第1回物語マーケティング研究報告会(春のリサプロ祭り)レポート「物語マーケティングのフロンティア – ストーリー・マーケティングからナラティブ・マーケティングへ –」 |
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テーマ:物語マーケティングのフロンティア – ストーリー・マーケティングからナラティブ・マーケティングへ –
発表者:岩井 琢磨(大広)・増田 明子(千葉商科大学)・松井 剛(一橋大学)・小宮 信彦(電通)・牧口 松二(博報堂)
日 程:2018年3月17日(土)13:00-14:30
場 所:中央大学後楽園キャンパステーマ
【報告会レポート】
いまや物語の語り手は企業だけでなく、消費者が企業やブランドの物語を作り語るようになっている。このような環境において、「物語マーケティングの次の研究領域とは何か」。この課題に取り組んできた研究会が、体系的な過去研究レビューを踏まえて、その仮説を発表した。
「ぜひ参加者の皆さんと我々発表者で、膝詰めで議論しよう!」と考えていたのだが、大変ありがたいことに当日会場には膝詰めどころではない満席、80名近い方々がご参加くださった。リサプロ祭りへの高い期待と、物語マーケティングというテーマへの関心をムンムンと感じつつ、熱気の中で報告会はスタートした。
今回の報告で示されたキーワードは、「ナラティブ・マーケティング」である。
これまでの物語マーケティグは、どちらかというと「ストーリーの形式」が重視され、企業側が作り手・語り手であることを前提としていた。この考え方における物語とは、企業が決めた固定的なものである。それらを自社資源として扱い、物語の形式で伝えていくよう管理することに焦点が合わせられていた。このような「ストーリー」を軸に行うマーケティング手法を、当研究会では「ストーリー・マーケティング」と位置付けた。
これに対して「ナラティブ・マーケティング」とは、物語の形式だけでなく、語るという消費者の行為もまた内包する視点である。当研究会では、ストーリー・マーケティングからナラティブ・マーケティングへの視座の転換こそが、これからの新しい研究領域を明らかにするのではないかとの展望が示された。
発表者は、まず物語論や歴史哲学・マーケティング・社会理論など、学際を超えた視点からの物語に関する過去研究レビューを確認。これらのレビューから、以下の「ナラティブ・マーケティングの構造」を提示。物語がナラティブに昇華する経路が3つのタイプに分けられることが、仮説として示された。さらにこれに基づくこれからの研究と実務へのインプリケーションと、ケース分類が発表された。
[ナラティブ・マーケティングの構図]
物語がナラティブ化する第1の経路は、「企業が発信する物語がナラティブ化するプロセス」である(経路a)。既存の多くの物語マーケティング研究が焦点を合わせてきたのはこのプロセスである。先行研究によれば、物語によって生じる受け手の「心理的なアンバランスさ」が、ナラティブ化を促進すると考えられるという。
第2の経路は、「消費者が発信する物語がナラティブ化するプロセス」である(経路b)。典型的なのは噂や商業伝説である。先行研究によれば、社会における「状況の定義の不安定さ」があることが、ナラティブ化を促進すると考えられるという。
第3の経路は、「消費者が作り出した物語を、企業が自社の物語として回収し、ナラティブ化するプロセス」である(経路c)。具体的には、キットカットの「きっと勝つ」をタイトルとしたプロモーション展開が例示された。
発表者からはこの構図を元に、消費者発信の物語をも範疇に含み、さらに語りという行為を視野に入れることで、新しい豊富な研究領域が見出されることが示唆された。続く参加者からの質疑では、語られることによって情報が「平均化・強調・同化」するという噂の研究に触れ、それが起こりやすい状況への指摘があるかという質問があった。またナラティブ化が事業売上につながるメカニズムも、今後の研究領域ではないかといった意見が寄せられた。
発表者、左から小宮さん(電通)・増田さん(千葉商科大)・岩井(大広)・松井さん(一橋大)・牧口さん(博報堂)
立ち見が出るほどの盛況となった報告会
【報告会を終えて】
今回の報告会で示されたのは、「ナラティブ・マーケティング」という物語マーケティングにおける新しい視点である。SNSの発展によって、課題は「企業がどう伝えるか」ではなく、「消費者にどう語られるか」に移っている。今回の報告会で寄せられた質問や意見は、発表者にとって気づきの多いものになった。これらを今後に活かし、論文の発表なども含め、より一層研究を進めていきたいと思う。
(文責:岩井 琢磨)