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研究報告会レポート

第6回ヘルスケアビジネス研究報告会レポート「ヘルスケアビジネスのインサイトを個人の内面や環境の相違から探る」

#いまマーケティングができること

第6回 ヘルスケアビジネス研究報告会 > 研究会の詳細はこちら
テーマ:ヘルスケアビジネスのインサイトを個人の内面や環境の相違から探る
日 程 :2022年3月5日(土)9:00-11:10
場 所:ZOOMによるオンライン開催
進 行:香川 勇介 氏(日本マーケティング学会理事・サロン委員、中央大学大学院 戦略経営研究科(博士後期課程))
司 会:真野 俊樹 氏(中央大学大学院 戦略経営研究科 教授)
演 者:香川 勇介 氏(日本マーケティング学会 理事)
    劉 瀟瀟 氏(マーケティングコンサルタント)
    タッシル 恵子 氏(米国医療通訳&コーディネーター)
    佐々木 祐美子 氏(株式会社万和 代表取締役)

 
【報告会レポート】
 ヘルスケアビジネス研究会は、真野俊樹教授をリーダーに日本のヘルスケアビジネスを探求する研究会である。第6回となる今回の研究会では、「ヘルスケアビジネスのインサイトを個人の内面や環境の相違から探る」というテーマで講演を実施した。オンラインでの開催で40名を超える参加者の下、貴重な情報共有の場となった。今回の研究会では、香川氏の基調講演に続き、海外のヘルスケアビジネスに詳しい劉氏、タッシル氏、佐々木氏から、米国、中国、東南アジアにおけるヘルスケアビジネスの現状や展開、課題についてご発表頂き、私達が目指すべきヘルスケアビジネスについて検討する機会とした。
 
基調講演
講演1:香川 勇介 氏「自己効力感と健康行動サービスに対する満足」
 香川氏は、製薬企業で造血器腫瘍疾患等のマーケティングマネジメントを担う傍ら、中央大学大学院でマーケティング・消費者行動の研究を実践され、本日は、これまでの研究実績から自己効力感と健康行動サービスについてご講演いただきました。健康行動は、予防的健康行動(Preventive health behavior)、病気関連行動(Illness behavior)、病者役割行動(Sick-role behavior)として定義されていますが、特にコミュニケーションが起因となり病状に影響を与えている可能性が先行研究より示唆されました。特にコミュニケーションを阻害する要因として、健康行動サービスの不確実性、健康行動サービスに伴う情報の非対称性、健康行動の実行困難性があるといわれています。既に多くの研究で、健康行動サービスでは、消費者(患者)が積極的に参加しなければ、そのサービスの価値は創造されないとする様々な理論が示されています。本日は、Health Belief Modelについて、構成概念、実証されたエビデンスに基づいて香川氏の研究概要について紹介いただきました。研究を通じて自己効力感を高める仕組みのひとつとしてポジティブ情動とネガティブ情動を駆使している可能性が示されたこと、更に、最近注目している病者役割行動として、早期緩和ケアの介入によって生存期間が延長する先行研究などもご紹介いただきました。また、日本消費者行動学会での研究発表の概要についてもご紹介いただきました。健康行動サービスを考える際に、公衆衛生学、消費者行動論など幅広い視野から患者を捉え、サービスを考えることが重要であると実感することができました。
 
講演2:劉 瀟瀟 氏「米国と中国のヘルスケアイノベーション」
 劉氏は、メガバンク、シンクタンクを経て、現在コンサルタントとして活動しながら経営学博士課程にも在学されています。本日は、米国と中国のヘルスケアイノベーションについてご講演いただきました。まず初めに米国のヘルスケアのイノベーションを支えるエンジェル投資家についてご紹介いただきました。米国の特徴として、自己資産でベンチャー企業を支えるエンジェル投資家の存在が大きいといわれています。また、エンジェル投資家は、起業家が遭遇する死の谷を回避するための重要な役割を担っています。米国のエンジェル投資家の6割以上は起業経験者で、起業家から投資家という好循環が米国の産業を支えています。次に中国のヘルスケアについて、コピー大国からイノベーション大国へと成長した中国産業についてご紹介いただきました。中国のイノベーションについて、深圳市「10大思想」を参考に、win-winの華僑文化、徹底的な合理主義、リープフロッグ型、世界を視野に入れた国家的な支援が起業家を支えていることをご紹介いただきました。劉氏は、中国のイノベーションはICTなどを活用した合理的産業政策や先進国へ積極的に参入するための国際視野と語学力に支えられているとして、このことは日本のイノベーションに対しても多くの示唆が含まれると述べられました。更に、日本のイノベーションが抱える課題として、社会の流動性の低さから生じるイノベーティブな人材の育成や縮小する国内市場から世界に目を向けることなどの重要性を述べて講義を締め括りました。
 尚、「複眼で見る医療経済とイノベーション」真野俊樹編著、千倉書房にも劉氏の「米国・中国での医療イノベーション」が掲載されておりますのでご参照をお願いします。
 
講演3:タッシル 恵子 氏「米国のリテールヘルスケア アマゾンやウォルマートの進出」
 タッシル氏は、米国サンディエゴ在住、同時通訳/医療通訳/ヘルスケアコーディネータで、昨年の第4回研究会では「米国のヘルステック事情」についてご講演をいただきました。今回は、米国のリテールヘルスケアについて、アマゾンとウォルマートを取り上げ、患者、消費者の立場からご発表いただきました。初めに、米国のヘルスケアの現状について参加者へのアンケートを交えて、予約がとれない、医療費が高い、プライマリーケアや家庭医の不足などの課題が共有されました。タッシル氏は、この様な米国でのヘルスケアに対するソリューションとして、リテールクリニックとリテール薬局、オンライン診療とオンライン薬局という2つのソリューションを提示しております。リテールクリニックとして、ウォルマートが有する規模やリーチによって地域密着の医療が提供されおり、医療が行き届かない地域社会へのパーソナライズケア実現に向けて期待は大きい。実際にタッシル氏の受診の流れから、利用の簡便性、価格の透明性や安さ、おもてなしを感じることができました。オンライン診療の流れも、短時間で診療、診断、処方まで行われます。タッシル氏は、アマゾンファーマシィを活用することで、利便性、言語選択可能な説明資料、安価な薬剤を入手することができるが、玄関放置、同梱発送されず包装資材の無駄、すぐに入手できない、対面での服薬指導がないなど課題もあることも示されました。最後にタッシル氏は、ヘルスケアビジネスプロバイダーに対して、患者(patients)からお客様(clients)そして消費者(consumers)という広い視野でアプローチ、ターゲットしていく時代がきていると述べ、患者中心の時代から消費者の時代へと移行している現状を共有いただきました。
 
講演4:佐々木 祐美子 氏「東南アジアの医療」
 佐々木氏は、病院での臨床検査技師、青年海外協力隊を経てリバプール大学大学院で熱帯医学を学び、その後、アジア、アフリカ、オセアニア地域の計4ヶ国に赴任して国際協力(医療分野)に従事した後、株式会社万和を設立されました。本日は、東南アジアとしてASEANの医療についてご講演をいただきました。ASEAN諸国10ヵ国について、各国の医療市場に対して大きな要因を与える、地理的要因(大陸国と島国)、政治体制(社会主義、立憲君主制、大統領制、立憲共和制、人民民主共和性)、医療の発展状況(先進市場、成長市場、新興市場)から分類を行い、その代表としてベトナム、カンボジア、フィリピンについて、各国の特徴、人口動態、世帯所得分布推移、医療サービスや医療機器市場規模、医療機関と行政、平均寿命・乳幼児死亡率・妊産婦死亡率、死亡要因の変化などについて解説いただきました。また、これらの要因とともに潜在顧客傾向として、生活における重要な要素、や健康増進の取組についての違いについてもご説明いただきました。最後に、佐々木氏からビジネス事例と今後求められるニーズについてご紹介いただきました。フィリピンについてのビジネス事例として、遠隔医療のプラットフォーム事業、消化器内視鏡センター、腎臓疾患の人向けの食品などを挙げ、求められるニーズは、遠隔診療・薬・検診・検査、医療機器とメンテナンス、体重管理等関連サービスなどを示されました。ベトナムについてのビジネス事例として、診療支援システム、介護施設、フィットネスジムなどを挙げ、求められるニーズは、介護サービス、電子カルテ等に必要なIT系のサービス、栄養指導等食関連のサービスなどを示されました。カンボジアについてのビジネス事例として、総合病院開設・運営、医療機器、フィットネスジムなどを挙げ、求められるニーズは、医療機器とメンテナンス、検診や手軽に利用できる検査、サプリメントやエクササイズイベントなどを示されました。
 
 最後に、真野教授から本日の研究会の総括として、マーケティングとして海外展開を検討する際に、各国の地理的・社会的要因、社会険制度、コミュニケーション、消費者視点など幅広い視点から検討すべき多くの示唆を本研究会で得ることができたと講評いただきました。
 
 本研究会では、ヘルスケアビジネスについて新たな知見の共有や討議を通じて、日本のヘルスケアビジネス推進に寄与したいと考えております。ヘルスケアビジネスに興味を持つ多くの方々のご参加をお待ちしております。
 
(文責:佐藤 幸夫)

 
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