第16回ソロモン流消費者行動分析研究報告会レポート「応援消費は社会を変えるか?:コロナ禍における新たな消費について考える」 |
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第16回 ソロモン流消費者行動分析研究報告会(オンライン) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:応援消費は社会を変えるか?:コロナ禍における新たな消費について考える
報告者:水越 康介 氏(東京都立大学 経済経営学部 教授)
増田 明子 氏(専修大学 商学部 教授)
津村 将章 氏(中京大学 経営学部 准教授)
松井 剛 氏(一橋大学 経営管理研究科 教授)
司 会:浦野 寛子 氏(立正大学 経営学部 教授)
日 程:2021年10月11日(月)19:00-21:00
場 所:Zoomによるオンライン開催
【報告会レポート】
コロナウイルスの感染拡大で、私たちの生活は一変しました。特にマーケティングの観点から、これまでにない新しい消費者行動が多く見られるようになりました。そのひとつが、今回の研究会のテーマとなっている「応援消費」です。
「応援消費」は、2020年の『日経MJ』ヒット商品番付で「大関」に選ばれました。「応援消費」は2011年の東日本大震災以降に見られるようになった消費者行動であり、今では企業やファンを応援することも意味するようになっています。この言葉が本格的に定着したのは、コロナウイルス以降のことです。なぜ私たちは寄付やボランティアではなく、消費を通じて誰かを応援しようとするようになったのでしょうか?この考え方は、どのように広まってきたのでしょうか?応援消費に対する意識は世代などで違うのでしょうか?
今回の研究会では、「応援消費」という新語に焦点を合わせて、2つの研究成果を共有しました。ひとつは、水越康介氏(東京都立大学)が上梓された新著『応援消費の謎:消費・寄付・ボランティア』(碩学d新書)の内容紹介です。「応援消費」に生まれた新しい意味と社会との関係について語って頂きました。もうひとつは、増田明子氏(専修大学)・津村将章氏(中京大学)・松井剛氏(一橋大学)の研究プロジェクトの成果報告です。応援消費に関する消費者サーベイ調査について報告頂きました。
2つの研究報告の詳細は以下の通りです。
① 水越康介氏による研究報告
応援消費という言葉について、応援と消費がどのように結びついてきたのかについて紹介しました。興味深いのは、1995年ごろにはこの結びつきは「眼からウロコ」の発想だったこと、しかし2011年ごろには、むしろ当たり前で当然のことだとみなされるようになっていたということです。この変化について、ひとつには1995年以降の情報技術の発展、そしてもうひとつの点として、社会問題を市場の力を用いて解決しようとする新市場主義的な発想が同時期に広がってきたことを確認しました。消費を通じて何かを応援できるという考え方は、従って新自由主義的な発想のフロンティアであり、新しい時代への挑戦として捉えることができます。
② 増田明子氏(専修大学)・津村将章氏(中京大学)・松井剛氏(一橋大学)による研究報告
応援消費に関する消費者のサーベイ調査の結果について紹介をしました。消費者の応援消費の動機について、2つの視点(1)年代、(2)支援態度(HAS: Helping Attitude Scale)の高低により分析を行いました。まず、(1)年代について、若年世代は利己的な動機、高齢世代は利他的な動機により応援消費が実施される傾向があること、そして若年世代の方が、「応援消費」というラベルの情報が提供されることにより応援消費を行う傾向があることが示されました。これは、メディアによる広告の有効性が示唆される結果といえます。次に(2)支援態度の高低ですが、世代を問わず、HASが高い方が利他的であること、そして定量分析でHASが高い方が将来的な志向をもち、定性的な分析においても、社会全体、より広い文脈の視野を持つことが明らかとなりました。
以上、2つの報告を踏まえて、後半では、これらに基づいたパネル討議を行いました。パネル討議では、「応援消費における情報技術の役割」「応援消費という概念の経時的変化」「市場と社会と応援消費の関係」などについて、報告者同士で意見が交わされました。
質疑では、「応援消費・コーズリレーテッドマーケティング・エシカル消費の概念の類似点・差異点」、「寄付・募金と応援消費の概念の違い」「応援消費の視線の広さ・範囲」「応援消費と年齢の関係」などに関する質問があり、活発な議論が展開されました。
本研究会では、コロナも含めて消費者行動の「変わること、変わらないこと」について、今後も議論をしたいと考えております。またのご参加を期待しております。
報告者と司会者
左上から時計回りに、松井剛氏・浦野寛子氏・水越康介氏・増田明子氏・津村将章氏