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研究報告会レポート

第16回プレイス・ブランディング研究報告会レポート「プレイス・ブランディングと風土論の関係を探る」

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第16回プレイス・ブランディング研究報告会(オンライン) > 研究会の詳細はこちら
 
テーマ:プレイス・ブランディングと風土論の関係を探る
日 程:2022年7月22日(金)19:00-20:30
場 所:Zoomによるオンライン開催
講 演:「神と妖怪と人が交流する地域マネジメントの現場」
講演者:高田 知紀 氏(兵庫県立大学 自然・環境科学研究所 准教授 / 兵庫県立人と自然の博物館 主任研究員)
ファシリテーター:長尾 雅信 氏(新潟大学 准教授)
 
【報告会レポート】
 第16回プレイス・ブランディング研究報告会では、兵庫県立大学の高田知紀氏をゲストに迎え、プレイス・ブランディングと風土論の関係について議論しました。高田先生は、神社の立地や祭神、さらに地域に伝わる妖怪・怪異譚に着目し、それらを防災や環境保全などの活動を含む地域マネジメントの実践を展開されてきました。また、現代の地域マネジメントの現場において神や妖怪を語ることの意義については、「風土性」「通態性」「物語性」といったキーワードをもとに解説頂きました。
 高田先生は、社会的合意形成の理論と技術、市民プロジェクトのマネジメント、地域と風土性を踏まえた計画論について研究をされてきました。本講演では、地域の風土性を踏まえた計画論に焦点を当て、神社の立地や祭神、さらに地域に伝わる妖怪・怪異譚を防災や環境保全などの活動を含む地域マネジメントの実践事例を紹介頂きました。
 

 
 高田先生によると「神社」とは、地域にとって祭祀や祭事といった信仰と教育・防災・レクリエーション・コミュニケーションの拠点として活用され、地域社会の精神的支柱と呼べる存在とされてきました。高田先生は、神社の立地や空間に注目し、神社が何故その場所に存在するのかを探ることで土地の有様が把握でき、地域づくりや環境保全・防災の実践に活かせると考え、地域住民を巻き込んだ活動を展開されてきました。
 地域に存在するモノや伝承を捉える視点として、兵庫県南あわじ市の沼島にある上立神岩を提示されました。上立神岩は、国造り神話のある場所として有名です。地域に伝わる伝承の中で生活する住民は、その伝承を実際に見たことがないにもかかわらず、体験したかのように意識して生活しています。地域住民は、フィクションとノンフィクションをセットで見ながら生活していると言えます。
 高田先生は、神社の多様な価値や意味を再検討し、現代の防災や都市計画にいかに組み込んでいくか、「神社空間」として地域の多様な価値を共有する空間として捉えられないか、「神社空間」の担い手・使い手の模索できないかと考え、実践に取り組まれました。
 和歌山県の伊達神社(いたてじんじゃ)は、紀ノ川流域に存在する神社で地域の少子高齢化・過疎化による氏子の減少、信仰の空洞化による氏神意識の希薄化、広大な鎮守の森の維持管理の問題を抱えていました。これらの課題を解決するため高田先生は、伊達神社が存在する有功地区の住民と神社周辺地域を歩いて地域防災マップを作成するプロジェクト「ふるさと探検ツアー」を実施しました。「ふるさと探検ツアー」には、地域住民のほか交通工学・都市計画・地域づくりの専門家も参加して、地形や環境・災害リスク・史跡・名所を認識する機会としました。
 

 
 妖怪は、伝統的地域社会において人々には不可解な事象に対する説明装置として思考の合理性をもたらすものでした。高田先生は、妖怪伝承の場所性に注目して、水辺・川・山などに現れると伝承されている妖怪が災害とリンクしていると考えています。実践事例である「妖怪安全ワークショップ」では、地域の危ない場所を歩いて、どのようにすれば災害から身を守ることができるかを地域住民と共有する「防災教育における妖怪伝承の価値モデル」として提示されました。
 

 
 高田先生が本講演で紹介された事例では、「神社空間」と「妖怪伝承」をもとに地域住民の関係性の再構築を目的に実践されました。地域住民と「歩く」ということは、主観的認識が他者の認識や空間の履歴と融和しているプロセスであり、「風土性における通態性」(ベルク、2002)ということができます。
「風土性における通態性」とは、主観と客観・個人と集団・自然と社会を通観する視点を指します。風土性が立ち現れている場所は、抽象的な場や場所ではなく、目の前に現れている「現場」であり、個人が単に認識しているのではなく、他者と存在し認識を共有しているという点で間主観的と言えます。あらゆる事象が、相互に関連しあいながら生起している「現場」のなかの合理性をいかに捉えるかが課題とされました。
 高田先生は、時間的かつ空間的存在である「風土」について「合意形成プロセス構造把握モデル」(高田知紀、2014)を提示され、さらには「風土構造把握モデル」を提示されました。
 その後のディスカッションタイムでは、地域の捉え方(範囲や地名)、地域の人たちを巻き込むための合意形成の仕掛け、コロナ禍での活動のあり方、ニュータウンの可能性などについて活発な議論が行われ、実り多い時間となりました。
 
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