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研究報告会レポート

第37回価値共創型マーケティング研究報告会レポート「顧客の生活世界にある価値共創」

#いまマーケティングができること

第37回価値共創型マーケティング研究報告会(オンライン) > 研究会の詳細はこちら
テーマ:顧客の生活世界にある価値共創
日 程:2022年6月18日(土)13:00-15:30
場 所:Zoomによるオンライン開催
 
【報告会レポート】
1.「顧客の生活世界にある価値共創」

藤岡 芳郎 氏(大阪産業大学 経営学部 教授)

 藤岡先生は、最初に本研究会で検討を続けている価値共創マーケティングの特徴を確認しました。価値共創マーケティングの最大の本質は、そのフィールドが生活世界にあることです。生活世界には市場メカニズムが機能しないのであり、環境への創造的適応が求められます。企業は、顧客の生活世界における時空間に関心を向け、顧客の価値創造(文脈価値)を理解しながら、そこに直接的相互作用を生み出すことで共創が生まれます。そのプロセスこそが、価値共創マーケティングです。
 この、価値共創マーケティングを実行するうえで大切になるポイントを、藤岡先生は①理念の実現、②価値共創マーケティングの実行、③組織運営の3つに整理しています。最初の①理念の実現とは、顧客との関係が生じる前提や根拠をもたらすものであり、理念を実現したいという動機が大切になります。②価値共創マーケティングは、顧客との接点を通じてコミュニケーションを促進させ、顧客の生活世界における共創が実践されます。さらに、これら①と②の妥当性を明確にしながら組織の内部と外部の資源を統合する能力を発揮する③組織運営が欠かせません。今回ご講演いただくノースオブジェクトの事例は、この①〜③をスムーズに実行している稀有な事例として注目することができます。
 さて、市場メカニズムを想起させず、企業側の価値提案を徒に強みにしようとしない価値共創マーケティングとは、どのような実践によって説明できるでしょうか。藤岡先生のお話しは、直後の講演で拝聴すべきポイントをコンパクトに整理した内容でした。
 
2.「ノースオブジェクトが目指す豊かな日常とは」

竹中 雄一 氏((株)ノースオブジェクト 常務取締役)

 竹中様は、最初に企業概要をご紹介になりました。同社の中核事業はファッションアパレルの商社事業です。アパレル雑貨卸事業のほか、飲食卸事業を手掛けています。しかしながら、近年の同社はこうした事業の枠にとどまりません。その理由は、同社の経営理念にあります。同社は「子育てママ、子育てファミリーの心豊かな暮らしのために」という理念を持ち行動しています。ここでいう豊かな暮らしについて具体的な言及があり「それは『あまりお金をかけず、日常あるものに少し手間をかけて、日々を楽しむ工夫をするといった自分らしい暮らし方』です。だから、わたしたちが提供する商品やサービスは『買った時も買った後も、なるほどがいっぱい詰まったリーズナブルなもの』でなければなりません。そして、衣食住にわたりブランドの世界観を通して、豊かな暮らしの実現に役立つことをいつも考えています。」、従来の「モノ売り」に留まらない挑戦を理念に掲げている点に、大きな特徴があります。
 そんな同社は、大阪府大東市のまちづくりプロジェクトに関与することになります。単なるプレーヤーに留まらず、「北条まちづくりプロジェクト」(「morineki」エリア)のスタートアップ事業となる市営住宅建て替え事業に参画し、本社を移転するとともに、レストラン棟や商業棟といった「keitto」の運営を行います。こうして同地域は2021年3月に、ユニークな地域交流空間が生まれます。今や同社は地域交流空間「morineki」にとって不可欠な存在になっています。
 雑貨卸事業や飲食卸事業を手掛けている同社は、「keitto」内のテナント運営のみならず、手作りの暮らしを促進させるさまざまな体験を提供する企画に参画したり、長らく地域のシンボルだった楠に由来したプロジェクトに関与するなど、いきいきとした生活を彷彿させる取り組みを進めていきます。こうして同社は、既存の事業を核としながら、必ずしも既存事業に執着することなく、むしろ地域課題の解決を契機とした、顧客との関係によるさまざまな取り組みを通じて、事業間のシナジー効果を生み出しながら、あるいは事業自体を拡張するなどして、成長を志向するようになります。いつの間にか、地域密着によって生まれたものが多くの人から支持されるようになり、オンライン・チャネルを活用すれば、大東市の様子を知らない人でも商品を手にすることができます。こうしたユニークな成長を遂げている同社の姿を、豊富な事例を交えてお話しいただきました。
 
3. ディスカッション

司会:今村 一真(茨城大学 人文社会科学部 教授)

 活発なディスカッションが難しいオンライン形式の研究会でしたが、本研究会を象徴するように、今回も60分を超える活発な意見交換が行われました。以下、特徴的なものを挙げてみます。
 
Q:「keitto」で販売されている商品に共通のコンセプトである北欧のエッセンスは、なぜ採用されブランディングされているのか?
A:北欧は自然環境が厳しい。しかし幸福度の高い国として知られている。現地の人々は、自宅で少しの工夫をすることで、豊かな気持ちになることを大切にしている。このことを象徴するように、照明やファッションなどに特徴がある。また、欧州の住宅は石やレンガで建築されたものが多いが、北欧では木造の建造物が多い。さらに、世代を超えたモノを大切にする価値観などもあり、そうした特徴を活かせないかというところに、ブランディングの発想がある。何より、こうした北欧の人々の価値観は、日本人との親和性がある。大東市のプロジェクトは、子育てする人たちを支援する街づくりというねらいがあるため、そのねらいに基づいて、さまざま取り組みを加速している。
 
Q:ヘルスケア・ビジネスを展望すると、新しい傾向が生まれつつある。なぜなら、今後介護は保険だけで賄うのが難しい時代になっている。だからこそ、予防や未病という視点を一歩前進させて、お年寄りが地域に出ていき活躍する、あるいはそこに企業活動を位置づけていくという傾向がある。そういった意味においては、大きな方向性として理解できる。
一方で、オンラインとリアルとの融合をどのように見ていこうとするのか。また、企業としては、どのような顧客をターゲットにしていくのかが問われているが、コミュニケーションの形態によってターゲットとの不一致などが生じていく可能性があるのではないか?
A:出店した地域では、子供会が解散していてラジオ体操が行われていない地域だった。だから、リアルの交流の場を復活させようという議論がある。そうした議論にも参加しながら、自社でできることとは何か、どのような活動と融合できるかを模索している。
ECの利活用もさまざま考えているところだが、ECとリアルでは問題解決しようとする視点すら違うのではないか?と思っている。とりわけ現在の活動においては、目に見えて地域の人たちと一緒に問題解決しているため、ECを軸にしようとしてはいけないのではないかと考えている。ECは無限大の成功を求めていくこともできるが、体験型の成功を求めていくのかで結果は違うと思う。
 
Q:広告ビジネスの現場では、よく「価値共創」というテーマが話題になるが、それはどうも商業用のアピールになっているという思いがあった。広告にすぐに使いたいと落とし込まず、新しい価値を生み出していくにはどうしたらよいか?
A:価値共創を考えて行動していた訳ではなく、無知だからといった方が正しいかもしれない。どちらかというと、子育て世代のママやファミリーが好きになる街はどうしたらよいか考える方が優先されている。すると、それが後付けのように、価値共創ということになっている。つまり、最初から販促などを組み立てて行動していないから、実は回りくどいことをしていたかもしれないし、それが面白いことになるのかもしれない。
例えば、ジャムを作るという企画があった。そのパッケージを子どもたちにデザインしてもらえないか?という依頼があったので、ジャムもできたし、パッケージも生まれた。結果として商材はできあがったし、すごいことができたのだが、それは最初から明確な展望があった訳でもなかった。それがリアルだという実感がある。
 
 さまざま議論を通じて、ノースオブジェクトの活動は、大阪府大東市の地域の人々との価値共創を求めたものであることが確認できました。一方で、なぜ価値共創は大切なのでしょうか?なぜ、管理不能な価値共創を求めて、企業は行動しようとするのでしょうか?こうした疑問が生まれます。これについて、藤岡先生に再び学術的な視点から整理していただきました。
 藤岡先生は、ノースオブジェクトの事例を通じて明らかなこととして、まずは顧客と接点を持つことが意識されている点に注目します。今回の事例でいえば、必ずしも既存の企業活動に縛られない、顧客とのコミュニケーションを重視していく点に特徴があります。組織内部で解決できることと、外部との連携によって対応可能でなければ、コミュニケーションは特徴的になりません。こうなると、既存の企業活動における顧客の問題解決の限界に気づくことになり、むしろ企業活動が機能するために接続すべき部分とつながっていくことの重要性を感じることになっていきます。これが、顧客との接点、そしてコミュニケーションの重視を基盤とした、顧客との関係に軸足を置いた企業活動への転換が促されるようになる理由です。これは、企業が既存の企業活動や業態に留まるものでなくなっていくものにつながります。ノースオブジェクトの事例は、まさに価値共創を契機として顧客との関係から、企業活動の軸足を劇的に変えることができた企業であるといえます。
 本日の研究会をまとめれば、個人のライフスタイルの実現に寄与する企業活動へと転換しているのが、ノースオブジェクトだった訳ですが、そうした価値共創マーケティングを採用できる企業は、極めて自由度の高い組織行動によって成立するといえます。それは、本研究会の村松リーダーがいうように、卸売業による小売業及び小売業を超えた最終顧客への関与という新たな戦略を、明確な理念と強いリーダーシップによる機動的な組織によって達成したと捉えることができ、今後は、顧客とのインタラクションによって共創される価値の明示化が求められているといえます。このように、価値共創マーケティングはマネジメントに強いインパクトを与える力を持っているといえます。本研究会は、これまで価値共創マーケティングの実行に注目し続けてきた訳ですが、そこからは、企業経営における中軸としてのマーケティングの姿が見えてきました。今回も大変示唆の多い研究会となりました。
 
(文責:今村 一真)

 
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