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研究報告会レポート

第2回オムニチャネル研究報告会レポート「オムニチャネル時代の顧客戦略」

第2回オムニチャネル研究報告会 > 研究会の詳細はこちら

テーマ:「オムニチャネル時代の顧客戦略」
ゲスト:株式会社 パルコ 執行役 グループICT戦略室担当 林 直孝 氏
    BAYCREW’S GROUP 前上席取締役 村田 昭彦 氏
    (ご講演順)
日 程:2018年3月18日(日)14:00-17:30
場 所:亜細亜大学 5号館1階511教室

 
【報告会レポート】
 本研究報告会は、3部構成で実施され、当日は学術関係者、及び実務家含め、30名を超える方々のご参加をいただきました。
 まず本研究会の座長である小樽商科大学副学長の近藤公彦教授より「マーケティング・イノベーションとしての オムニチャネル」というテーマでの解題から報告会が開始されました。「オムニチャネルは単なる現象としてではく、市場ルールの転換を伴うマーケティングイノベーションと考えるべき」という主張に続き、その背景として「スマートデバイスによる消費者の買物行動の劇的変化」「ユビキタス化」「企業主導から消費者主導型のマーケティング・イノベーション」が挙げられ、「オムニチャネルの革新性」という観点から、取引主体(企業)、取引対象(製品・品揃え)、取引相手(消費者)、取引様式(流通)、取引の場(競争市場の範囲)という、5つの領域での再設計の必要性が提唱されました。
 
 そして第1部では、ゲストの株式会社パルコ 林 直孝 氏より、パルコのオムニチャネルの取り組みについてご紹介いただきました。テクノロジーにより出来ることとして「人の能力の拡張」「接客の拡張」という、ショッピングセンターならでは役割の説明に続き、接客の拡張としてのパルコが開発したブログプラットフォームを通じた約3000のテナントの自己発信からはじまり、カエルパルコの導入による売上への貢献、更に3C+Sという来店前、来店中、来店後の各段階でのユーザー行動分析までのこれまでの同社の取り組みが紹介されました。
 さらに最近の取り組みとして、POCKET PARCO へのAI導入による記事フィードのレコメンデーションなどの施策や、様々な施策の以下のような結果に続きます。

  • 来店前に記事をクリップしたユーザーは、29日以内に約8割のユーザーが再購入し、クリップしたユーザーは、しないユーザーに比べ購買率が35%高い。
  • 買い物後のサービス評価で、テナントスタッフの接客を可視化。また満足 / 不満足なポイントが書かれていることからテナント側により役に立つため、従来の年1回全テナントを対象に実施していたミステリーショッパーを使った調査を廃止。

 また最近の取り組みとして、Psychic VR Lab、ファッションレーベル「chloma」と実施した Mixed Reality を活用した展示販売や、上野のPARCO_ya(パルコヤ)での顔認識カメラを使った来店者分析の販売や人員契約への活用事例なども紹介された後、「人の強みを伸ばして接客の進化につなげる」「Srendipityを促すCreativity」という今後のビジョンで講演は締めくくられました。
 
 その後第2部として、前 BAYCREW’S GROUP の村田 昭彦 氏からBAYCREW’S Groupの取り組みをお話いただきました。企業や業界動向の概観に続き、同社ではオムニチャネルの背景として、「ピュアECプレイヤーの影響力増に伴う顧客起点の縮小」「多品種小ロット・短ライフサイクルというアパレル業界の構造」という課題があり、「経営課題の解決による顧客価値とビジネス価値の向上」を目的として、それぞれの目標に対して「セッション数 / 顧客維持率/NPS」「非EC在庫売上、クロスコマース(両チャネル利用)売上、アシスト(店への送客)売上」といったKPIにより、オムニチャネルの取り組みを進められています。中でもやみくもにECでの売上比率を追うのではなく、自社顧客接点を構築してデータの蓄積を図るために自社ECへのシフトを進めている点は、特徴的な戦略と考えられます。
 このオムニチャネルの取り組みは、各種データベースの統合などのシステムインフラだけでなく、最も苦労されたというオペレーションや、ユーザー体験の再設計など多岐に渡りました。そのため、全社でのプロジェクトとして2013年から9ヶ月間の間、組織、人事評価、マーケティングなど複数の分科会を設け、全部門参加によるボトムアップでの合意形成を図られたことは、オムニチャネルにおけるチェンジマネジメントの重要性を示す貴重な事例と考えられます。その取り組みの成果は前述のKPIにも現れており、昨年度における両チャネルを利用したユーザーの全会員に占める売上シェアは40%、非EC在庫売上は22億円、またアシスト売上高は62億円などの結果につながっています。また他ECチャネルと自社店舗間の間ではあまり見られなかった売上上位商品の相関が、自社ECと自社店舗の間では強い相関が見られることも分かってきました。このように、村田様からは顧客接点の減少やアパレル業界特有の在庫管理という課題に対し、顧客やビジネスの価値向上に大きく寄与する解決策として推進されているオムニチャネルについて、ご紹介いただきました。
 
 最後に本研究会メンバーのオイシックスドット大地株式会社の奥谷 孝司、オムニチャネルコンサルタントの逸見 光次郎、そして学習院大学 経済経営研究所の中見 真也も参加して、研究会座長の近藤の司会のもと、パネルディスカッションが行われました。最近注目されている動向として、各社の取り組みが挙げられる一方で、歴史的な視点や、海外でのオムニチャネルが現象論ではなく、地に足のついた議論が行われている現状や、海外と日本の違いなどについて各パネリストからコメントがありました。またお客様との関係性を強化するという目的で、システムや会社視点ではなく、お客様視点で店舗での顧客体験をテクノロジーを活用して実現していくかについて議論が交わされました。最後に会場のご参加者からの、システム統合から成果につなげるための方策、今後の可能性、実店舗スタッフの教育などに関する質疑応答が活発に行われ、第2回のオムニチャネル研究報告会は終了しました。
 

 
(文責:今井 紀夫)

 
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