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研究報告会レポート

第31回価値共創型マーケティング研究報告会レポート「さまざまなコンテクストを捉えた価値共創研究」

第31回 価値共創型マーケティング研究報告会 > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「さまざまなコンテクストを捉えた価値共創研究」
日 程:2019年6月16日(日)13:00-16:30
場 所:大阪産業大学梅田サテライトオフィス(大阪駅前第3ビル)

 

【報告会レポート】
報告「価値共創の視点から地域活性化に向けた取り組みの考察 -東大阪市の魅力発見・発信・創造に向けた基礎的調査から-」

藤岡 芳郎 氏(大阪産業大学 経営学部 教授)

 藤岡先生は、住民や民間を主体とした地域活性化の取り組みには価値共創マーケティングの手法が有効ではないかという問題意識に基づき、生活者(顧客)の文脈価値は、どのような主体間の相互作用で生成されているのかという目的を設定して、研究を進めました。
 厚みのある研究で、そのすべてを示すことが難しいのですが、ユニークだったのは、地域や生活の時空間に根差した事象の共通点は、多様な主体が参画する場が創造されているということでした。そして、この場をとおして多様な主体が相互作用することで、価値共創の場が活性化するということになり、それは利己主義と利他主義の対立を解消する社会システムを望んでいるのであり、主体同志の相互利益の発見と追究が重要だといえます。このことを藤岡先生は、「生活者(顧客)の利己的な実行が、利他的(社会貢献)になる仕組みが存在する」と捉えて検討を進めていきました。これが、地域活性化を価値共創の視点で捉えるということであり、続く講演の内容を踏まえて議論していこうという解題を兼ねた研究報告でした。
 
講演1「SEKAIホテルの地域活性化のビジネス」

三谷 昴輝 氏(クジラ株式会社 / SEKAI HOTEL広報)

 三谷氏が勤務するクジラ株式会社は、「未来につながる『カッコ良い』を創る」をコンセプトに企業活動を展開しています。創業者はリノベーションへの挑戦を切り口に、社会課題を解決することの重要性に気づき、今日に至るそうです。同社はこの転換を「請負体質からの脱却」と捉えています。新たにホラクラシーによる新しい事業展開の手法を用いることで、現在のビジネスモデルが機能しています。こうすることで、コストの圧縮、スピーディな意思決定、多方向性を持つコミュニケーションの推進が可能になりました。とはいえ、リノベーションで社会課題を解決するといっても、何かアイディアを加えないと新たな提案は生まれません。現在広く知られているSEKAI HOTELの事業も、「リノベーション×宿泊=SEKAI HOTEL」となる訳です。同事業は、海外から来日する観光客に向けて、日常こそ体験すべきリアルがあるという考えに基づいて推進されています。同事業が優れているのは、サービスを施設において内製化するのではなく、地域を含めたサービスにすることで、従来型の宿泊業とはまったく異なる姿になり、脚光を浴びるようになりました。マスコミなどで同社の事業が西九条の町並みとともに紹介されるのは、社員の三谷氏にとっても、当初は意外な光景だったそうです。
 SEKAI HOTELの事業は現在、JR・阪神西九条駅周辺と近鉄布施駅周辺の2拠点で運営されています。そこでは、地域の日常の体験をうながすコンテンツが多数用意されています。その事例のひとつに、施設利用者に配布される「パス」があります。地域にある加盟店でこの「パス」をみせることで、さまざまなサービスが利用できます。一方的な価値の提供に留まらず、場合によっては同社スタッフが顧客を加盟店に案内することで、新たな交流が生まれます。また、同社スタッフは顧客との接点が豊富なため、要望に耳を傾けることも多く、それによってサービスはかたちを変えていく側面を持ちます。
 同社は地域の様々な側面を発信できるよう工夫しているといいます。例えば、朝は喫茶店、晩はバーという加盟店ならば、両方の側面を観光客は楽しむことができます。飲食店だけが地域資源ではありません。例えば、東大阪の工場で生まれる商品に注目することも可能です。作り手の思いに目を向けながら、商品を手にする実感があっても良いのです。地域社会に存在するさまざまな側面を、同社は発信するための材料と捉えて活動しています。
 このほか同社は、社会貢献活動(Social Good)にも尽力しています。SEKAI HOTEL宿泊者から頂戴する宿泊料のうち200円を積み立てていき、これを原資にして、子どもたちが集う行事を実施することもあるそうです。さまざまな実践が進められる同社においてユニークなのは、同事業のアピールは地域のアピールと同義になることです。
 一方で、同社が事業を推進するうえでの課題もあるそうです。同社は理解者を確保すべくインターンシップ参加の学生を獲得したいようですが、インターンシップ事業を展開する企業が東京に集中しており、人材確保が課題として指摘できるようです。とはいえ、空き家や遊休不動産(狭小地)が経営資源になる同事業は、同時に商店街などの街自体が資源になります。初期投資のハードルが低い点に同事業の特徴があるほか、同社のほか地域の自治体の双方がPRするという意味において、広報に費やすコストも低減できます。このほか、民泊と違いホテルですから、フロントに人員が配置されているため、秩序の乱れや観光客の不安に目を向けないということはないそうです。資金調達や本部人材の確保を通じて、今後事業を拡大させていきたいという意向をお持ちでした。観光客の誘致を図るとともに、地域の子どもへ未来をつなぐ。三谷氏はさいごに、こうした夢をもって挑戦を続けていくという考えをお示しになりました。
 
講演2「共創プラットフォームによる地域活性化活動」

山之内 敦 氏(一般社団法人 ビジネス共創協会 理事長)
白谷 将規 氏(大東商工会議所 中小企業相談所 係長)

 山之内氏は、クラウドファンディングがテスト・マーケティングとしての側面が強くなる時代にあって、複数のプラットフォームで約30のプロジェクトを実施していらっしゃいます。ここでいうクラウドファンディングとは「Makuake」「FAAVO」などをいい、さまざまなタイプの利活用が可能だといいます。
 こうしたお考えを持つのは、山之内氏が製造業を営む立場だったからだといいます。山之内氏は、革製品の製造を手掛けており、顧客の便益を捉えたさまざまな製品を開発して販売しようとするお立場です。かつては(コンセプトを確立した)コンプリートな製品を売るのが当たり前でしたが、この活動を精緻なものにしようとすればするほど、大企業にしか実践できないといえます。しかし、クラウドファンディングを活用するうえでは、いわばプロトタイプでよいことになります。まずはアイディアを活かしたプロトタイプを用意し、これを製品化したい。こう告知するのです。するとこれを手にしようとする人が支援者となり、資金が調達されるばかりか、支援者に提供したプロトタイプは利活用され、経験が声になります。すると、この声を反映しながら製品を洗練させていくことが可能になります。ページビューの変化、実際に申し込んだ人の数などを時系列で捉えていくことで、反響の大きさなどを勘案しながら製品化していくことができます。こうした手続きを経ることで、かつては大企業しかできなかった製品のブラッシュアップが、零細企業においても可能になるほか、次第に売上の規模を見込んだ挑戦が可能になるといえます。
 かつて、大手小売企業のバイヤーに掛け合っても、製品の価値を評価してくれず骨が折れた苦い過去を、山之内氏はご披露されました。当時は小売のバイヤーから支持されなければ商流を確立できなかったため、バイヤーとの利害抜きに顧客との接点を獲得することはできませんでした。ところが、クラウドファンディングの活用は、その垣根を超えるものになります。また、アイディアの創出を加速させることの方がヒット商品の提案につながるといえ、消費や利用のシーンを想定したアイディア創出の場との接続が重要になります。
 こうした取り組みを進めていくと、これまでの商慣習を超えて挑戦が可能になるばかりか、企業はさまざまな接点を有した挑戦が可能になるといえます。とりわけ地域社会との連携が促進されると、自社が有する経営資源にも新しい解釈が生まれる可能性があります。例えばBtoBに特化した事業モデルを有する企業は、取引先をBに限定しなくて良いことになります。まさにビジネスは共創されていくのであり、ビジネスモデルのかたちすら異なっていくといえます。
 
 白谷氏は、価値共創によるスピード感ある地域活性化を目指しているといいます。これは商工会議所の使命でもある訳ですが、ご自身の体験にも由来しているといいます。それは、ハーレーダビッドソンのカスタム・修理・中古車販売、車検サービス等を提供している「Revolt Custom Cycles」のオーナーとの出会いだといいます。同社のカスタムバイクは世界的な大会でも評価を受けており、デザインや提案に優れている訳ですが、この企業が大東市にあることはあまり知られていません。
 ところが、ハーレーダビッドソンのカスタムモデルは、大丸百貨店心斎橋店での展示が実現しました。大東市の企業によるモデルが披露されたのです。実はこうした取り組みは、ハーレーの業界で初のことであり、大変な反響がありました。これをきっかけに、企業の経営資源は新たに注目されることで、さまざまな魅力が生まれると考えるようになります。次第にさまざまな可能性は価値共創によって発見されると考えるようになり、山之内氏との交流を深めながら、独自の挑戦が次々に繰り出されることにあります。とりわけクラウドファンディングの活用は多様な成果をもたらしています。今後も信頼関係を大切にし、いろいろな可能性が開花できるようお世話できればとお考えでした。
 
ディスカッション

 本日も90分間、中身の濃いディスカッションが実現しました。最初の質問は「企業はどのように地域を巻き込むのか」です。この質問に対し三谷氏は「地域の方との常々の関係を重視しているというほかない。弊社スタッフは公私ともに店に通い、当初から意見を頂戴し、事業主の方の意見を聞いている」とご回答になりました。興味深いのは、「外国人ばかり来られても困る」という声が地域社会にはあることです。地域社会にとっての日常が変質することの抵抗や戸惑いが、率直に示されることもある訳です。そうしたときに、同社スタッフは観光客をアテンドするなどして店に足を運ぶなどそうで、スムーズな対応が実現するほか、地域の人々にも次第に慣れてもらうことを大切にしているそうです。
 こうした三谷氏の回答があると、「同社のビジネスモデルは未完の部分があるから面白いのであり、それを地域社会と一緒に創り上げていくところに、価値共創があるといえるのではないか」という意見が示されました。サービス従事者に依存する側面が大きいビジネスでもある訳ですが、そうした解釈でビジネスが推進されていることを理解することが重要だともいえそうです。
 続いて「地域のさまざまなプレーヤーを主役にする戦略とはどのように位置づけられているのか」という質問がありました。これについても三谷氏は「大手デベロッパーとは異なる企業であるということ、つまり、できる限りの形でスキームを考えるしかなかった」と回答しました。すると追加で「共創の場はできたとしても、文脈はどのようにしていくのか」という質問が示されました。この質問に対する三谷氏の回答は意外なものでした。それは、同事業を利用するためのプラットフォームの影響を無視できないほか、同事業の知名度もまだまだ高くないことが、想定し得る文脈が伝わらないというもどかしさになっているようです。そこで同社は、SEKAI HOTELのブランド力を高めたいとお考えでした。ただし、ここでいうブランド力とは、いわゆるゲストハウスのようなブランド力でもなく、地域ブランドでもない。その中間的なブランド力になるだろうということです。さらに、一方的な文脈の発信では駄目で、絶えずコミュニケーションのための切り口として抽象度の高いものを目指しているといった回答がありました。何より、同社の経営理念に共感する関係が基盤として存在し、そこからブランド力を構築する原資が生まれていくと考えたいものです。
 
 続く質問は、少し抽象度を上げたものでした。それは「地域活性化に寄与する企業活動とは、①社会志向の理念や目的が重要なのか(=理念や目的が上位概念にあり、それに基づく実践なのか)、それとも②現場での問題意識が重要なのか(=実践が重視され、そこでの成果や課題がボトムアップ的に企業活動を形成しているのか)」というものです。これに対し三谷氏は「社員に①②の乖離はないが、外部に見えるのは②である」との回答があったほか、山之内氏は「有形財をつくる企業は①抜きに挑戦が生まれないかもしれない。しかし、それを売ろうとするイベントなどを推進しようとするときには、②抜きに実践そのものが機能しない」との回答がありました。白谷氏はこれらを踏まえ「文脈への関与、積極的な相互作用が重要であり、①②の区別はないのかもしれない」とした回答が寄せられました。いずれにせよ、企業活動の領域を自社で完結するのではなく、地域社会との関係に拡張する場合、何を手掛かりに考え、続いてそれをどのようにマネジメントするかが課題であることは間違いありません。興味深いのは、顧客とのタッチポイントの内容を多層のレイヤーで捉え、レイヤーごとに顧客の意志や能力を捉えようとする試みが、すでに企業活動においては実践されていたことです。SNSの活用がインタラクションのツールに留まらず、企業活動への理解や参画の態度を捉える機会として機能すれば、企業理念や社会志向性は企業の内側に留まりません。企業活動への共感のプロセスを捉えることができれば、もはや企業と顧客は一体的なものになり、より力強い活動になります。そうした挑戦はすでに為され、議論されているようでした。
 こうなると、顧客の能動性をどのように捉えることができるか、また、そもそも顧客の能動性が引き出されるプロセスを、企業はどのように考えるべきかという議論が生まれます。企業の社会貢献(Social Good)に疎い国民性があるのではないかという声もあり、ディスカッションはさらに白熱していきました。
 
 今回もディスカッションは、深堀の議論で大いに盛り上がりました。企業と顧客(生活者)との関係はもはや、生産と消費が分離した関係でもなければ主従の関係でもなく、利害を主張し合う対峙的な関係でもありません。そこには共通の目的を見据えた高次の合理性の追究らしきものが存在し、何が理にかなっているのかを、企業と顧客の双方が、共にそれぞれの立場から考え行動しているように感じます。今回も、有意義な交流ができました。
 
(文責:今村 一真)

 
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