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研究報告会レポート

第17回価値共創型マーケティング研究報告会レポート「ヤオコーにおける価値共創型小売業(食品スーパー)のマネジメント」

第17回 価値共創型マーケティング研究報告会 > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「ヤオコーにおける価値共創型小売業(食品スーパー)のマネジメント」
日 程:2017年3月5日(日)13:00-16:00
場 所:広島大学 東京オフィス

 

【報告会レポート】
「小売業における価値共創マーケティング -ヤオコーの事例-」

中見 真也 氏(学習院大学 経済経営研究所 客員所員)

中見氏 中見先生は、最初に価値共創型のマーケティング研究の潮流をご説明になりました。特徴的だったのは、本研究会が注目するノルディック学派の動向に触れ、従来の北米型のマーケティング研究との違いを丁寧に整理していただいたことです。ノルディック学派の主張は、サービス・マーケティング研究を拡張したものとして一貫しており、サービス・ドミナント・ロジックの積極的な批判を通じて議論が精緻化されています。中見先生は、その最たる研究者ともいうべきGrönroosの主張をクリアに説明されました。こうした検討から浮かび上がるのは、企業のマーケティング課題に注目するための方法です。本研究会では、Grönroosの主張を支持しながら、顧客の消費にみる文脈への接続がどのように可能になるのかを考えています。ここで重要になるのは、主体間の直接的な相互作用です。ここに生じるプロセスをどのように形成しながら、文脈価値に作用する企業活動をどのように捉えるかが課題になります。こうした本研究会が取り組む研究の学術的な背景を、見事にご説明になりました。
 続いて、これら研究の含意を活かして小売業のマーケティングに注目すると、どのような検討が可能になるのかについても、ご報告いただきました。中見先生は食品スーパーに注目し、最大の特徴である顧客との接点を活かした実践が重視されているか否か、低価格を訴求しチェーン・オペレーション偏重の小売業との違いをどのように捉えることができるかについて、最初に整理を行いました。すると、顧客接点を活かした実践は個店経営や従業員の裁量拡大が見られるとし、その実践が顕著な企業としてヤオコーを挙げることができるとします。中見先生は、同社がこのようなことを意識する背景、成果を拡大していく諸側面を説明するとともに、顧客への調査を通じて企業の取り組みが顧客の印象を変化させてきたことを実証しました。これらを踏まえ、店頭における顧客接点の豊富化と成果獲得が価値共創型マーケティングの実践であるとしたうえで、それは従来の業態の捉え方に留まらない視点であることをお示しになりました。クッキング・サポートが機能するための仕組み、店長の裁量、顧客の内製化とも思えるほどのパート社員の貢献などは、細やかな顧客対応、店舗のイメージ戦略に留まりません。現在のヤオコーでは、チェーン・オペレーションを修正し品揃えを変化させるだけの影響を持っています。もはや、セルフサービス、豊富な品揃え、チラシの配布と目玉商品(ロスリーダー)による誘客といった食品スーパーの特徴に留まらない次元のマネジメントが実践されているといえ、この特徴を有するに至る企業の実態は、価値共創の視点で捉えるにふさわしいというのが、中見先生の見解でした。さいごは、Kumarの議論にみるengagementの検討との接続にも触れ、ますますco-creationのメカニズムの解明が重要になることが示唆されました。

 

「ヤオコーにおける価値共創型小売業(食品スーパー)のマネジメント」

松浦 伸一 氏((株)ヤオコー 人事部長)

松浦氏 松浦先生は、ヤオコーの企業概要から近年の取り組みに至るまで、同社の実践を幅広くご紹介になりました。現在の特徴的な個店経営への転換は、2000年の中期経営計画にみることができるとし、狭山店のモデルの充実によって意識されたといえます。同社のいう「ライフスタイルアソートメント型」の経営は、これを機に拡大されていくようになります。
 このほか同社の考え方とそれに基づく実践事例をたくさんご報告いただきましたが、松浦先生がお話しの内容で特徴的だったのは「十人十色じゃなく一人十色の時代」ということです。独りでも、TPOによっていろいろなものを使う時代が、すでに到来しています。こうした時代には、嗜好品ほど品ぞろえを重視する必要があるといえます。また、amazonが野菜まで売る時代にあって、店舗は無機質な商品提供の場のままで機能し続けるとはいえません。小さな商圏であってもすべての住民を顧客にするくらいの気概で店舗運営しようとすれば、生活のよろず相談所として、あるいはレストランと同じように立ち寄ることができるような空間であって良いのです。こうしたことが意識されているからこそ、ヤオコーは特徴的な成長が可能になったといえそうです。大変充実した講演になりました。
 

ディスカッション
中見 真也 氏(学習院大学 経済経営研究所 客員所員)
松浦 伸一 氏((株)ヤオコー 人事部長)
 今回も、参加者全員でのディスカッションが実現しました。チェーン・オペレーションという標準化された仕組みがどこまで機能し、店舗ごとの裁量がどれくらい反映されるのか。そのバランスはどのように捉えられ、どのように運用されるのかといった質問が飛び出したほか、価値共創と捉えることの是非や、メーカーや卸売商との関係をどう捉えるか、さらに、価値共創を推進するために必要な経営理念とはどのようなもので、なぜそれが維持されるといえるのかなど、鋭い質問がたくさん出てきました。
 中見先生、松浦先生とも、豊富なご経験、ご見識に基づいた回答が寄せられ、参加者の関心に応えるとともに、こうした捉え方の妥当性や新たに発見し得る視点へと議論が進み、とても充実した研究会になりました。
 
ディスカッションの様子 ディスカッションの様子
ディスカッションの様子
 
 今年度は、単独で開催する研究会を5回、カンファレンスにおける研究報告、そして今月18日に開催される春のリサプロ祭りでの研究報告を加えると、実に7回も研究会活動を展開することができる見通しです。繰り返しご参加いただく方に恵まれているほか、毎回のように新規でご参加いただけるのもありがたいと感じています。すでに研究会活動をはじめて4年が過ぎますが、ディスカッションにおける質疑の内容はかなり質の高いものとなっており、価値共創という概念が実務上の問題意識と密接に関係することを肌で感じています。あるいは、研究の進展が求められる重要なテーマでもあると認識するところです。今年は残すところ、3月18日(土)の「春のリサプロ祭り」における研究報告(14:45~16:15, 於 中央大学後楽園キャンパス 31112教室)がございますが、次年度も研究会にご参加いただいた方と問題意識を共有し、新たな時代に求められるマーケティングの視点を示して参りたいと存じますので、皆さま引き続きご協力やご支援を賜りますよう、どうぞよろしくお願いいたします。

 
文責:今村 一真(茨城大学 人文学部)

 
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