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研究報告会レポート

第15回プレイス・ブランディング研究報告会レポート「創造都市論から見るアートプロジェクトの可能性」

#いまマーケティングができること

第15回プレイス・ブランディング研究報告会(オンライン) > 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:創造都市論から見るアートプロジェクトの可能性
日 程:2022年5月27日(金)19:15-20:45
場 所:Zoomによるオンライン開催
講演者:佐々木 雅幸 氏(大阪市立大学 名誉教授)
ファシリテーター:徳山 美津恵 氏(関西大学 教授)
 
【報告会レポート】
 今年度のプレイス・ブランディング研究会は学際性を意識しながら,改めて地域について考えていきます。今回のゲスト講演者である佐々木先生は創造都市研究における日本とアジアの第一人者です。創造都市ネットワーク日本の顧問として,ユネスコや全国各地の創造都市の取り組みを支援されてきました。また大学の研究科,研究センターの立ち上げに留まらず,文化庁京都移転,国立工芸館の金沢移転を推進するなど様々なご活躍をされてきました。
 
 佐々木先生によれば「創造都市」とは,「市民一人ひとりが創造的に働き,暮らし,活動する都市」とされています。かつて企業の中にこそ「創造の場」があるとする議論があったのに対し,先生は早くから地域の中に創造の場があると考えられてきました。世界に目を向けると2000年頃から開催されていた国際芸術祭をはじめとするアートプロジェクトは,「創造都市論」の発展とともにあったそうです。ロンドンオリンピックにおいては衰退地域にスポーツだけではなくアートを導入し,パラリンピックでは障害のあるアーティストを招く試みがなされたそうです。他方,アメリカではR.フロリダが「Tolerance(寛容性,雅量)のある地域こそ発展性がある」とした議論を展開しました。こうした現在のSDGsにもつながる創造都市論をめぐる学術的背景が講演内では紹介されていきました。
 それらの議論を踏まえつつ,ユネスコの音楽都市でもあるイタリアの「ボローニャ」の事例が紹介されました。ボローニャは欧州最古の大学がコアとなって発展した都市であり,現在は職人の街でありながらスーパーカーの街でもあるそうです。ボローニャは先生にとって創造都市の論理の中に納得する形で力を与えてくれた都市だそうです。講演では歴史ある取り組みの解説と同時に,佐々木先生と作家・井上ひさし氏とのボローニャをめぐるご縁について興味深いエピソードが紹介されました。
 

 
 また日本国内における様々な事例が紹介されました。「クリエイティブシティ横浜構想」から始まる,横浜の事例もその一つです。造船業衰退後の文化による都市再生はヨーロッパに先例があり(イギリスのグラスゴーなど),横浜は「BankART」による取り組みなど,使われなくなった施設の活用が行われてきました。様々に展開される事業の中で創造都市の軸になるものが,「横浜トリエンナーレ」と位置付けられます。約20年以上続く取り組みは,パラトリエンナーレと包括型アートイベントなどの広がりを見せており,こうした活動の継続性が重要であることが強調されました。
 

 
 続いて創造都市の考え方を農村へ適用し、都市型の芸術祭を過疎地で展開する取り組みについて,エピソードを交えたお話が続きました。過疎地では豊かな自然環境を創造性につなげる,その地域ならではの取り組みへの挑戦が続いています。
 石川県珠洲市における「奥能登国際芸術祭」では,塩田で使われなくなった船をアート作品にするといった,サイトスペシフィック・アートが展開されています。芸術祭後も優れた作品は継続して展示し,地域の人々が守っていきます。このように,その場所にある記憶や環境,生活を呼び覚ましアートとして表現することで,人々とアートが共創関係となっていく様子が紹介されました。珠洲市では廃校の体育館を地区の生活博物館にし,地区の人々の蔵に所蔵されていた生活用品を展示品としています。こうした取り組みが地域に対するアイデンティティや愛着の醸成に繋がる上で重要であり,移住者や企業の誘致へとつながる点が指摘されました。
 
 
 
 その後のフロアでのディスカッションでは,創造都市とアートを軸とした豊かなエピソードも交えたお話について,活発なディスカッションが行われました。これらの取り組みからは大都市型と過疎地の芸術祭という対比も踏まえ,今後の地域へのアプローチに重要な示唆を頂きました。
 

 
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