論、ロジスティクス、ICT、消費者行動研究等、多岐にわたる学際的要素が強いことを示唆されました。
 第3部のパネルディスカッションでは、5人のパネラーの方にご登壇頂きました。簡単にご紹介しますと、(株)イー・ロジットの角井亮一社長、オイシックス(株)統合マーケティング部 奥谷孝司部長、(株)キタムラ 逸見光次郎執行役員、小樽商科大学 近藤公彦副学長、そして、パネル司会として、日本大学商学部 金雲鎬准教授の5名です。本ディスカッションでは、第1部、第2部の講演内容を踏まえ、日本型オムニチャネルの抱える現状と課題について、活発なディスカッションが行われました。パネルディスカッションの中も、最も印象に残った点は、オムニチャネルを推進する上での「自社のポジショニングの明確さ」です。逸見氏曰く、「カメラのキタムラが目指す自社のポジショニングは、写真の持つ魅力により、顧客に対する思い出作りをサポートする企業であり続ける」ということでした。そのポジショニングをお客様に認識頂くために、オムニチャネルがあり、ネットとリアル店舗でのシームレス、かつ楽しい買い物体験を提供することが重要であるとのことでした。
 また、奥谷氏は、自身のオムニチャネル実務体験として、MUJI PASSPORTのケースをご紹介されました。「MUJI PASSPORTを立ち上げた際、いかにして顧客時間を最大化するか、可視化するかに注力した。要は、ネットを販売上のツールとして捉えるのではなく、顧客のネット上での滞在時間を長くし、その購買行動を可視化するための位置付けとして捉え直した。ネットとリアル店舗を別々のものとして捉えるのではなく、双方向性を重視し、ネットにはリアル店舗へ顧客を誘導する役割を担わせた。その結果、リアル店舗とネットとの販売上の垣根は徐々に低くなり、最終的に顧客ロイヤルティ向上にもつながった。この点が、MUJI PASSPORT導入の最大の成果であったと認識している。」
 その他、会場のオーディエンスからもたくさんのご質問を頂き、第1回オムニチャネル研究報告会は、大盛況に終わりました。
 


 
(文責:学習院大学 中見)

 
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