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研究報告会レポート

第8回インダストリー・イノベーション時代のブランディング研究報告会レポート「デフレーミング概念から見たDXの本質とインダストリー・イノベーション」

第8回 インダストリー・イノベーション時代のブランディング研究報告会 > 研究会の詳細はこちら
テーマ:デフレーミング概念から見たDXの本質とインダストリー・イノベーション
日 程:2019年9月10日(火)
場 所:青山学院大学青山キャンパス
講演者:高木 聡一郎(東京大学大学院 情報学環准教授 / 国際大学GLOCOM主幹研究員)
 
【報告会レポート】
 今回は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を背景に高木先生の提唱する「デフレーミング」という概念を辿り、インダストリーイノベーションでの変容と合わせて今日的な状況を論議した。「デフレーミング」とは、伝統的なサービスや組織の「枠組み」を越えて内部要素を組み合わせ、カスタマイズすることで、ユーザーのニーズに応えるサービスを提供することと規定される。デジタル・トランスフォーメーションの高まりとともに、どのような方向でトランスフォーム(変革)していくのかという未知数の課題に対して、社会に与える影響を最もよく説明できる概念として高木先生より「デフレーミング」が提示された。
 
 高木先生からは、その社会的背景として「画一性による規模の経済」の終焉が指摘された。20世紀の経済は、画一性による規模の経済の実現であり、誰もがほどほど満足する商品やサービスにより平均の生産コストの低減される一方で、その画一性のために、本当は必要のないもの、満足していないものもそこには内包してしまっている。今日、最新デジタル技術の進化により、従来のパッケージの内側にある個別の要素を取り出して提供したり、カスタマイズすることが容易になり、個別的に深く特化された満足をもたらすサービスが展開されていくという。こうした展開は、経済の取引コスト論からは、テクノロジーの発展が取引コストを削減し、事業形態を「企業」から「市場」化しつつある状況(ギグ・エコノミー等)として捉えられる。そのため、サプライサイド(小規模化・特化・連携)とデマンドサイド(財・サービスの要素分解)とのキメ細かなマッチングの可能性が高まり、「デフレーミング」という概念が顕在化してくることになる。
 
デフレーミングには3つの要素があり、それぞれ以下の事例が報告された。

  1. 第1の要素は、「分解と組み替え」であり、サービスや財の「枠」を超えて要素に特化し、組み直すことである。従来の銀行の個別サービスを特化し、デジタルで飛躍的に利便性の高いサービスを実現したFinTech。特に、テンセント、美団点評などのチャットやゲームでユーザーベースを獲得し、金融やITプラットフォームへのビジネス転換の事例が紹介され、そこでのビジネスモデルの要素を分解し、特定要素の特化型ビジネスとしてデジタル技術を介して急速に拡張し、その顧客資源を活用して異分野の組み合わせることで範囲の経済を実現するプロセスが紹介された。
  2. 第2の要素は、「個別最適化」であり、既製品という「枠」を超えて個別のユーザーに最適化するという特徴である。個別最適化としてのサービス化はマスカスタマイゼーション(製造業―NIKE By You, ZOZO Suite)、パーソナライゼーション(Web系サービス-Google Now, Yahooニュース)や、プラットフォームにおけるバライエティの確保と個別最適化の実現(Udemy, Didi)として事例が紹介された。
  3. 第3の要素は「個人化」であり、企業という枠を超えて個人が活躍する特徴である。ここでは、フリーランスの増加(米国では5730万人、35.8%に登るという)、クラウドソーシングでの展開、You-tuberとして誰もが個人でTV局との類似のサービスが提供可能となっている事例が紹介された。また、インフルエンサーマーケティングの広がりや、さらには、会社に代わる新しいコミュニティ(ワーキングスペースとしてのWe-Workなどでの交流と刺激)などが紹介され、コラボレーションの拡大とともに、働き方の転換が起きており、大企業時代の終焉が指摘された。

 
 こうしたデフレーミングは3つのレベルで環境変化(①資源配分の効率化、②個のエンパワーメント、③取引コストの劇的削減)が追い風となっている点などが議論され、またブランドとの関わりとして「信頼」問題がクチコミ、信用スコア、トークンなどの事例の提示とともに議論され、ブランドの持つ信頼性、情報の増殖などで活発な論議が交された。また、デフレーミングとインダストリー・イノベーションの捉え方の近接性についても、
・プラットフォームを中心とした事業の組み替え(産業構造の変化)
・あらゆる業種における個別最適化(サービスイノベーション)
・個人化による事業体の枠組み、社会構造の変化
などの点で今日的な状況として共通して通底する様相を持っているとの意見が交わされた。
 

集合写真
 
(文責:森 一彦)

 
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