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研究報告会レポート

第2回デザイン思考研究報告会レポート「ネスレ日本の『マーケティング・デザイン』 ~KitKat・バリスタ・アンバサダー成功の秘訣~」

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テーマ:「ネスレ日本の『マーケティング・デザイン』 ~KitKat・バリスタ・アンバサダー成功の秘訣~」
講演者:中内学園 流通科学研究所 所長 石井 淳蔵 氏
    ネスレ日本株式会社 専務執行役員 石橋 昌文 氏
日 程:2017年3月28日(火)19:00-21:00
場 所:梅田蔦屋書店(JR大阪駅 ルクア イーレ9階)4thラウンジ

 

【概要】
 マーケティング・デザインとは新たな市場を創造するためのマーケティングアプローチである。不透明な社会や市場へのアプローチとしてマーケティング・デザインのアプローチが注目されている。当日は、マーケティング・デザインの提唱者である石井淳蔵先生からその概要について講演を頂いた。続いて、ネスレ日本の専務執行役員の石橋昌文氏からマーケティング・デザインの実践的展開について、ネスレ日本のキットカット、ネスカフェアンバサダー、ネスレイノベーションアワードの具体例をあげながら講演を頂いた。その上で、石井先生と石橋専務によるクロストークと、フロアとの質疑を通じて、マーケティング・デザインの実践的理解を深める場となった。
 

 
【石井淳蔵先生の講演】
 これらこのマーケティングには顧客創造の観点が重要となる。顧客創造の具体例としては「ハウス食品 ウコンの力」、「カゴメ 瀬戸内レモン」、「カモ井紙業 mt(マスキングテープ)」、「P&Gタイド コールドウォーターキャンペーン」などがあげられる(共に『1かららのマーケティング・デザイン』に掲載)。ドラッカーは、マーケティングを経営の中心に据えることが重要と主張する。その考え方を、米国の経営者は実践する。一方、日本の経営者には実践するケースが少ない。
 顧客創造と顧客満足の違いは以下のように説明できる。顧客満足の活動は、以下のようなキーワードで特徴づけることができる。「予測できる世界に限定される」、「科学的な解決策を求める」、「PDCAが働く賢い組織」、「認知的な力」。一方、顧客創造の世界は、以下のようなキーワードで特徴づけることができる。「答えがない」、「科学的に分析しても答えが出てこない」、「未知の不確かな領域に挑む」、「何を目指しているかはっきりしない」。手元にある資源やニーズを組み合わせて編集しながら形にすることを目指していく。粘り強さ、楽観的に物事を考えるなど、「賢い」とは異なる力が必要になる。

 

 

 多くの企業は、性能に付加価値があると考える。その考えに従うと全て今の延長線上に答えがあると考えてしまう。しかし答えの出し方はそれだけではない。ニーズとシーズを相互に探し求め合いながら答えに行き着く、「創造的適応の時代」が到来している。例えば、現場の知識をうまく活用しているユーザー・イノベーションはそれにあてはまる。
 顧客創造の世界は、従来のトップが意思決定しそれを広げて行く方法とは異なる。シリコンバレーの大手企業が自社の新規事業としてではなく、スタートアップを買収して事業を拡大するのは、独立性、自律性が大事な領域があるからである。企業内で実践するためには、現場に権限を委譲する必要がある。ここまでは誰もが分かるが、多くの企業の新規事業の権限委譲は徹底できない。イノベーションの時代に必要なのは、新しい組織のガバナンスが求められている。
 
【ネスレ日本 石橋昌文専務講演】
ネスレ日本のCMO
 ネスレ日本のCMOが率いる部門の役割は、飲料事業部、コンフェクショナリー事業部などの8つの事業部を横串で支援することにある。
 ネスレ日本では、マーケティングを顧客の問題解決を通じて新たな価値を提供することと定義している。そしてそのアプローチには、「イノベーション」と「リノベーション」の2つが存在する。リノベーションとは顧客の顕在化した問題(気づいている)を発見し解決していく。
 イノベーションとは、顧客の潜在的な問題(気づいていない問題)を発見し解決する。リノベーションはマーケティング・リサーチで可能となるがイノベーションは不可能である。
 それでは、マーケティング思考を全社的に浸透させる。そのようなことを組織で実現するための仕組みの1つが、イノベーション・アワードである。2011年からスタートした全社活動である。各社員が定義する顧客に対して、新たな問題を発見し、解決案を考えて実行する。そしてその結果を1人年間2件以上提案する制度である。イノベーションは新しいため経営陣も正しいかどうか判断できない。そのためまずはやってみることが大切。要点は、一人で行うこと。そして1年間検証することである。一人で行う意味は、次の経営を担うリーダーを養成するためである。
 

【クロストークと質疑応答】
 イノベーティブな組織づくりをテーマにクロストーク、その後フロアとの質疑応答が行われた。
 

 

組織でイノベーションをサポートする体制が重要
社員一人ひとりがイノベーティブであるためには、マネージメントの有りようが大切である。トップが自由にやって良いと言うだけではなく、適切なタイミングで適切な助言ができることが大切。1人でイノベーションは生み出せず、周りのサポートを実現する体制が大切。

現場に近いところでイノベーションを興す
自分仕事とは関係ないところでイノベーションを行うわけではなく、自分の仕事に直結するところでイノベーションの実現を考える。当然その中には自身が担当する仕事との配分をどのようにするのかは自身の裁量で行う必要がある。

制約の中で知恵を出す
新しいことを実施してみるために、既存資源を活かしつつミニマムの投資でできることを考えることも必要。ミルクチョコレートのキットカットしか無かった時代に、外回りはミルクチョコレートを使いウェハースの間のクリームにはいちごのクリームを使う工夫で少ない投資でいちご味キットカットの発売を実現し予想を上回る実績を上げた。本国の承認を得るためこのような実績を示しながら徐々に裁量範囲を拡大することも必要。

外部資源を活かす
自社だけで顧客の問題解決をする時代ではない。顧客と組む、企業と組むことが必要。協業、共創する時代。ネット企業、ホテル、JRなどと共同。自己完結の時代ではない。新たなビジネスが創りやすくなる。
 

 
【おわりに】
 今回の会場は、梅田蔦屋書店のご協力のもと、JR大阪駅に隣接するルクア1100の9階にある梅田蔦屋書店の4thラウンジで行われました。「蔦屋書店」の名称がついている店舗は、新しい「書店」のスタイルを模索する実験的な場所です。本の売場に関連する商品が並び、その周りにはスターバックス、マザーハウス、アップルストアなどが一体となって売場を構成しています。こちらもマーケティング・デザインの具体例の一つです。
 「ラウンジ」と名前がついているように、本に囲まれ、ゆったりとしたソファのスペースで講演者も参加者も通常の研究会とは異なる雰囲気の中で、関連する書籍と連動した講演によってマーケティング・デザインの理解が進んだような気がします。
 
(近畿大学 廣田 章光)
 

 
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