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研究報告会レポート

第20回価値共創型マーケティング研究報告会レポート「あそびからはじまるマーケティング」

第20回 価値共創型マーケティング研究報告会 > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「あそびからはじまるマーケティング」
日 程:2017年9月18日(月)13:00-17:00
場 所:広島大学東京オフィス(東京工業大学 CIC東京)

 

【報告会レポート】
報告「マーケティング研究における価値共創と場」

藤岡 芳郎 氏(大阪産業大学 経営学部 教授)

藤岡氏 藤岡先生は、最初にこれまでの研究会活動を通じて議論の進む価値共創の基本的な理解について、確認されました。経済的交換や取引を前提とした従来のマーケティングが、企業側の価値創造を前提として議論を進めてきたのに対し、価値共創マーケティングとは、価値創造の主体を顧客としたうえで、企業は顧客との直接的な相互作用のプロセスによって価値創造を促進する立場であるといえます。このことは、前者が経済システムを舞台として理論化され実践を捉えてきたのに対し、後者は社会システムを舞台とする企業と顧客との関係において、マーケティング行為を捉える点に特徴があるといえます。
 さて、企業が顧客と直接的な相互作用を形成しようとすれば、そのための場が必要になります。ところが、この場「ba」は「place」と異なり、欧米には見られない日本に特有の概念だといえます。したがって、場における主体間の相互作用や価値共創といった捉え方は日本に固有のものであり、必要となる場がどのようなものかといった議論もまた、日本的だといえます。
 企業が顧客と価値共創しようとしたとき、顧客の価値創造を促進することを念頭に置きながら直接的な相互作用を求めて活動し、それは市場創造を可能にする訳ですが、共創の場のもとで展開されるといえます。そうであれば、場とはどのようなものであり、どのように形成されるのかを明らかにしなければなりません。なぜなら、場抜きに共創は実現しないからです。このことについて藤岡先生は、S-Dロジックが示したオペラント資源の概念に注目し、リーダーシップ、組織といった各要素が共創を可能にするオペラント資源でなければならないとします。これは、管理操作を前提とした経営資源観でなく、エンパワーメント(権限の委譲)とイネーブリング(共創環境整備のサポート)が成果に向かって資源を統合するといったケイパビリティとして意識され、理念に基づく実践が進むことで、インターナル・マーケティングにおいてもインタラクティブな関係が意識され、関係を支援する仕組みが機能するのではないかとします。それは、自他分離を前提とした米国型の考えとは異なり、自他非分離的なコミュニケーションによって実現します。これを共創的コミュニケーションという新しい概念によって示すことができ、自他非分離的なコミュニケーションが形成される場での相互作用こそが、コンテクストとして捉えられるといえます。コンテクストとは独自かつ解釈的に捉えられるものではありますが、自他非分離的なコミュニケーションの関係者であればこそ、とりわけ企業は価値創造を支援する利他的な関与であるからこそ、コンテクストを客観的に捉えることができます。つまり、企業は場を共創の舞台として捉えることが大切であり、そこで自他非分離的なコミュニケーションの構築に向けてケイパビリティを定義して行動することが大切だといえます。 以上のように、藤岡先生は独自の視点を踏まえながら、理論的な検討を整理したうえで、実務に注目するために必要な視点を示していただきました。
 

講演「遊びのマーケットプレイス『asoview!』にみる価値共創とは」

河合辰哉氏(アソビュー株式会社 執行役員 CFO)

河合氏 アソビューは、「ワクワクを すべての人に」をミッションとした企業活動を展開しています。具体的には、それは、さまざまなレジャーを技術を活かしながらゲスト(顧客)とパートナー(レジャー事業者)双方の課題を解決することで可能になります。ただし、同社はゲストとパートナーとのマッチングのみに寄与している訳ではありません。さまざまなアクティビティの提案に留まらず、シームレスな予約を可能にし、ゲストの利便性を向上させるとともに、パートナーのマーケティング活動に貢献します。河合氏が同社のビジネスモデルを「B to B to C」とする理由はこの点にあります。
 こうした特徴を有する同社は、今日的な3つのトレンドに対応した企業活動を展開しているといえます。一つ目は「モノ消費からコト消費へ」です。これは、ツイッターやインスタグラムの普及とともに、何を所有しているかではなく、何を体験しているか、どのような経験が貴重なのかが、多くの人々にとっての関心として確認できる時代を迎えています。同社が“インスタ映え”するアクティビティを多数提供していることを考えれば、コト消費に対応した企業活動だといえます。二つ目は「サービスに関する電子商取引の拡大」です。これは、国内では楽天、じゃらん、海外においてはエクスペディアやトリップアドバイザーなどの、オンライン・トラベル・エージェンシー(OTA)が台頭していることに象徴されます。主要なプレーヤーが大手旅行代理店だったころに比べ、我々は圧倒的にOTAを活用して旅行に出かけるなどしています。“着地型観光”が叫ばれる時代には、ますますその流れが加速するとともに、どこで何をするのかが問われています。同社は“どこで何をするのか”に対応した圧倒的なアクティビティのラインナップと豊富な情報を届けています。三つ目は「地方創生」です。“着地型”を検討する要は「その地域ならではの自然、文化を体験できるプラン」を企画し発信することにあります。地域の「稼ぐ力」をいかに引き出すかが求められ、観光地域づくりの舵取り役が必要な時代です。多様な関係者と共同しながら、観光地域づくりを実現するための戦略が大切で、その実行や調整の場の生成と活用が期待されています。同社の企業活動は、こうした視点からも有効性の高い実践が繰り返されているといえます。
 このように、同社はさまざまな遊びや体験にコミットしながら、その有効性を高め相乗効果を獲得することで、サービスのさまざまなレンジを開発して今日に至っています。
 

報告「『ボーネルンド』にみるあそびからはじまるマーケティング」

村上 裕子 氏(株式会社 ボーネルンド 取締役兼広報室室長)

村上氏 ボーネルンドは、「あそぶことは生きること」のフィロソフィーのもと、「あそびを通じて、子どもの健やかな成長に寄与する」をミッションとして活動する企業です。40年以上前から子どものあそびを大切にする北欧をはじめとするヨーロッパ諸国の大型遊具や教育玩具の輸入を通じて、子どものあそびを豊かにする活動を行ってきました。
 今日ではこうした同社の姿勢が市場に受け入れられ、支持を獲得するに至っていますが、それは平たんな道のりではありませんでした。当初同社は輸入玩具・遊具の専門商社として成長を志向しますが、旧来の卸売りを主とする流通システムにそのコンセプトが理解されず、壁につきあたります。これは、日本のあそびに対する考え方とのずれでした。デンマークの遊具、玩具は使い手である子どもが主役であると考えてつくられており、キャラクターがついていれば良しとする日本で親しまれているコンテンツなどに依存しない存在感がありました。それは、子どもの発達や成長を考慮したさまざまな工夫が施された優れたものでありながら、その含意が小売店や顧客に十分に伝わらず、思うように販売することができませんでした。こうした問題から、同社は直営店を設け、顧客に直接関与する機会を獲得します。すると、同社の遊具・玩具に理解ある顧客が増加し、遊び方や子どもの成長がさまざま語られるようになっていきます。
 同社が子どもの成長にあそびが不可欠と考える一方で、今日では子どもの成長を憂う現象がみられるようになっていきます。子どもの体力や運動能力の低下が顕著なのです。今や公園で遊ぶことすら容易でない環境になった日本では、子どもが外で遊ぶ機会が大幅に不足しているのです。その傾向は先進国の中でもっとも深刻であるにも関わらず、日本ではあまりその現実に目を向けられていません。こうした状況下において、同社は屋内でも屋外なみに遊べる環境を提供し、こころと頭とからだの全部を使って遊び方から学べる仕組みを作ることを決意します。これが「キドキド」のコンセプトです。2007年にスタートした同事業は2016年に利用者数270万人を超え、同社の核になってきました。中でも、東日本大震災が発生したあとの福島県郡山市における導入事例は、危機的だった子どもの遊びの場を確保するものでした。放射能汚染に悩まされ屋外で遊べない状況において、避難先で知った「キドキド」を郡山にもという熱烈な声に後押しされ、そして、郡山に本社のある「ヨークベニマル」の地域貢献の姿勢と相まって、あそびの場が設けられるようになります。このような経緯とともに、同社が導入する遊具・玩具は子ども、大人から幅広く支持されるようになっています。特徴的なのは、プレイリーダーを配置することで多様なあそびが促進され、現在ではあそびに関心を持つ親のコミュニティが形成されるに至っています。このように、同社は今日までさまざまな紆余曲折を経てきましたが、そして、子どもの成長の中にあそびを位置づける機運は未だ低いと言わざるを得ない日本ではありますが、だからこそのアプローチを開発しながら有効性を高め、まさに顧客との直接的な相互作用を通じて発展しています。
 

ディスカッション

藤岡 芳郎 氏(大阪産業大学)
河合 辰哉 氏(アソビュー株式会社)
村上 裕子 氏(株式会社 ボーネルンド)

ディスカッションの様子

 本日も参加者全員による活発なディスカッションが実現しました。以下、Q&Aで示します。

Q:アクティブシニア向けのアプローチはあるか?
A:(村上氏)シニアのQOL向上にどうつなげるかという観点での実践も試みている。実は代官山の店舗ではその実践をスタートさせているが、今後さらに推進させていきたいと考えている。

Q:幅広い年代へのアプローチはどのようにすべきか?
A:(河合氏)一般に同社のサービスは若い世代向けだと思われがちだが、その若い世代はググらない。インスタで判断するといった特徴が見受けられる。つまり、若い世代対応といってもひとくくりにできないので、そこは丁寧に考えていかないといけない。他方、高齢者はネットを使わないともいえない。ネット活用も成熟化するから、先を見通さないといけない。

Q:共創の価値とは何か?
A:(河合氏)ゲストのレビューが大切で共創の契機になる。それはフラットフォーム存立の前提であり、優れたレビューが寄せられるということは、プラットフォームが機能しているということである。“仕掛け”と“仕組み”で区別したとき、“仕組み”としての共創はあるのではないか。仕組みは仕掛けと違って、価値があれば仕組みが効いてくる。
A:(村上氏)あそびを通じた貢献は一貫しているが、その方法は環境とともに変化する。顧客から学ぶことが多い。したがって、顧客から得られた学びをフィードバックしながらアプローチを検討することが大切になる。

Q:企業間競争への対応は?
A:(河合氏)提案の量、質に加え、顧客参加型の提案なども考えていきたい。また、AIの活用についても幅広く考えている。異業種とのコラボも十分可能で、そのかたちを模索していきたい。
A:(村上氏)玩具は模倣が激しい。しかしオリジナルの玩具は模倣品と異なる意味がある。その意味は遊ぶ段階で気づく性質であり、決して理念に留まるものではない。また、遊ぶ段階で顕在する価値であるため、遊ぶ側の解釈が大切になる。他方、「キドキド」のようなあそび場においては、子どもの動線まで計算してデザインするため、こちらは模倣が容易ではない。あそびの空間自体は模倣困難性が高いといえる。さらに、プレイリーダーを1店舗あたり20名配置することの意義も大きく、そこに生じるコミュニティまでを成果と捉えたとき、その違いは少なくない。
 
 今回の研究会は、新しい時代の「あそび」を考える好機であり、お二人の講演を聞いて感動したといった声を多数聞くことができました。

 
(文責:今村 一真)

 
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