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研究報告会レポート

第7回AI研究報告会レポート「プロ棋士とAI」

第7回AI研究報告会 > 研究会の詳細はこちら
テーマ:「プロ棋士とAI」
報告者:冨田 誠也 氏(公益社団法人 日本将棋連盟 プロ棋士)
    依田 祐一 氏(立命館大学 経営学部 教授)
日 程:2022年3月24日(木)19:00-20:30
場 所:Zoom使用によるオンライン開催

 
【報告者プロフィール】
冨田誠也氏冨田 誠也 氏
公益社団法人 日本将棋連盟 プロ棋士
1996年、兵庫県三田市出身。8歳の時にプロ棋士を志し、11歳で小林健二九段門下にて奨励会入会。14歳で入品(にゅうほん=初段昇段)、17歳で三段昇段、三段リーグ15期目(7年半)の第67回三段リーグにて14勝4敗で2位となり四段昇段し、プロ入り(2020年10月)。得意戦法は四間飛車で、生粋の振り飛車党、関西人、立命館大学経営学部卒。
 

【報告会レポート】
 AI研究会は、AI(人工知能)技術の進展に伴うマーケティング研究の論点及び実践的示唆の導出を目的としています。本研究会は、研究報告会(ワークショップ)を開催し、企業実践や関連する理論の理解を深めつつ、企画運営メンバーや参加者と一緒に議論しながら進めています。
 今回、これまでAI研究会で検討してきた、AIと人との関わり(例えば、”Yoda Yuichi, Mizukoshi Kosuke and Honjo Seiichiro (2019) ”A Study of Basis on AI-based Information Systems: The Case of Shogi AI System “Ponanza”, AAAI Proc.)の論点について、冒頭に報告しました。なお、本研究会で、将棋AIに注目している理由は、将棋AIと人間に起こっていることは、AIによるマーケティング実践の問題を部分的に先取りしている可能性があると考えているからです。例えば、デジタルマーケティングの実践では、ECサイト側や商品を提供するメーカーと協働等により、AIを解釈する試みもなされています。将棋は、ルールが固定的な静的な環境であるが、局面は多様であり、未だにコンピュータにより全てのパターンを計算し尽くすことができない複雑さがあり、一意に定められる答えでなく、他にもよい答えが存在しうる状況であり、順次学習を重ねる途上にあります。AI同士も未だに棋力を高め合い、棋士たちは高度な知性によりAIを理解・解釈しようとしています。
 最初の論点として、人とAIによる協働の3つのステージを仮定しています。①「模倣:AIは人の実践データを教師データとして学習」、②.「実装:人は、トライ&エラーによるパラメータの調整を試行錯誤」、そして③「.黒魔術化:人が言語を活用して理解し、理由を説明する」と整理し、人とAIによる対話により知識が創造される可能性とプロセスについて、問題意識を設定しました。
 続く論点として、AIの根拠についてです。ここでは、2種類の根拠(原因と理由)を活用することができるという提案です。まずは、AIをいわゆる物理現象(自然現象)として捉え、ロジックがわからなくても、ある条件のものとで、ある結果が生み出され、根拠として言語に依存せずに、現象の原因を究明することです。他方は、AIを人の能力拡張として捉え、AIが「なぜ」ある結果を出せるのか、その根底を問うのは、AIではなく人間や社会であり、だからこそ、人間や社会が期待するのは、文脈や言語に基づく「理由」であると考えます。つまり、モデルを構築し、理解の根拠となる「理由」を求める捉え方です。
 続いてプロ棋士へのインタビューを行いました。昨今、AIと効果的に関わるプロ棋士の活躍が話題となっており、今回、2021年度の勝率・勝利数ランキングで上位に位置するなどAIを活用しつつ進化を続けるプロ棋士の冨田氏に、事前に準備した質問と参加者からの質問による対話形式で、お話を伺いました。
 具体的な質問は、AIと棋士の対戦の歴史と棋士たちの所感、棋士たちのAIの活用の仕方、「研究会」と称される棋士仲間で行う会号のメンバーや方法、AIと棋士同士の実戦における違い、藤井5冠のAIを効果的に活用していると思われる点、戦略(居飛車党・振り飛車党)におけるAIの評価値の違い、伝統的に継承されてきた定跡(理論)の変化やAIが生み出した新たな戦術・戦型、などです。
 先述の論点に関して、印象的な事実を3点ほどピックアップしておきます。第1に、探索(読み)と評価(形勢判断)の2種類の思考がある中で、実は形勢判断の精度が棋士とAIとの大きな差となっている中で、棋士たちは、自身の本番(実戦)における棋譜を振り返り、特に形勢判断について、AI(棋士によって活用しているAIは違い、形勢判断の評価値にも違いがある)を参照しているという点です。一手、60分を費やすような真剣に思考する場合こそが知識の蓄積となるため、実戦の振り返りが基本ということでした。
 第2に、AIを使いこなしているように見える棋士は、本当の意味でAIの手を解釈しているようであり、いくらAIの示す最善手でも、意味を深く理解していなければ、次に続かないのでかえって不利になってしまうようです。
 第3に連続性についてです。棋士は、過去の手を活かしながら連続性を意識して手を積み上げる傾向があるが、AIは都度、最善手を選択している点です。ここは奥行きのありそうな興味深い事実でした。これらを含め、今後の研究の中で、詳細を考察していく予定です。
 最後に、冨田氏は「将棋の棋譜は、対局者とともに創り上げるものであり、人である棋士は、後世にも残るような棋譜により、人に感動を与えられる立場でもある。自分らしい将棋を指していきたい」と人ならではの抱負を述べられていたことが印象的でした。
 

 
(文責:依田 祐一)

 
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