第10回プレイス・ブランディング研究報告会レポート「10年目の東北文化 ― 縦糸はどこまで編まれたか?」 |
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テーマ:10年目の東北文化 ― 縦糸はどこまで編まれたか?
講演者: 小岩 秀太郎(縦糸横糸合同会社 代表)
ファシリテーター:長尾 雅信(新潟大学 准教授)
日 程:2021年10月21日(木)19:00-20:30
場 所:Zoomによるオンライン開催
【報告会レポート】
今回のゲスト講師は岩手の郷土芸能「鹿踊(ししおどり)」の伝承者にして,「縦糸横糸合同会社」代表である小岩秀太郎氏です。小岩氏は東日本大震災を契機に「東京鹿踊」ならびに「縦糸横糸合同会社」を立ち上げ,「東北」に残る日本の豊かで深い地域文化を発掘・編集し,他分野・新分野や次代へ繋ぐ企画提案を国内外で行っています。
小岩氏はまず「東京鹿踊プロジェクト」の成り立ちについて紹介してくださいました。東日本大震災前の東北は地域内外の交流が乏しい状態にありました。震災直後、廃墟の中でお祭りをする人々に出会う中で,「なぜ人はこれほどまでに舞い踊り,歌い奏でるのか」という問いを抱いたそうです。また、東北に多くの人々が流入するようになる中で,地域外の人々に対して郷土芸能の「見える化」の必要性を感じるようになりました。ここに東北の暮らしの中で受け継がれている“地域文化(縦の糸)”を見出し,新たな視点や様々な人々(横の糸)をつなぎあわせる小岩氏の活動の原点がありました。
まず小岩氏が取り組んだ「東京鹿踊プロジェクト」はそうした視点をもとに,東北の郷土芸能を通じて,日本全体の郷土芸能とそれにまつわる地域を知ってもらうことを目指しました。そのための仕掛けの一つが,郷土芸能に用いられる道具や衣装を中心とした世代間の交流を生む取り組みです。芸を演じるための道具や衣装には,それぞれ技術の継承も含めた物語があり,それを作る人々がいます。実際の作り手であるお年寄りに,そうしたお話を伺うことも重要な活動でした。これにより受け入れる作り手も外の人々に少しずつ話をする流れが生まれていきました。その後も、郷土芸能のワークショップを通じて,子どもや外国人にもどのように伝えるのか,様々な関係者が理解を深めながらプロジェクトを動かしていきました。
こうした中「縦糸横糸合同会社」設立への流れが生まれていきます。縦糸横糸合同会社は小岩秀太郎氏が縦糸的視点(郷土芸能)をもち,山田雅也氏が横糸的視点(情報発信)をもった会社です。郷土芸能・文化は閉鎖的といったイメージを持たれがちで,これに対しイメージと情報の整理の必要性を感じたそうです。小岩氏らは郷土芸能・文化に対する再定義を通じて,興味が無かった人々にどう興味を持ってもらうかといった課題への答えを深めていきました。
ある意味,臆病であった伝統文化の担い手の縦糸と,新しい関係を生み出す横糸をどうつなぐか。こうした課題にこたえる小岩氏ならびに山田氏のさらなる挑戦として,東京鹿踊とビジュアルデザイン会社WOWによる「BAKERU 世界の化けるに出会う」プログラムを最後に紹介してくださいました。プログラムでは「人間が化ける」ということをテーマに,ネイティブ・アメリカンの協力も仰ぎながら,デジタルアート作品が作られました。郷土芸能はリアル,デジタルアートといった形のないもので表現されるもの,この2つの融合により,見てもらう,体験してもらうという流れを作ります。
日本の伝統文化とアメリカの伝統文化をつなげる本プログラムの派生として,小学校巡回展を行ったそうです。芸能は近くにあるかもしれないが,出会ったことがない子どもたちに対して,日本の芸能文化に触れてみる,知ってもらうことで,やってみたいと思う子供たちが増えていく,という願いが込められていました。
本来,郷土芸能は地域に根差した身近なものであったはずでした。その一方でイメージが先行し,数多くの演者や担い手との接点が持ちにくいと感じられることもありました。これに対する小岩氏らの取り組みは,担い手中心の文化の情報発信に留まらない,地域の内外の多様な人々を巻き込んだ新たなビジネスモデルの可能性を感じる取り組みです。
小岩氏は最後に「子ども達にとって自分たちが住んでいる場所に誇りを感じることができるような活動を今後の目標としたいと」しめくくりました。研究会として今後も小岩氏をはじめ縦糸横糸合同会社の取り組みを追い続けたいと思います。
参加者との記念撮影
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