第9回ブランド&コミュニケーション研究報告会レポート「住めば都は本当なのか?~住みここちランキング個票データを用いたビッグデータ解析から分かること~」 |
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テーマ:住めば都は本当なのか?~住みここちランキング個票データを用いたビッグデータ解析から分かること~
ゲスト:宗 健 氏(大東建託賃貸未来研究所 AI-DXラボ所長)
日 程:2022年1月22日(土)10:00-11:40
場 所:Zoomによるオンライン開催
【報告会レポート】
本研究会では、宗健氏(大東建託賃貸未来研究所AI-DXラボ所長・元リクルート住まい研究所所長)をゲストとして招き、地域ブランディングを含む街づくりや、今後の日本社会における住まいと幸福感の関連性などの諸問題について、多面的な議論を行った。
宗氏からは、「いい部屋ネット街の住みここちランキング」の個票データを用いた多変量解析の結果と、そこから見えてくる現代社会の人々の暮らしの満足感や価値観などについての報告をいただいた。「いい部屋ネット街の住みここちランキング」は、日本全国から3年間で約50万人の回答を集めた大規模調査データである。居住満足度は「生活利便性」「行政サービス」「親しみやすさ」「交通利便性」「静かさ・治安」「物価・家賃」「イメージ」「自然観光」の8因子から測定される。例えば、世間一般には「住めば都」という通説があるが、それはデータからサポートされるのだろうか。宗氏の研究結果からは、居住年数と居住満足度との間には正の関係は認められず、むしろ非流動的で濃密な対人関係は居住満足度を押し下げる効果を持つことなどが指摘された。都市部、郊外、地方の3つのクラスターに分類した分析結果からは、地方は高齢者の居住満足度は高いものの、女性や若年層においては満足度が低いことが示された。また、結婚や子供に関する個人の価値観、仕事や自分自身の未来に対する展望なども、満足度に対してクラスターごとに多様な影響を与えていた。最近では、コロナ禍によるリモートワークの導入によって、地方への移住の魅力が語られることもあるが、データからは都市部への居住意向の高さも浮き彫りになった。
膨大なデータ分析結果に基づく宗氏の提言のひとつひとつは、いずれも鋭い洞察と示唆に富んだ内容であり、講演後の質疑応答の時間は大いに盛り上がった。多くの参加者から、賛同の意見が述べられるとともに、日本の人口減少、高齢化社会に向けた対策、地方のジェンダー問題など、様々な観点から意見交換が行われた。
「住みたい街」と「住みここちがよい街」は異なり、「引っ越したい街」と「引っ越した街」は異なる。宗氏の分析は、居住地と幸福感をめぐる人々の本音と建て前を鮮やかに描き出している。日本社会の未来に対する鋭い示唆は、今後の都市政策において重視されるべき視点であると思う。
(文責:杉谷陽子 上智大学経済学部・ブランド&コミュニケーション研究会リーダー)